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ゆーづきしの2²  作者: NiR_aSaKi
1/8

1:そこはかとなく平和な日常:異名は機能せず

「……つまり、あなたは今回の事件は幽霊によるポルターガイストによる仕業だと?」

「ええ、その通りです。全ては幽霊の仕業です」


 黒い服を着た妙齢の女性が問うと、如何にも安物な青いスーツを着た男が返した。彼曰く。

「今回の事件の肝は、事件発生現場が密室であったことです。その結果、全員のアリバイが崩れることは無くなった。」

「ええ、ええそうです!誰も事件が起きた時間に一人ではなかったんです!」

 青い服を着た普段は、気の弱そうな女性が金切り声をあげた。彼女は今回の被害者の婚約者である。


「あの人は誠実で贅沢で、よくびとんのバックを送ってくれるほど優しくてお金持ちだったの!こんな陰湿な事件に巻き込まれていいわけないわ!!」

「ええ、ええわかりますとも!」

 青スーツの男が調子を合わせて相槌を打つ。しかし。


「いや、これは犇の仕業ですな」

 そこに和服を着た胡散臭い男が返す。彼が言うには、この世界には犇という地球の血液とも言えるエネルギーがあり、その流れによっては犇から生まれた妖が悪さをするのだと言う。

「あんなに優しく、金払いの良かった方がこんな醜悪な事件に巻き込まれるわけがない。どう考えても犇の仕業です」

 そう彼は力強く断言する。しかし。


「おらには難しいことわかんねえけど、とにかく銅鑼言穴ドラゴンホールがあれば事件も解決するんじゃねえか?」

 そこに、胸に亀と書かれたワッペンが付いてるオレンジ色の胴着を着た、如何にもアメリカンなティーンエイジャーがワックスで髪を逆立てながら返す。

「銅鑼言穴で金くれって頼むと、どうやっても札束が番号の同じ紙幣になっちまう。おら、あいつがいないとハロワに行かなきゃいけなくなっちまうぞ」


 ◆


「……この映画のどこが面白いんだ、はかる?」

「これな、この後銅鑼言穴によって生じたバタフライエフェクトで世界中の時間の概念が曖昧になって、最後には世界中に超巨大竜巻が襲来するようになるんだ。そこを犇と幽霊の力を借りて一時的に収めて、その間に地球意志である排除君との死闘を繰り広げるんだ。ラストシーンで流れる完全排除した排除君UCを聞いた時には思わず泣いてしまったよ」



「最初の推理部分どこいったんだよ!?つか、最後主人公側負けるのかよ!??」

 

右隣に座る相川あいかわ しゅんが僕に返す。


「平さん、嘘ついちゃ駄目ですよ。最後は謎のマジカル太極拳使いのメイドさんが現れて、あなたを犯人ですって……」

「それはあなたを嘘だ」


 左隣に座る夢水ゆめみず ゆだめが某洗脳探偵の設定を持ち出してくる。こいつ、見た目は大和撫子なのだが……。


「そうですそうです、私を嘘です!春ちゃんカワイイヤッター!」

 ドルオタという致命的な欠陥を抱えている。ひょんなことから知り合ったが、当初はこうではなくただの大和撫子だった。整った顔立ちにわずかに残った幼さがとても可愛らしく、スタイルは良好、奥ゆかしく誰にでも敬語で接する料理の上手く、とても賢しい探偵見習いであった。

 だからこそ、あらゆる化学反応を起こし得る触媒である春と会わせても良いと思ってしまった。その結果がこれだ。やはり、身長150cmのポニテで整った童顔と舌足らずの口を持つ主人公体質の別名、漢の娘、相川春は誰に対しても変化を指し示さずにはいられない。


「平!柲が怖いぞ!」

「もー、おじーちゃんご飯はさっき食べたばっかりでしょ?」


 僕は適当に春を流しながら、右手のソファーに目を滑らせる。そこには赤みかかった茶髪をサイドアップに纏めた女の子、瀬川西夏せがわ せいかがポップコーンを抱えたままうたた寝をしていた。誰か今日見る映画について教えてあげながったのだろうか。というのも、今僕らが見ているのは“ポップコーンはいらないよ! 食い切る前に寝るからな!”というキャッチコピーで有名なクソ映画だったからだ。

 その隣には西夏の双子の弟で、既に飽きて野球のグローブを磨く大夏たいかが居た。二卵性双児であるのでそこまで似ておらず、姉の西夏は中肉中背なのだが、弟の大夏は身長180cmを超え筋骨隆々。高校時代は高校球児で、甲子園に出場するほどの実力である。


 その時、僕の携帯が震える。画面を見ると2,3時間くらい前にSNS、ウィスパーに投稿してたコメントに返信が入っていた。


『楽しい映画の時間?苦しい拷問の時間、の間違いじゃないかな(白目)』


 僕は左手のソファーに寝そべっている返信元の柊一ひいらぎ はじめ、通称>>1(いち)を見た。彼は金のある高等遊民らしく、バーゲンダッテを食べながらスマホを弄っていた。自分のアカウントから彼のアカウントを見ると、このクソ映画の実況中継と題してウィスプ、投稿をしていた。勢いは中々のもので、画面上には多数の他ユーザーのコメントが噴き出しに囲われ表示されていた。


『>>1だいーん!!』

『>>1が美女と美少女と男の娘と映画を見てると聞いて』

『それ>>1DIEーんじゃん』

『だれうま』

『春ちゃんは男の娘じゃなくて漢の娘です!!』


(おい、最後の絶対知ってる奴だろ。具体的には左隣に座ってるだろ)

 そう思いつつも


『>>1とニートと、時々ドルオタだって?』

 と返しておく。


案外こういう時間も悪くないって、最近思うようになった。これからも、たまの事件以外はこうやってのんびりしていられると嬉しいなって……。


『スマホ:友沢逢ともざわ あい:撮影終わったわ。ポップコーン買ってからそっち行く』


 長身でスタイル抜群、10人中10人が振り返るような美貌を持った現役モデルな銀髪の女王様からの無駄遣いを告げるウィスパーを受けながら僕は、そう思った。


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