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太陽 -サン-

 サファリが最終予想のカードをめくります。

 そのカードを見て、サファリがくすりと笑います。ツェフェリは目を丸くして、きょとんとしました。そんな二人の反応にアルジャンは首を傾げます。

 出たのは太陽の下で幸せそうに笑う男の子の絵。[太陽(サン)]です。

「最終予想でこれが出るとは、縁起がいいですね」

「いいカードなの?」

 アルジャンが首を傾げるのに、サファリが丁寧に説明します。

「このカードは描かれている男の子が快活に笑っていることからもわかる通り、幸せを象徴するカードです。最終予想でこれが出たということは、ツェフェリとサルジェの行く先には幸せが待っていることを示します。対応策で[吊られた男(ハングマン)]が出ているので、耐え忍んだ先に幸せが待ち受けているのでしょう。我慢した分、報われる、という意味になりそうですね」

 我慢した分、報われる、という言葉に、アルジャンは目を輝かせました。アルジャンは黒人であるが故に、あらゆる我慢をし続けてきました。けれど、その我慢が報われることはないまま、果てには村を追い出された身分です。この結果に、感動せずにはいられません。

 アルジャンはツェフェリの手を取って言います。

「ツェフェリ、今は我慢で苦しいかもしれないけど、いつか報われるなら、ちゃんとそのときにサルジェを受け止めよう」

 意気込むアルジャンに圧されたツェフェリは、首をかくかくと振り、うん、と答えました。

 サルジェは解釈(リーディング)が終わるなり、タロットカードを仕舞い、一人、内心で笑いました。

 このタロット占いで出たもう一つの推測が、楽しみで楽しみでならないのです。

 ツェフェリの雰囲気が和らいだので、ここはお役御免だろう、とサファリは静かにその場を去りました。

「あるたん、楽しみだね!」

 タロットカードの中から、快活な男の子の声がしました。それは六芒星(ヘキサグラム)法の最終予想を出した張本人、[太陽(サン)]の絵に描かれた男の子でした。快活でフランクな彼らしく、[太陽(サン)]の男の子には誰にでも渾名をつけるようです。サファリのことも、あるたんと呼んでいます。

 [太陽(サン)]のうきうきとした様子を微笑ましく思いながら、サファリは頷きを返します。

「ええ。これは面白いことになりそうです」


 サファリは日が落ちてきた頃に帰ってきて、厨房にこもりきりになっているサルジェの元へ訪れました。

「お、サファリ、来てたのか。久しぶり」

「はい、お久しぶりです、サルジェさん」

 サルジェは夕飯の仕度をしているようでした。先日会ったとある街の地主アスクと同等の広さを誇るこの街の地主、ハクアの屋敷ですが、実は召使いが一人もいません。その代わり、炊事洗濯掃除などは、ハクアの狩人としての弟子、サルジェの役目なのです。

 ついでに言うと、サルジェの料理は絶品で、サファリもこの街を訪れるときは、密かにサルジェの手料理を楽しみにしていたりします。

 それはさておき。

 サファリはにやりとその鉄面皮に笑みを浮かべました。サルジェは経験則で身構えます。その笑みは師匠であるハクアが何か企むときの表情にそっくりだったからです。サファリもハクアと似ていて、食えない一面があるので、サルジェは条件反射的に身構えました。

 しかし、身構えた甲斐もなく、サファリはとんでもないことをなんでもないことのように口にします。

「それで、式場は決まったんですか?」

「なっ」

 出し抜けに放たれたその言葉に、身構えていたにも拘らず、サルジェはあからさまに動揺します。

 大事なことなので二回言う、といった調子で、サファリはもう一度はっきりと言いました。

「披露宴の会場は決まっているんですか?」

 あまりにもはっきりと放たれたその言葉に却って言葉が出ません。サルジェは笛吹やかんもびっくりなほどに顔から湯気を立てました。

 鳶色の瞳に動揺を宿しつつ、ようやく言葉を口にします。

「な、何故そのことを……?」

 サルジェはツェフェリの誕生日に間に合わせようとサプライズを準備していました。結局間に合わなかったわけですが、それでも、ツェフェリが喜んでくれることを信じて、秘密裏に計画を進めていました。ツェフェリとぎくしゃくしていたのは、ツェフェリにバレないようにするためなのです。

 ハクアにすら話していないその情報を、サファリがどうやって仕入れたのか、サルジェにしてみれば、疑問で仕方ないのです。

 サファリは悪戯っぽく笑い、一枚のカードを出しました。それは、先程の占いで最終予想に出たカード。

「占いの最終予想で[太陽(サン)]のカードが出たんです。[太陽(サン)]は幸せの象徴であるカードであり、恋愛面においては結婚を意味します」

 そこでサルジェはこれでもかというほど真っ赤になりました。どうやら、サファリの読み(リーディング)は当たっていたようです。

 サルジェが観念したように、訥々と語り始めます。

「ツェフェリと恋人になって長いし、そろそろ結ばれてもいいかなって思ったんだ……ツェフェリを驚かせたくて、喜ばせたくて、俺は一人で計画を立てていた。口の堅い関係者に声をかけて、ある程度の手筈を整えてもらったんだ。

 ……ただ、式場がなかなか決まらなくて。本当はツェフェリの誕生日サプライズにしたかったんだけど……そのせいかツェフェリなんか怒ってるし……」

 サファリの読み通りでした。これはサファリは[戦車(チャリオット)]としての役目を果たさなければなりません。

「僕のつてでいいなら、式場にいい場所を提供してくれる人がいますよ」

「本当か!?」

 サルジェはよほど困り果てていたのでしょう。すぐに飛びつきました。

 [戦車(チャリオット)]は味方を表します。先程の占いで、ツェフェリの味方であることを公言したサファリですが、何も、ツェフェリだけの味方である必要はありません。

 だから今、サルジェに手を差し伸べているのです。

 その後、サルジェはツェフェリに結婚を申し込み、用意周到に結婚指輪を渡して、無事、ツェフェリと仲直りしました。二人の知人が何人か招かれた挙式には、当然、サファリの姿もありました。

 サファリやツェフェリにしか聞こえませんが、タロットたちの喜ぶまいことか。

「サルジェとやら、主殿をちゃんと幸せにするのだぞ」

 [悪魔(デビル)]のカードがそう叫んだのに、サファリは苦笑をこぼしました。

 ツェフェリの花嫁衣装を見て、サファリはただ、こう呟きました。

「よかったね、ツェフェリ」

 その後、ツェフェリとサルジェがどうなったかは、また別のお話です。



タロットカードナンバーⅩⅨ

[太陽(サン)]

基本的な絵柄→太陽の下で男の子が幸せそうに笑っている。

カードの持つ意味→幸せ、円満、結婚


ハッピーエンド。


ですが、タロット売りの旅はまだ続きます。


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