表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らセイド会!  作者: 陽田城寺
あらすじで言うところの一般ストーリー・出会いとか馴れ初め
8/28

大体そんなことがありました、という話。

 まず俺は、ユウに一目惚れしていた。

 決して(なび)かない、群れない、孤高の精神に惹かれた。

 その威容、女性にして凛とした強さと雄々しさを持った姿に惹かれた。

 一週間、気付けば目で追っていた。

 憧れたさ、マドンナだなんて言われた彼女に。

 で一週間、彼女が彼だと知った。

 そこが俺にとって大きな問題だった。

 颯太が言うように、教室の女子派の馬鹿どもが言うように、俺は確かに奴の立派な性器にも触れたし、ユウも男子であると自認している。

 それでも信じられないのだ。

 そもそも女子は男子が好き、という偏見のせいで俺を好きなユウ、いや周一が女であるような気がしてならないのだろう。

 今でも周一が女なんじゃないか、と思ってドキドキしてしまっているのだ。

 そして、俺はその内容を伝えた。

「要はな、女だと思って一目惚れしたんだよ。でも男だから、好きな気持ちが残って、今でもお前が女だったらなぁ、なんて思って微妙な感じなんだよ」

「ふんふん。じゃあさ、女の子だと思ってくれていいから付き合おうよ」

「おっま! がっつくなぁ……」

 ユウが普段見せないような、周一としての笑顔を爛々と輝かせる。

 さっきまでは、以前は素を出すと言ってもあくまでユウになろうとしていたから、彼はいつもいつも恥ずかしそうにしていた。

 けど今はもう。そうしない状況での対話を望んでいる。だから素の周一が多く出ているのだ。

「そういやお前は女として見てほしいんだったな……」

「あははっ、ぶっちゃけ礼貴が僕を好きになってくれたらなんだっていいよ。男でも女でも」

 こんなストレートに言われては、返答に困ってしまう。

 あくまで男。あくまで男なのだ。付き合うという選択肢はない。

「俺はだな、自らの煩悩を振り払うために、お前を男らしく……」

「あっ! じゃあ礼貴が僕と付き合ってくれたら髪だって切るし、ズボンも履くよ? その代りにその前にデートして映画見て……」

「ちょっと待てって! なんか話がズレてるだろ!」

 普段と違い周一は一筋縄ではいかない。まともな議論にすらならない。

「別にいいと思うけどさ。お互い一目惚れだったわけだし」

「いいわけ……って、お互い?」

「うん。僕も礼貴を一目見た時からね、強そうで、格好良くて、孤独で、気が強くって、素敵な人だと思っていたんだ。ああいう人が僕のことを好きになってくれたらな、って」

「ガラが悪いと男に好かれるのか!?」

「ぴったりフィーリングだよ! きっと運命の相手だって、僕はそう思うな」

 子供のように無邪気に笑う周一は、無垢な幼女のような、けれど男。

「だから待てって。こう、違うだろ? これじゃ誘惑するだけみたいな」

「誘惑? 僕はそんなつもりは……あ!」

 今度はユウでも周一でもない、蠱惑的な目で俺に迫る。

「な、なんだよ!」

「ふふ、やっぱり滅茶苦茶僕のことを意識しているんだ。もう堕ちる寸前だね」

「堕ちるってなんだよ……」

 ふいっとユウが離れたかと思うと、そっぽを向いた。

「なんでもない。それよりもうすぐお昼休みだね。ご飯、一緒に食べようね」

 そう、周一は輝くような笑顔で言った。

 何が俺の考えを受け入れるだよ、結局流しているんじゃねえか、一人で納得して。

 正しいとか間違っているとか、男とか女とか、この一週間で大きく考えさせられることになった。

 偶然ユウが、周一がいて、そしてこのセイド会があって。

 社会的に何が正しいのか、俺の中で何が正しいのか、そんなことを考えるた。

 意味があるのか、ないのか、それは分からない。

 でも会長なら言うだろう、考えることをやめるな、と。



 二人そろって授業をサボったうえ、昼休みに一緒に戻ってきたため、クラスメイトの視線が集まる。けれど大きな言及は特になかった。

 というのも、最初に突っかかってきた颯太を俺が問答無用でぶん殴ったからかもしれない。俺が颯太を殴るのは、彼の言っていた通りスキンシップの一つで、激痛は走るものの一つの愛である。無論、行為に及ぶのは怒りや面倒くささがある時だが。

 三人の食事、のんびりした時間、それでも俺にとって周一は目立つ。

 箸使いから食べ物を咀嚼する動きまで、どこか見てしまう。

「どうしたの? 何かついてる? できたら舐めて取ってほしいな」

「ついてねえよ馬鹿」

「おいおい、やっぱそういう関係になったのか? 俺がいない方がいいんじゃね?」

「っざけんなって。こいつは男、俺も男、分かるよな?」

 減らず口を叩く颯太は、適当に言葉を続ける。

「別に男でもユウさんならよくね? いやマジで」

 俺は、溜息で返した。

 にやにやとこちらを見ながら食事を続ける周一を見て、俺はさっさと飯を食って立ち上がった。

 全く、どうして颯太まで馬鹿なことを言い出すのか。

 考えもせず告げる言葉は人の気持ちを踏みにじることになる、会長との会話で俺が得た教訓は充分に発揮していた。



 放課後、セイド会の部室には全員が揃っていた。

「金曜日は速やかに全員集まれるようだな。では皆、毎週金曜日を活動日にしよう」

 会長が言って、棚の後ろからホワイトボードを出した。

「今後もここでは相談ごとや議論を行う。私や百合、剛毅の個人的な活動についても知りたいことがあれば聞いてくれ」

「個人的な活動ってなんすか?」

 不躾に俺が聞くと同時に、教室に敬華が入ってきた。

「なっ、お前また!」

「それよりお兄様、個人的な活動についてお聞きしましょう!」

 息を切らした敬華が、俺の左隣に座った。

 奥に会長と百合、左に剛毅とヒロ、右にユウ、そして手前のここに俺と敬華。

 不思議と席順も決まったらしい。

「百合は女性の権利を認める団体の年少メンバーで、私は社会的性差是正組合という組織の一員を担っている。剛毅はネットのホームページでジェンダー論を展開しつつ、独自の考えを発するサイトを作っていて、そこで手軽な論議をして有志を募ったりしている。とまあそれくらいか。ヒロも私と共に組合に顔を出したりしている。本格的な活動は大学に進学してからだからいまいち成果や報告はできないが、様々なことを大人とすることでコネクションを作れるし、見分も多く広められる。何より学生の立場は便利だ」

 なるほど、これが以前言っていた、それだけではない行動、なのだろう。

 しかしその行いがなかなか個性を出している。分かりやすいと言えば分かりやすい。

 意外というか、最近にデブメガネ先輩こと剛毅を見直した。彼もショタコンなりに色々なことを考えて、かつ性の差別について真剣に向かい合っているのだろう。

「す、すごいですね! みんないろんなことをしているんですね!」

 敬華が馬鹿っぽく普通なことを言う。みな無言で、ただ俺だけが溜息を吐いた。

「はっはっは、誰だって何かしているものさ。無駄に思えることであっても、趣味であっても、その行いに、かけた時間に、必ず意味があるものさ」

 会長はどこか遠くを見るような目で、しみじみと言った。

 それに剛毅も百合も、共感するような遠い目をしていた。

 初め、このセイド会ができる前、三人は一体どのように出会い、どのようにこの会を結成したのだろうか。

「無駄な努力なんてない、そういうことですね?」

 周一が呟いた。

 わざわざ復唱したのは、それは彼にとっても重みがある言葉だからだろう。

 女性になる努力、自分を貫く努力、普段ふざけているような周一だが、きっと本性としては颯太の見立て通り、そして俺の見た通りの強く気高い心の持ち主なのだ。

 考えれば考えるほど、俺には遠く及ばないところに、四人の心はあるのだろうか。

 敬華くらいの馬鹿がいてくれりゃ、俺も安心だ。

「で、今日は何するんすか?」

「うむ、では今日の議題は……」

 色々気になることもあれば、腑に落ちないこともある。

 傍から見れば馬鹿にされるだろうし、正気を疑われることもあるだろう。

 それでもきっと、ここで考え学んだことは無駄にならない。

 今の俺ならそう信じられる。

気が向いたらメンバーの仲を進展させたりするかもしれませんが、ひとまずはだらだら議論をしていく方針です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ