どうしても一度話したくて礼貴が教室を出た時点で後を追いました
お手洗いを済ますと、昼休みもまだ始まったばかりで人が少ない中。
「ご機嫌よう、剣持くん?」
意外な人物が話しかけてきた。
「神堂麗? なんだ」
俺は何となく周りを見回す、が他に誰もいない。
「私が一人ですと珍しいかしら? ふふ、あなたが私にどういうイメージを持っているか、なんとなくわかりましたわ」
まるで自分を卑下するような麗の言葉と視線が俺を刺す。だがそんなつもりは微塵もない。
はっきり言って俺は神堂麗のことは高く評価しているつもりだ。
颯太がマドンナ、と見た目で判断したことがあった。
周一については、最初から俺も納得だった。パッと見た瞬間から心を奪われ、その気高さと誇り高さを感じさせる凛然とした姿は、ただの外見以上に内面の強さも感じさせたから。
だが神堂麗という人間は常に周りに人を侍らせる。ともすればそこらにいる女子高生と変わりない存在だと俺は思っていた。
確かに抜きんでた見た目の良さはあるが、その内面までは推し量れない。
だが一週間も後ろから見ていれば分かることがある。
その多くの人と接することができる能力は、友達を作る、なんて柔な言い方よりも社交力と言うに相応しい。
そして周りの人から共感を集め、自分の味方にする力、決して女子のなあなあの関係ではない、空間を支配する能力というに相応しい。
一週間とたたず、クラスメイトの女子全員の信頼を勝ち取るこの女は、恐怖を布く暴君ではなく――例えるなら民衆を中から支配する詐欺師政治家。
俺がそう判断した人間が、俺の考えを何となくわかった、と言うのだ。その点の言及は必要ないだろう。
「で、一体何のようだ? 俺に話しかけるなんて酔狂なことするじゃねえか」
「あら、私は酔狂者ですのよ? でも、あなたほどではありませんが」
「あ?」
思い切り睨みつけてやるも、麗は笑顔をピクリとも動かさない。
「坂上くんと随分、親密になさっているじゃないですか?」
「ただの部員だ。それ以上でもそれ以下でもねえ」
「今日の二時間目、助けてあげたのも部員だからですか?」
虚を突かれて言葉に詰まる。
ユウが明らかに体調を悪そうにしていたのを、俺は俺が気分を悪くしたフリをしてあいつをトイレに連れて行った。
その諸事情を全て見抜いているのだろう、この余裕ぶりは。
それに気付かれているとは想像だにしなかった。
「ただの友達や部員、ではありません。それ以上の、深い仲です」
「はっ、勝手に言っとけ」
とっとと教室に戻ろうとしたが、聞き逃しそうな声で麗は呟いた。
「同性愛、別に悪いことじゃないと思いますわ」
ギョッとして振り返ると、やはり麗は笑っていた。
「うふふ、意識しているじゃありませんか。部員同士だなんて仰って……」
「テメェが変なことを言ったから驚いただけだ。そういうのに興味あんのか?」
「ええ、あります」
即答に、後ろを向く間もなかった。
「よろしいじゃありませんか、男性同士! 乙女の入る隙のない薔薇の花園、是非お二人で築いてください! 私はそれを陰から楽しんでいますので……」
言うだけ言って麗は俺を横切って教室に戻っていった。
「薔薇……周一が言ってたな、確かボーイズラブの……」
うげっ。
颯太の人を見る目は、凄いのかダメなのかさっぱり分からん。内面の強さは確かにあるが、どこか方向性が間違っていないだろうか。
気高く強い精神と女装する弱さがある周一と、場を支配する強い影響力を持った同性愛好きの麗。
本気でギャグだろ、颯太の言うところのマドンナってやつは。
神堂麗 身長170㎝ 体重59kg 2月18日生まれ
腐女子、という自覚はないが男性同士の恋愛に対して異常と言うほどの興奮を覚える性癖の持ち主。
故に性別についての議論などがあれば非常に寛容な立場を取り、天然の性平等主義者と言える。
赤く派手な制服と豪奢に振る舞われた滑らかな金髪と非常に派手な外見であるが、大手銀行頭取の娘であり、嫌味な部分もなく非常に親しみやすい雰囲気を醸し出す。
苦手なことはないが、漫画を非常に好んでいるためそれを知られることは弱点と言える。またこの学校で珍しく擦れた性格を持つ礼貴に対して様々なカップリングを考えていたことも弱みと言えば弱み。
昔から家の付き合いで冷泉百合とは親しくしていたが、べたべたとくっつく百合を嫌っていた。
しかし男性同士のカップリングを愛する自分が男性と付き合っていいものかという悩みを抱えていたりもする。一人で暮らす財力もあるので、いっそう悩む。