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我らセイド会!  作者: 陽田城寺
セイド会一年・まことしやかに囁かれる黒のマドンナ(♂)・坂上周一
22/28

普通は我慢の限界が来たら声をあげる。けど会長は普通に気持ちを伝えるから凄いんだよ

 二人きりのセイド会で、周一がおもむろに切り出した。

「やっぱりさ、更衣室って一番困るんだよね。男の人に裸を見られるのってやっぱり恥ずかしいし、あれを男女で分けるのが困るんだ」

 本を開いたまま目をこちらに向けて、周一モードで言うが、それで俺にどう反応しろというのか。

「なぁ、議題ならもうちょっとわかりやすく言ってくれ」

「あ、ごめんごめん。で、僕が言いたいのは、多様な性のために個室の更衣室が欲しいんだよね」

 まあこいつは体育の時にいちいち校舎すら違うここに来て着替えるほどだ、そう思うのも当然だろう。

 こいつやヒロは自分の性別が生物性と同じだと割り切れているからいいが、会長はもし一致しない人のことを考えると精力的に活動しそうだ。

「更衣室ねぇ。小学校の時みたいに教室を順々で使えばいいんじゃねえの」

 人数も少ないだろうし、そのためにいちいち用意するのも大変だろう。

 故の個室だろうが、入学者とかクラスの人数なんて決まってないんだから個室ってのも大変だろう。

 今の更衣室は広く、壁際にたくさんのロッカーが据え付けられている状況。しかもロッカーのスペースが足りずロッカーの上に着替えを置く人がいる始末ですらある。……なんて貧乏しているんだろう。

「そんなの不公平でしょ? 僕だって堂々と着替えがしたい!」

「お前はもういいだろ。俺の前で普通に男っぽくしてんだから」

 別に男であることを隠さないのだから、これ以上こだわる必要もないだろう。

 男の自覚があるのだから恥ずかしがる理由もない、もし恥ずかしいとしたら女装に慣れ過ぎたということであり、それは憂慮すべき事態である。

「そ、それはそうかもしれないけど……、でもさ、見られてるって意識しちゃってなんか着替えづらくて……」

 そう周一は顔を赤くして俯いた。

 それは間違いないだろう、クラスにいても目立つ周一がその艶やかな裸体を衆人環視の元に曝すとなれば牝を求める野獣は一斉に牙を剥くだろう。男だけどな。

 冗談はさておき、確かに女装趣味というか、そんな感じの周一にとって飾らない姿を見られるというのは屈辱的なのかもしれず、それと同じような悩みを持つ人間もいるかもしれない。ヒロと違って特に周一はその人たちをかどわかそうと女装しているのだから、裸体を見られることの嫌悪感も一入(ひとしお)だろう。

 個室、というのは俺も高い学費とかを払わされている身としては実に魅力的だが、現実問題学校に直訴なんかは面倒だしできない。

「更衣室、か。男女分けるのは絶対だろうが、そこからどうするかが問題だな」

「そうだね。僕だって男の人の裸を見るのも恥ずかしいし」

「そっちもあるのか……。けど個室ってのはやっぱ高いんだろ。なんか他の案はねえの、お前から」

 市民プールとかでも男女分けてこの学校みたいな更衣室になっている。全裸になる場所ですらそうなんだから、やっぱり高いんだろう。ちなみにこの学校のプールの更衣室は知らない。

 しばらく周一の様子を伺う、彼はふーんと腕を組んで考える。

 普段なら顎に手を当て優雅に黙考するユウの姿だが、腕を組み眉間に皺寄せて唸る姿は逆に可愛げが……ではなく、なんというか、面白い感じである。

「……部室が近くにあればいいんだけどね」

「要は誰にも見られず安心して着替えられる場所があれば、ってことだろ」

「うんそれ! 礼貴は頭の回転が速くていいなぁ」

 こんなことを言われるが、入学時のテストの点数では、俺も好成績と言えど、颯太にもこいつにも麗にも負けていたと発覚した。本当に悔しい、変な奴ばかりなのに……。

「誰にも見られない場所か。ねえだろうな。体操服を下に着てくればいいんじゃねえの?」

「そんなダサいことできるわけないだろ! 効率的かもしれないけどちょっと暑いし蒸れるし……」

「じゃ、場所探すか。今からでも」

「え、今から? ……オッケ」

 はいここで話はほとんど終了である。あとは探す他なし、議論というよりも学校の文句ばかりで気分が悪い。



 放課後、ユウと俺はひとまず教室に戻った。

 当然部室には鍵を掛けて、で教室に鍵はかかっておらず入ることができた。

「まず思いつくのはしばらく待つ、だな。どうせみんな教室から出て行って更衣室に行くんだからな」

「でも、廊下から他の人に見られるでしょ? で、なんでここで着替えているのかって不審がられる、それは嫌だなぁ」

 昔は教室は着替える場所だったが、いまや違うのだ。中学でも全然教室で着替えていたんだがな。

「じゃ、ちょっと移動してみるか」

「う、うん」

 俺が先陣切って廊下を歩くと、周一もぴょこぴょことついてくる。

 教室を三つ挟んで曲がったところに、真っ先に目についたものがある。

「ま、やっぱこれだろうな」

 個室、という条件を立派に満たす密室。実際にここで着替えている人間を俺は一度か二度見た。なんでここで着替えていたんだっけな……。

「トイレ!? えー、それはちょっとなぁ……」

「何言ってんだ。もはやここはお前のための空間っつっていいだろ。鍵閉めて着替える、それでいいだろ」

「でも、男子トイレに入るのは……」

「ああ!? じゃテメェは催したらどうすんだよ? おむつでも履いてくんのか!? あぁ!?」

「い、いや前は本当にごめんって! う、うーん、どうしようかな……」

 凄まれて周一はビビりながら、もどかしそうにトイレを見ている。まるでトイレに行きたいように、である。

「ま、一応他も探してみるか。あればいいんだがな、なければトイレだぞ」

 周一には有無を言わさず、四つの校舎を歩き回った。



 一通り見て回り、夜も遅くなった。

 もはや周一と喋りながら散歩する時間と言ってもよかった。

「ま、私立のくせに枠にとらわれないこの学校が悪いってことだな」

 施設は充分じゃない、規則は緩い、一般的な私立高校と比べると差がありすぎる。

「うん、僕ももうトイレで着替えるよ。こればっかりは仕方ないからね」

 心なしか周一も諦めとかそういう雰囲気なく、素直に認めたようだった。

 今回の問題では、具体的な解決策や妙案は浮かばなかった。

 けれどそれがほとんどの場合なのだろう。

 その状況の中で、制限された状態でどれだけ自分の意にそぐうようにやりくりするか、それをみんなは強いられているのだ。

 だから会長は声を大にして戦う。

 それを、身をもって実感しただけで今回は良しとしよう。


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