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我らセイド会!  作者: 陽田城寺
セイド会二年副部長・男じゃないけど男でありたい・角藤祐
20/28

レッツゴーカラオケ・前篇

まだ行かないし、性別の話もしない。次回への布石ですね。

 セイド会の部室に入ったら、会長以外の四人が既に座っていた。

 俺は気の抜けた挨拶をすると、定位置である入口すぐの椅子に腰かけ、ひとまず周一の様子を伺った。

 読書をしているということは、それほど活発な議論はしていないらしく、ヒロのにこやかな笑顔からして、談笑でもしていたのだろう。

「五人も揃うなんて珍しいな。なんか(はな)してた?」

「特には。強いて言うなら今日は全員揃うからどうしようか、なんてことくらいね」

「揃うのか?」

「会長は来るって言ってたから」

 全員揃うのはいつ以来であろう、三年の人達がいろんな活動しているし、百合は生徒会、剛毅はアニメとか、ヒロは友達付き合いを大切にしているらしいからあまり来れないし、俺と周一の空間であることが多いのだ。

「それでさ、剣持くん、ちょっと僕から提案があるんだけど」

 笑顔のヒロがそう言った直後、扉が開いた。

「おお、おお! 全員集合とは壮観だな……。部長冥利に尽きるよ……くっ」

 感涙するほどのことか、と思ったが実際に涙を流しているわけではない。

 ただよほど感動したのは確からしく、会長の顔は若干赤くなっている。

「で、ヒロは何が言いたいって?」

「みんなでカラオケに行こうっ!!」

 ヒロが叫ぶと、百合以外の、俺も含めた全員がただならぬ視線をぶつけた。

 俺はカラオケなど行ったことがないのだ。そんな提案をされても困る。

「あ、あれ、なにこの空気? 僕なにか変なこと言ったかな?」

「知らん。っつかなんで剛毅と会長までそんな顔してんだよ? 今までそんな話なかったのか?」

 俺と周一は間違いなく初の提案を受けたわけだから、多かれ少なかれリアクションはあるだろうが、三年の人らが悩むことではないだろう。

「いや、私は歌える曲のレパートリーが少なくて……というよりも人前で歌うのが恥ずかしいのだ。だから驚いてな」

「小生も君と歌うのは嫌なんだよ。どうせキモイとかキモイとか言っちゃうでしょ?」

 会長も剛毅も恥ずかしそうだが、同じ反応でこれだけ好感度の差が出るのも不思議なことだ。

「で、周一はなんで嫌なんだ?」

「べっ、別に嫌ってわけじゃないんだけどね!? うん、よく一人で行っているけど、みんなで行くのが初めてだから……」

「ほー。俺はカラオケっての自体が初めてなんだよ。あんま外出しねえからな」

 と、そこで大声でヒロが驚いた。

「カラオケ初めて!? それにヒトカラ!? 友達いないの?」

 ギクッとしたが、同時に周一もかなり狼狽してるようなので、俺はなんとか平静を保てた。んで言い返す。

「ああそうなんだよカラオケ初めてで友達いねえんだよ、悪いか?」

「え、あ、いや、そんなつもりじゃなかったんだけど……ご、ごめんね」

「そんなつもりじゃなかったらどういうつもりだ? 人を蔑むようにしか聞こえなかったなぁ、あぁ?」

 本気でヒロが困り顔になったところで、優しい横槍が入った。

「こらこら礼貴、あまりヒロを虐めるんじゃない。悪気がないのは本当だ」

「へいへい、会長様の言う通りってね」

「ちょっとあんたお姉様になんて口の利き方をするの!? カスの暴力ぼっち男が調子に乗ってんじゃないわよ!? 地獄を見たいのねそうなのね! 鼻の穴から手を突っ込んで奥歯がたがたいわせてやるわよ!?」

 ヒロに投げた攻撃が回り回って散々な罵詈雑言になって戻ってきてしまった。あいつは本当に嫌いだ。

「百合はなんか、一言余計だよな」

「は、なに、あんたが私に文句言うの? ぶっ飛ばすわよ?」

「ああ、それは分かる。この間話をしていたら、『ごめん知らないわ、とんと知らない』と言われて、余計とは言わないが、なんというかなぁ……」

 会長の同意があると、百合の俺に対する敵意は一瞬で会長への同意に変わった。

「そ、そうですよねお姉様!! 私ってばなんていうかおばさんくさいっていうかなんていうかおほほ、までも仕方ないというか?」

 俺と会長は微妙な表情を重ねた。それにまた百合は嫉妬した様子だが、むすっとしたまま口を開かなかった。

「え、ええっとともかく、カラオケ、みんなで行かない? 今からでも!」

「今から? それは少々急というか小生にも予定があるというか忙しいというか大変というかそのちょっとこれからコレがアレだからという感じで」

 見るからに挙動不審の剛毅が精一杯何かを伝えようとしているが、ヒロは笑って受け付けない。

「全員が揃っている今しかないよ! ね、ね、いいでしょ!? いいよねみんな!!」

 ヒロが両手を合わせてお願いをしているが、誰も何も言わない。

 状況を測りかねているのが正直な意見だ。

 予め相談すれば、みんなだって多分予定を開けることはできるはずだ。

 けれどカラオケは所詮遊び、真面目な予定があると行かないし、いつでも遊べると思って後回しにしたり、で結局遊べなくなりそうだ。

 そもそも三人も受験生がいるのに呑気に、というのも問題じゃないだろうか? そのためにまあ、今のうちに遊ぶんだろうけれど。

 俺はそっと周一の方を見ると、周一はこほんと咳払いをして言う。

「べ、別に私は構わないのだけれど?」

「あっそう」

「あっそうって! ……興味、ないの?」

 周一がもどかしげーな顔をして、口元を照れりてれりと本で隠して聞いてくる。なんだそれ、かわい……いやいや。

「興味か……、ここにはあくまで議論だの考えを深めるだの、で来ているからな。全員で遊ぶというといまいちピンとこないだけだ。ま、金ねえから行かねえけど」

「あ、それなら大丈夫。僕が全員分払うよ?」

 ヒロがぱん、と黒革の財布をぱんと叩くと、金属の音がした。ごつく盛り上がっていて、硬貨紙幣ともに多く入っていると思わされる。

「いや、それは悪いだろ」

「うんうんそんなことないよ! むしろお金払うから来てほしいくらい」

 両手を振った後、ヒロは自分の胸を叩いて言う。が、それは本当にまずい。

「そりゃ言い過ぎだ。奢ってもらうのも借りるのも悪いから俺は遠慮するぜ」

「大丈夫、礼貴の分は僕が払うよ」

 今度は周一が似たようなことをするが、当然跳ねのけた。

「いやテメェでも変わらねえっつの」

 金の貸し借りはやめましょう、なんざ小学生ですら散々言われることだ。高校生にもなってそれをするのは流石に気が引ける。

「じゃあ今日はお開きということになるな。ま、せっかく全員揃っているのだ、話し合いに花を咲かせるのもまた一興」

 会長がビジネスマンが持つような鞄を開けようとすると、ヒロがすぐに口をはさんだ。

「嫌です! カラオケ、行きましょうよカラオケ!!」

「い、いや、礼貴が嫌だと言っているじゃないか。無理強いは良くないぞ?」

「でも、たぶんこの調子じゃずっと行きませんよ? ああいうタイプは、一度強引に連れて行かないと!」

 ヒロが会長の説得にとりかかると同時に、周一が俺の説得に取り掛かり始めた。

「ね、ね、礼貴、行こうよ行こうよ。楽しいよ? 歌を思いっきり歌うのって楽しんだよ!?」

「お前、一人でしか行ったことねえんだろ? 人前で歌えんの?」

「れ、礼貴の前なら、いいよ」

「俺だけじゃねえだろ。それに金借りるなんざ情けなくてできねえぜ」

「将来僕と礼貴が結婚すれば、貸し借りはなくなるんだけどね?」

「あ、そうですか。今、会長が百合に敬語使う理由がなんとなくわかったよ」

 どうやら辛辣な言葉だったらしく、周一があまりのショックに思わず椅子を引いた、その目を髪で隠して見えなくしたが、恐らく悲嘆に包まれているのだろう。

「と、友達なら普通行くものだよ、カラオケ……」

 悲しそうな震えた声で周一が呟く。

 友達か。

 絶対にカラオケに行った行かないで変わる関係ではないと思うが、そういうのを一種の指標にしているやつもいるだろう。

 一人でしか行ったことのない周一が、友達とカラオケに行くのが普通、という発言はどういう思いで行ったのか、考えると少し体が熱くなる。

 だが人を騙して馬鹿にするのは良いが、金をせびるような真似は人として駄目に決まっている。

「俺と周一は結婚できねえから無理だな。それならまだヒロと結婚して、ってのが合理的なくらいだ。ま、ありえねえから参加しねえけど」

「ふむ、しかし頑なに断るものでもないぞ、先輩の好意というものは」

 突然の会長の思いがけない言葉に、俺は目を奪われた。

「っつうとなんだ? 金借りろって言う気か?」

「これから生きて行けば、大学のサークルなり会社の歓迎会なり、先輩から奢ってもらうことは一つや二つどころではないほどある。いずれは君も後輩にお金をあげて当然というような時も来るかもしれない。今はこのことに感謝して、お返しは君の後輩にしてあげる、ということでいいんだ。どうかな?」

 言われてみれば、それも正しい意見である気がしてくる。

 お金を頑なに頂かない、という考え方は、頑なに払わないということにも繋がる。それだけ金銭の事情を真剣に考えているわけだからな。

 それは正しく褒められるべき真面目さであると同時に、頭が固いとも言える。

「んー……どうしましょう?」

 思わず会長に尋ねてしまった。敬語使っているし丸投げしているし、頼っているようで心から恥ずかしい。

「ふむ、では他の全員が参加できるなら来る、ということでいいだろう。場合によれば私も、君ではなく未来永劫のセイド会部員のために今回支払うことを厭わないよ」

 ヒロと同じ行為をしようと言うのに、どうしてこの人はこうも格好良いのか。女性ながら、少し憧れる。

「僕、僕は行けます! 全然平気です!」

 まず周一が元気よく声を出した。別にお前が元気でもなんでも関係ないんだけどな。

「私はお姉様が行くなら、お供します。ぜひ、ぜひ!」

 一言余計な三年生も、一心不乱に会長を見つめて言う。

「私もたまには息抜きをしようかな。で、剛毅は?」

 剛毅がゲームから目を離して、周りを確認する。

 で、大きなため息を一つ吐いてから言う。

「流石の小生もエア・リーディングスキルくらいは持ち合わせている。一本いっとくよ」

 そして回り回ってヒロがこっちを期待する顔で見た。

 綺麗に室内を一周したものだ。

「分かった分かった。……じゃあ、お世話になります」

「やった!」

「第三部完!」

 剛毅が意味不明な叫びを発して、全員がそれぞれ荷物の準備を始めた。

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