表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らセイド会!  作者: 陽田城寺
あらすじで言うところの一般ストーリー・出会いとか馴れ初め
10/28

周一の家族変2

 どうしてこうなったのか、三人でスマブラをすることになろうとは。

 今、風呂には敬華が入っていて、ここには高一が三人が揃っている。

「なあ礼貴、敬華ちゃん、なんか印象変わったな。あんなお嬢様みたいな奴だっけ?」

「あれは建前だよ。なんかそうした方がモテるみたいな。お前もすんだろ?」

 言われて颯太は考えている。まあこいつは神堂麗が腐女子だと知って俺との絡みを増やそうと真剣に考える奴だからな。

 敬華の昔の話となると、必然的に周一は黙ってしまうが、こいつはこの時、どんな話をしていても黙っていた。

「……お前、強すぎんだよ」

 周一は一度だけ、顔も動かさず視線だけをこちらに向けるが、すぐに画面に戻した。

 瞬きをしていない。まっすぐ画面を見てペカチュウを動かす姿はプロプレイヤーのようだ。

「わははっ! チーム戦で二対一してんのに勝てねえ!」

「別に、コンピュータ一人加えてもいいよ?」

 実際にノーダメージで一人片付けられている。そんでアピールしている間にちょっとダメージ与えて、ぐらいだからな。まるで勝てない。

「しっかしよ礼貴、敬華ちゃんが一番風呂でいいのか? 普通なんか、女の後のお風呂って方が、こう、げへへ、下品なんですけどね! いやらしいイメージが!」

「敬華は周一のことが好きだからな。で、お前のことも嫌いじゃねえし、今更俺があいつをどうこうってのもねえからな。安心なんだろ」

「へー、そりゃいいじゃん。じゃあ俺敬華ちゃんに告っちゃおっかな?」

 颯太が軽口を叩くが、俺はむしろ薦めていく。

「俺もお前なら安心だ。冗談じゃなく頼みたい」

「ま、マジか?」

 割と真剣なまなざしを向けてくる颯太に、俺も真剣な顔を返す。

 そして、俺達のキャラクターは一斉に吹き飛ばされていた。

「……戦の途中に色恋沙汰なんて、死亡フラグだよ」

 こちらをちらりと見ずに低い声を出す周一の眼からは、電子の光が漏れていた。



「で、なーんで俺が二番目の風呂なんだよ!!」

 風呂場で一人叫ぶのは気味が悪いと思われるが、それでもそう叫ばずにはいられない気分だ。

 その人が使った風呂の湯に欲情すると颯太は言うが、それなら周一が俺の前に入るべきだ。

 別に俺は周一に欲情なんかしない! という強い決意ができるが、絶対に周一は俺の浸かった湯でなんかするだろ。それが怖え。

 別に颯太とはどっちが先でどっちが後でも良いが、できれば間に颯太が入った方が個人的には助かる。周一もどうこうしないだろう。

 適当に体を洗い、頭を洗い、ちょっと浸かって出るだけだ。

 その間、少しだけ周一のことを考えた。

 あいつの弟達はいつまでここにいるのだろう。日帰りではないと思っていたが、数日間ならとても周一をかくまっていられない。

 その辺りは本人と話し合わないといけない。結局すぐに風呂は出た。



「じゃ、次は俺かなー?」

「待って! 僕が入るよ。まあほら、三人とも昔からの馴染みみたいだしそろそろ僕みたいな新参者が消えて募る話を……」

 なんてあけすけな計画、見え透いた色欲。っていうか言葉数の増え方が不自然過ぎるだろ。

「いや待て。颯太、入ってこい」

「なんで!? 別に順番なんてどうだって……」

「じゃ、後でもいいだろ? 俺はお前が俺の浸かった後のお湯でいやらしい何かをするかもしれないと踏んで、そう言っているんだ」

 自意識過剰にも思える発言だが、余すことなく真実を伝えることによって、驚愕の周一から勝利をもぎ取った。

 颯太と敬華からはかなり非難の眼を向けられたりした。

 それでも颯太が風呂に入ろうとした時、周一が叫ぶ。

「待って! そうだよ! いやらしい何かしたいさ! だから僕が先に入りたい!!」

 ありのままを周一までもがぶつけてきた。だがそうなると答えは一つ。

「えっと、敬華ちゃんの手前具体的には聞かないが、風呂の湯を汚すような真似は……」

「大丈夫、飲んだり嗅ぐぐらいで……」

 敬華がドン引きしていることにも気付いていない周一は、なおも続ける。

「頼むよ、颯太。君に迷惑はかけないから……」

「……そこまで言われちゃ、しょうがねえな」

 何故か颯太が周一を認めたように呟いてこっちに戻ってくるが、俺は当然止める。

「ちょい待て。俺の目の前で話を進めてんじゃねえぞ。駄目に決まってるだろうが。お前、俺の気持ちを考えろっつの。颯太、入ってこい」

 目の前で浸かった後の風呂を飲むと言われた俺は、平静を保っている風に見せているが、正直なんか妙に心臓の居心地が悪いような気分だ。気分悪い。

 それなのに颯太と周一は不満そうな顔をする。

「えー、いいじゃんよー礼貴。お前、周一がここまで言ってんのに」

「そうだよ礼貴。別に君に迷惑はかけていないよ。僕はむしろ君と一緒にお風呂に入りたかったのを我慢して、後で入るっていうことにしているんだ。むしろ、これくらいは認めてくれないと、ちょっと家に来た意味がない、っていうか」

「お前、家族から逃げるために家に来たんだろうが! 意味がないとは何事だよ!」

「君の家に泊まることがもはや一番の目的だよ! 一緒に寝よう!」

「死ね!」

 正座している周一の太ももを叩きつけつつ、俺は憤慨して立ち上がる。

「お前らな、俺の家を何だと思ってやがる!? 遊び場じゃねえんだぞ!?」

「……別に、颯太が入った後でも飲むし嗅ぐからいいじゃん」

 周一の極端な言葉に、流石に絶句した。

 颯太も絶句しているし、敬華は魂が抜けてしまったんじゃないかと思うほどの様子だ。

「だめ?」

 周一が過去に、いずれ身につけたいと言っていた赤面上目遣いを使ってくる。

 周一が颯太の後に入っても、犠牲者が二人増えるだけのようだ。

「……じゃあ、俺が何もしないように見張る」

「ええー!? お兄様、それはつまり風呂を覗くということですか!? それはいけません!!」

 敬華が息を吹き返して叫ぶが、残念ながらそれが一番無難に思えた。

 わざわざ悪事を働く周一を野放しにするより、見張って何もさせないようにするのが一番だろう。

 そして周一は男子、敬華が見張るわけにはいかず、一番被害を受ける俺が見張るのも道理。颯太はきっと安易に見逃すだろうからな。

「それって、れ、礼貴と一緒のお風呂ってこと?」

「いや入口から見てるだけに決まってんだろ」

 周一は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔で立ち上がり、風呂場に向かった。

「じゃ、二人で遊んどいてくれ」

「待ってくださいお兄様、見張るなら私が……」

「いや、あの、女の子に見られたくないから……」

 周一が女子力を使い恥ずかしそうに言うと、敬華もこれ以上追及をしなかった。



 で、風呂場。

 着替えから覗くことはないので脱衣所の外で待ち、風呂場の扉が開いた音を聞いて、ひとまず脱衣所に突入する。

 擦りガラスの中の風呂場では周一の人影が、しかし洗濯籠の中の女性用下着がなまなましい。

 しかしそれに気を取られてはいけない、今は周一を見張ることが何よりの優先事項。

 紳士的に一度ノックしてから一声かけて、俺はそこを開けた。

「きゃっ、大胆」

「黙れ」

 湯船に体を沈めている周一は、両腕をちょうど、胸も隠しつつ股間の前でクロスさせるような体勢でいた。

 そしてその表情は、風呂の熱もあってか赤らんで少し恥ずかしそうだが、蠱惑的な笑みを讃えている。

「何か嬉しいことでもあったか?」

 尋ねてみると、耐えきれずに周一は笑い出す。

「う、うくく、これが楽しくないわけがないよ。本当は礼貴、僕の裸が見たくてあんな風に言ったんじゃないの?」

「他に手がないだろ。誰もお前の裸なんざ……いや」

 一つ、周一を乏しめる手段を見つけたので、あえて言葉を切る。

 だがこの時の周一の期待と驚きに満ちた表情、こっちの気が少し悪くなった。

「なんだかんだでお前のちんちんがついているのを一度も見ていないからな。それを確認してみたい気持ちはある」

 周一はそういった男性的なものを頑なに隠し続けているのだ、この状況で逆にからかうことができる。

 と思ったが、周一は複雑な表情を浮かべた。

「……そう。少し悩むね。今更隠すことでもないけど、でも見られて、嫌われたらって思うと……」

「思うとなんだ?」

「見せたくない」

 要はそれである。やっぱりこいつは俺が好きであったユウで、女と思われ続けたいのだ。

 女であったら礼貴は自分を好きになってくれる、そんな考えが周一につきまとっている。

 それはやめなければならない。そんな考えがこいつの行動を縛り、女々しくなっているんだ。

 俺は周一を男らしくすると決め、セイド会に入部した、だから俺が周一を女にしようとしてはいけない。

「周一、それは違う。お前が男だって分かってお前を嫌う奴がいたら、そりゃそいつが間違っている。別にお前は何も悪くねえよ」

「そうは言ってもさ、その人が悪くても、その人に好かれたいんだ。礼貴は、僕のことを、好きなままでいてくれる?」

「変わらねえよ、男だと思ってるって言ってるだろ?」

 そうだ、そうに違いない、半ば思いこむように、俺は自分に言う。

 すると、周一は更に顔を赤くして言う。

「……礼貴の浸かったお湯でしょ? この中で礼貴が汗を、一日礼貴についていたいろんなものが溶け込んでいる。そして、今僕はその中にいる」

「い、いきなり何を気持ち悪い話を……」

「凄く興奮しているんだ。だから、それでも見る?」

 凄く答え辛い質問をされてしまった。

 要するに男の生々しさが最高潮の状態なのだろう。

 俺はその違和感に押し潰されるかもしれないと、少しだけ不安にもなる。

 今まで通り、同じように周一と付き合うことができるのか。

「あのな、股間になんかあるかないかで人間関係が変わるかよ!」

 だが言葉では、俺は強気に言った。

 不安な周一を徒に心配させてもダメだ。

 鼓動が早まる中、周一は恥ずかしそうなままで、また言う。

「……じゃあ、見るの?」

 そう言われると、じゃあ見ないと言いたくもなる。

 だが周一を男足らしめんとするには、今この機会を逃してしまうわけにはいかないだろう。

 今までの関係だけじゃ駄目だ、とは言わないが、今日のあいつの必死さを思えば、やはり自分に男としての自信を持たせる必要がある。

「周一よ、お前は本当は嫌われたくないとかじゃなくて、俺を信頼していないだけなんじゃないか?」

「え、な、何を突然!」

 周一は顔をあげて、驚いた風に俺を見た。

「純粋に、仲が良くないから裸を見られたくないんだろ」

「そ、そこまで言うなら見せるよ! ……見せるよ」

 ほらかかった。周一はまた恥ずかしそうな顔をしながら、もじもじと体を動かしている。

 しかし、さてどうして覗いたものか。

 正直俺だって他人の裸なんざ敬華くらいしか見たことがない。颯太と一緒にお風呂に入ったこともあるが、小学生とかそれくらいの時のことだ。

 まさか人生において股間を見るために男の裸を見る日が来るとは、しかも自宅で、ありえねえ。

 激しい葛藤を抱きながら、純粋な友情と、セイド会の使命感、そこから俺は自分を奮い立たせる。

「よし、見せろよ。ほらスタンダップ」

「下はもうスタンダップして……そんな冗談はいいよね」

 そう、周一は目を逸らしながら湯船から体を出した。

 陶器のように滑らかな肌が湯を纏って一層艶やかに見える。

 けれど女性の体つきではなく、一糸まとわぬ姿では痩身の男性である。

 顔は普段のままだから少し違和感も憶えるが、俺の視線は両の手で隠されたままの下に集まっていた。

「な、なんでまだ隠してんだよ」

「……ぎゃ、逆に君がどうこう理由をつけて僕の裸を見たいだけっていう可能性も……」

「誰が男の裸を喜んで見るんだよ……」

 俺の顔はきっと正直に嫌気を示していただろう。できることなら周一の裸など見たくはない。

 そうすると周一も安心したように、初めて笑顔を見せた。

「だ、だよね! 嫌々だけど、まあ、うん、もろもろの理由で見るっていう感じでね」

 緊張しているのが分かるが、どうもその緊張のベクトルが違うことに気付いた。

「……お前、もしかして嫌なのか? 見られるのが?」

 普段散々セクハラまがいのことをしている周一だったが、その言葉で体を震わせた。

「み、見せたいわけないだろ!? その、恥ずかしいし、男って思われたら、困るし……」

「今更だろ。それにお前が男だってのも周知の事実だ。ほら安心してとっとと見せろ」

「で、でも……」

「何隠す必要があんだよ! ほら思い切って楽になれ!」

 これは俺が変態だと思われるかもしれない光景だ。颯太と敬華が来ないことを切に願う。

 願いながら、俺は続ける。

「なあ周一よ、お前は俺が好きだ。んで俺もお前が友達としては颯太くらいに仲が良いと思っている。別に恥ずかしがることもないし、互いに貶めるようなこともない。……だから、良いだろ?」

 周一の好意を利用している自覚はある。

 だが勇気の決断を必要とするこの場合、それくらいなければ周一は奮い立たない。

「……僕のこと嫌いになったら、一生付きまとうからね」

「ならねえって」

「誓約書、書いてくれる?」

「そこまで……」

 いい加減に呆れて、俺は一歩踏み出した。

「ええっ、ちょっとなにしに……」

「テメェがうぜえこと言いながら隠しているから、もう強引に見ちまおうと思ってな」

「ちょ、ちょっとそれはもう犯罪……」

「大きい声を出すな。敬華とかに見つかるだろ」

 迫力込めて言うと、自分でも本当にそれっぽく聞こえて、ちょっとマジでヤバイと思う。

 周一は怯えたようになりながらも股間を隠して足を浴槽につけた。

「礼貴、そ、それ以上は僕たちの友情にヒビを入れることに……」

「俺はな、もっとお前と仲良くなりたいんだ。分かるか?」

 困ったような怒ったような顔で周一は黙っている。たぶんもう一押しで決まる。

 しかしどうやって押すか。これ以上はちょっと、神堂麗あたりに知られたら本気でヤバくなりそうだ。

 ええい、もう既に片足突っ込んでんだ! どうせなら行くとこまで行くしかねえ!

「友情は駄目でも、愛情、なら……」

 もっとオブラートに包むべきだったと、言ってすぐ後悔した。

 周一は鋭い視線で俺の目を射抜いた。

「嘘だね。礼貴はそんなこと思ってもいないはずだ」

 そう言われるとぐうの音も出ない。困って目を逸らすと、何故か周一は浴槽から片足を出して、近づいてきた。

「お、おい? 何を……」

 突然加速した周一がした行動は、俺に抱き付く、というものだ。

「見たら駄目だけど、実際に感じてみて。触れて、さ」

 俺の太ももの辺りの濡れた感触から熱い何かが伝わるが、正直それどころじゃない。

 胸元で顔を隠すように抱き付く周一にこの激しい鼓動が伝わると、どう思われるか、気が気でない。

「あ、あのな、お前って本当に時々、やることが突然だよな」

「礼貴だってそうだろ。たぶん、男ってそういうものだよ」

 言うと、周一は俺の背中に回した細腕にますます力を入れた。

「礼貴の心臓の音、血が流れる音、お腹の音も聞こえる……礼貴の子供になったみたい……」

「うわお前それ凄く気持ち悪いぞ!? ちょっと正気に戻れ!」

「そんなこと言って、礼貴も興奮してる……」

「お前の気持ち悪さに驚いただけだよ!」

「最初から? 最初から気持ち悪いと思ってたの?」

「いやさっきの台詞から……」

 と言うと、周一は顔をあげて、俺の目をまっすぐ見つめる。

「最初の時から、心臓、バクバクいっているよ?」

 まるで死刑宣告のようだった。

 俺を見上げる周一の顔から、俺も上を向いて目を逸らす。

「いやそのあれだよなんつうか、その……」

 背中に回った腕の感触、少しだけ位置が高くなる。

 背伸びしているのだ、だから周一の顔の位置も自然と上がってくるわけだ。

 そして、足の辺りに感じていたその感触も。

「ねえ礼貴、二人でこのまま……」

「ちょっと待てぇぇぇえええええ!!」

 周一を突き放すと同時に、足を滑らせて俺は倒れた。

 そして、周一のそれを思い切り見た。

「……で、でけえな、おい……」

 正直、引くほどである。

 いや男ってのは朝起きた時にそういうサイズになるものだが、こいつのそれは俺のあれより幾分かデカいのでは……って何の話をしているのか。

周一は何も言わずすぐに股間に手を当てて、浴槽に戻った。

 俺ももう疲れて浴槽を出た。もうあいつがどうしようと好きにしてくれ、という気分だ。




 三人でスマブラしていると、周一がほどなくして帰ってくる。

 無論、敬華と颯太からは散々色々聞かれたが、そこはコメントしなかった。

「はぁ、お風呂、ごちそうさまでした」

「おい周一その言い方……」

 そう言えば、結局周一を一人で風呂に残してしまった。

「よかったよ、礼貴。ふふふ……色々とね」

 駄目だ。俺はたぶん周一にはもう二度と敵わん気がする。

「じゃあ最後に颯太が風呂入る番だな」

 颯太は笑顔を繕っているが、普通に嫌そうな雰囲気が滲み出ている。

 まあ、色々あったうえに何があったか聞かされていないからな。といっても人間三人入った後の風呂というのは、四人家族の俺からしてみれば充分嫌そうなもんだ。三人家族の颯太なら猶更。

「ま、四人で遊びたいならシャワーだけでも浴びてとっとと出てこいよ」

 我ながらナイスなフォローを加えると、颯太の笑顔から曇りが消えた。

「おっ、それいーな! サンキューな礼貴!」

 意気揚々と風呂に向かう颯太を見送るのは三人。

 この三人は、正直居心地が悪い。

 敬華の周一万歳モードはうざいことこの上ないが、周一が安定してユウでいられるというメリットもある。軽く引いて血の気が頭から去っているんだろう。

 しかしゲーム中はどうだろうか、周一が完全に素を出す瞬間でもあるからな。

 一応三人がコントローラーを握っているが、キャラ選択になっても周一があまり集中していないようだった。

「これ、礼貴のお古のパジャマなんだよね……」

「それがどうした? 敬華のが良かったってか?」

 当然下着は新品があってよかった。無論、シックな色で抑えたトランクスであって女性用ではない。

 周一はすぐにコントローラーを持ったまま両手をぶんぶん振って否定する。

「ま、まさか! 礼貴のだからいいんじゃあないかっ!! 喜んで使わせてもらうよ!」

「使うっつうか着るっつうか。まあ勝手にしろ」

 だが、ゲームが始まってからはもう周一の独壇場だ。

 敬華はこれで俺よりもゲームは上手だが、そんな敬華も言葉一つなく額に汗しながら無様に負けている。

「お前でも敵わないか」

「……くっ」

 これでプライドの高い女だから、例え相手が好きな男性であっても負けることが悔しいのだろう。

 美しさの点では負けを認めて配下になったが、ゲームの腕では別問題なのだろう。見た目も腕も差は同じくらい大きいと思うが。

「いいんだよ、チームで来ても」

「お兄様、ならば兄弟パワーを見せてあげましょう!!」

「おお、どうせ敵わんと思うけどな」

 で、ちょっとやってみたが、案の定だ。

「くぅっ!」

 敬華のキャラが全滅すると、容赦なく俺から残機を奪い取る。

「お、お前許可もなしに……」

「にいちゃは黙ってて!」

 こいつはこんなにもゲームに熱くなる奴だったのか、と正直驚いている。

 そんな風に敬華は取り乱しているのに、周一は相変わらず黙って瞳から電子を輝かせている。

 俺は早々に倒されてしまって、綺麗どころの一騎打ちになってしまうが、どちらが勝つかは目に見えている。

 沈黙の戦いが終わって、再びキャラ選択画面になって俺は言う。

「敬華、お前は何もわかっていない。勝つために真剣に黙るのは普通じゃない」

「何言ってんの!? ちゃんとやらなくちゃ……」

「まあ見てろ」

 ヨッシィにキャラを変えた周一だが、これはキャラとかそういう問題でもないのだ。

 敬華の言うことも一理ある、いかに集中するかで実力は変わる、それはゲームだろうが勉強だろうがスポーツだろうが同じ。

 だが同じかそれ以上の集中力があっても、周一には実力も経験も差がある。

 ならばどうするか、周一の集中力をかき乱してやればいい。

 おっさんの声でカウントダウンが始まると同時に、俺は言う。

「なあ周一、実は重大な問題が一つあるんだが……」

 周一のキャラクターが動き始めると同時に、秘策を知らせる。

「家にはベッドが四つしかなく、で親の分で二つ減るわけだから、この四人で二つのベッドを分けなければならない」

 結局周一の攻撃は俺のキャラにクリーンヒットするも、その後に続くはずのコンボを失敗する凡ミス。

「颯太を家に泊める時はいつも俺のベッドなんだよなぁ……」

 これは事実である。敬華が年頃の娘なので当然だろう。

 周一のキャラクターは明らかに無駄な動きが増えて、敬華の攻撃を何度も受けている。

「まあ普通に考えると、俺と敬華が一緒だろうが、まあ敬華にとっちゃ俺達ゃケダモノ三人で、特に変わらねえかもしれねえし、なぁ、どうするかなぁ?」

「け、敬華ちゃんに聞けばいいよ!」

「私はユウさんが……」

 敬華の余計なひと言のために周一が起死回生の一撃を放つが、しかしまだ勝ち目は見えている。

「だがな、こうしたいってのは敬華だけじゃなく、誰にでもあるもんだ。たぶん颯太はいつも通り俺とセットがいいだろうし、お前は俺が良い」

 周知の事実だろうに周一はこの言葉だけで思わずコントローラーを手から滑らす。

「俺もできれば颯太が良いし、敬華はお前がいいだろう」

 この台詞の後から周一が俺のキャラを執拗に狙うようになったが、まだ話は終わっていない。

「で、ベッドをどう割るかだ。多数決なら俺と颯太でお前と敬華なんだが、数の暴力ってのが俺は嫌いだ。だからチャンスをやりたい」

「チャンスって、なに?」

 もはや周一は視線をこちらに向けて話しかけてきた。あの尋常ではない集中力も自分の欲望には勝てなかったらしい。

 にしても、もはやこいつ欲求をまるで隠そうとしない。少し気を抜きすぎだろ。ユウの時の純粋な魅力で勝負、ってのはどうしたんだよ。自分で言っていたわけではないが。

「誰が誰と寝るか、順当な方法で決めようっつうんだよ。別に敬華は男と寝ても平気だろうし、颯太は旧知、お前は同性愛者で間違いが起きない、ってことで結果的に誰と一緒になろうと問題がないからな」

 正直言うと、周一と敬華が一緒になったら周一が犯されるんじゃないかと心配しているほどだ。颯太と敬華に間違いはないだろう、というのは二人を古くから知り親しんでいる俺の思い込みかもしれないが、二人は兄弟のように仲が良いから大丈夫だろう。

 周一は、敬華に押され気味になっている中で答える。

「……で、手段は?」

「考えていいぞ」

「じゃ、倒してから考えるね」

 それだけ言うと、周一はあっという間に敬華のキャラをブッ飛ばして、俺まで攻撃してきた。

「なっおまっ!!」

「甘い甘い甘いんだよぉっ!! そんなことで僕を倒せると思ったの!?」

 こ、こいつ本当は喋りながらでも戦えたんだ。

「ふ、可愛いよ礼貴。荒太が言っていた、エスにでもエムにでもなれる、っていう気持ちが今なら分かるよ。君を虐めるのは本当に楽しいっ!!」

 敬華と俺のキャラが同時に復活するも、瞬く間に俺のキャラがダメージをあまり受けていないのに復帰不可能にまで追い落とされた。

 これがプロ、なのかもしれない。

「僕に逆らえないようにしてあげる……」

 ゾッとするような声で、周一は呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ