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第一嫁 天使地獄 その六

 あのクソ野郎、調べ物に三日もかかってしまった。図書館に半ば監禁されるとは思ってもいなかったぞ。まさか分野外のものを調べさせられるとは思っていなかった。

 あいつ絶対に僕を監視している。だからこんなことをしたんだ。

 明日にはきっとリルミムも帰ってくるだろう。

 ついでにこれだけ徹夜をしたせいで、買い物をする気も完全に失せてしまっている。さっさと帰って寝たい。

 飯を作るのさえも億劫だ。どこかで食って帰ろう。

 そう思った矢先、ふと目に止ったものがある。かわいくて清楚感のあるワンピースだ。

 リルミムに似合いそうだな。

 清楚な中に感じるエロス。それもまたなかなか。

 ……あれだ、徹夜明けというのは、脳を腐らせるらしい。あぶないあぶない。

 さっさと買って帰って寝るか。


 ──結局、本当に帰って寝てしまった。しかも夕方まで。

 目が覚め、リルミムが帰ってくる前に急いで町へ行き、色々と買い揃えておこうかと思っていたら既に帰宅していた。

 こんなことなら眠くてまともな思考ができなくとも、先に買っておけばよかったと後悔してしまう。

「おかえりリルミム。起こしてくれればよかったのに」

「先ほど戻りました。私がいない間、お忙しかったのですか?」

「ああうんまぁ。ちょっと急いで調べないといけないものがあって、図書館にね。それで帰りにこんなものを買ってきたよ」

「あの、これは……」

「いつも同じ服ばかり着ているし、もっとかわいい格好をして欲しいな、なんてね」

「ありがとうございます……。でも、この格好ではやはりダメでしょうか……」

「えっ、ダメというわけじゃないけど、なんで?」

「この服は私がルゥ様の許へ嫁ぐ時に、両親が買ってくれたんです。お金がある人たちにとってはただの安物かもしれませんが、うちにとっては容易く手に入れられないくらい立派なものなんです。とても……とても大事なものなんです」

 泣き出しそうな少女の姿が、自分のあさはかさを実感させた。僕が気楽に考えていたことでも、彼女にとっては大切なことだったのだろう。

「ダメなはずがあるわけないだろ! 両親がきみのために買った服は、どんな高級な服よりも素敵なんだ。でもさ、ずっとそれだけ着ていたらすぐにボロボロになってしまうだろ。それはもったいないと思わないか?」

「ありがとうございます……。私は良い両親と、素敵な旦那様がいて、とても幸せです」

 素敵な旦那様、か。なんて苦しい響きなんだ。

 せめてこの子にだけは、本当のことを打ち明けさせて欲しい。

 だが彼女のことを思うたびに、僕の心にはドス黒い渦が沸き起こる。もちろんそれはルゥに対する悪意や殺意だ。何故自分はここまで精神的に追い込まれなくてはいけないのだろう。


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