たまにはこういう日もあるといい
「おはよう、リルミム」
「おはようございます」
「今日届いた手紙はどこかな」
「今日は、ありません」
え、なんだと?
遠出していた数日分の、溜まりに溜まった手紙を徹夜で捌き、やっと追いついたと思った矢先に、無しときた。
ここ一ヶ月は、ずっと働きっぱなしだったからな。たまにはゆっくりしたい。
「ルゥ様、今日はお仕事無いのですよね」
「そうなるな。久々の休日って感じだよ」
「でしたら、あの……その」
…………あ。
まずい、それは非常にまずい。
なんのために僕は毎日仕事をしていたんだ。彼女らの淫靡な誘いから逃げるためじゃないか。
正直これ以上誘われたら、僕は逃れることはできない。今まで耐えていた分、恐ろしい反動で彼女らを貪ってしまいそうだ。
「あ、じゃ、じゃあ、せっかくだから、みんなを集めて話し合うっていうのはどうかな」
「でも折角こうしてゆっくりできるのですから──」
「ほら、僕は個々と話す機会はあったけど、みんなで話すのってほとんどなかったから」
「そう、ですね。わかりました」
いつか本物のルゥを亡きものにするまで待っていてくれ、リルミム。その時は僕の体力が尽きるまでがんばるから。
「──そんなわけで、今日はみんなで話し合いをしたいと思う」
リルミムが全員を応接間に集め、ソファに腰掛ける。こう全員を見渡すのもなかなか無い機会だから、悪くはないだろう。
「そうリルから聞いているんだけどさ、一体何を話し合うのさ」
「そうだなぁ。じゃあ僕に何か言いたいことがあるかな」
ふとリルミムと目があった。何か言いたいことでもあるのかな。
「私は最後でいいです」
「ん? 別にいいけど」
「後でゆっくり……」
それはまずい。なんのためにみんなで集まったと思っているんだ。
「! それならあたしだって最後がいいよ!」
早速トルテが察し、それに食らいつく。
やばいのが二人いるな。
なるべくこの二人を先にもってこないと、色々と厄介だ。
「よし、ならば来た順でいこうか」
「来た順っていうと、リル、あたし、クレテ、えんりだね」
いい具合の並びだ。えんりなら襲われる心配をしなくてもいいし、クレテだって同じようなものだ。不満そうな顔をしているトルテとリルミムはこの際放っておこう。
「てことでリルミム。何かあるかい?」
「うーんと、そうですね……特に無いです」
「なんか寂しいなぁ。本当に何も無い?」
「私みたいなものが、ここに居させていただけるだけでとてもうれしいんです。なので、あえて言うならば幸せです、としか……」
これは僕が、彼女の願う素敵な旦那を演じれているという証明といえるだろう。だがそれは本当に良かったことなのか。辛い……。
「じゃあトルテは?」
「あたしも特に無いかなー……あ」
「お? 何かあったか?」
「今晩こそは、ね。あ・な・たっ」
今、僕の股間はスタンディングオベーション。総立ちになってワーワーと叫ぶ。
黙れ者共、まだその時ではない。
「ええっと、ははは。クレテはどう?」
「私は別に、どうとも」
なんて微妙な返答だ。クレテらしいが、もう少し言ってくれてもいいのに。
「えー、クレテいつもさ、自分はルゥにふさわしくないから、もっと精進しないと──」
「うるさい、黙れ!」
トルテの横槍に、顔を真っ赤にして叫ぶ。
だけどそう思っていてくれたのか。これは素直にうれしい。
「えんりはどうかな?」
「あのね、うーんと……」
頭の中で、一生懸命言葉を組み立てているのだろう。手をぱたぱたさせながら何かを喋ろうとしている姿が、とても微笑ましい。
「えんりのこと、嫌いにならないし、ずっと居ていいって、すごく嬉しかったの。だからね、大好きー」
えんりの笑顔を見ると、とても安心する。
それは僕だけじゃなく、リルミムやトルテ、そしてクレテまでも笑顔になる。
先日トルテが言っていたように、本当にバランスがいいな。
とても気を使ってくれるが、意外と頑固なリルミム。
すぐに感情をむき出しにし、つっかかってくるけど、正義感のあるトルテ。
よく悪態をつくけど、真面目で頑張り屋なクレテ。
そしてわだかまりとか下らない感情を全て払いのけてくれるえんり。
僕はここに来てから、初めて幸せを感じている。
「それでさ、あんたはあたしらのことをどう思っているの?」
え?
いきなりそんなことを言われても……。
「いや、その、あのー……。あ、用事を思い出した」
「ちょっと、誤魔化さないでよ!」
「リルミム、夕飯は僕に作らせてもらえないかな」
「はい、それは構いませんけど……」
「よーし、たまにはがんばるかなー。まずは材料を仕入れに行かなくては」
トルテの叫びを無視して、逃げるように町へ向かった。




