第四嫁 幼女地獄 その六
「着いたぞ」
「あ、どうも」
御者に起こされ、馬車を降りる。ちょっと寝るつもりだったのに、爆睡してしまった。まあ時間を持て余すよりはいいか。
御者に残金を払い、荷を降ろす。載せるときにも思ったが、一体この箱には何が入っているんだ。着替えとかにしては大きさも重さも半端ではない。
「なあトルテ」
「んー? どうしたのよ」
「今更だけど、随分と荷物あるんだな」
「え? あんたのじゃないの?」
これはおかしい。
二人で自分の荷物を確認しあう。僕が持ってきた荷物は、これと、これだけだ。
「あれ? このでかいやつ、トルテのじゃないのか?」
「違うわよ。あたしのはこれだけ」
随分シンプルにまとめてあった。僕よりも身軽じゃないか。
「とすると、これは一体……」
「あー、多分あれよ。リルが気を使って準備してくれたとか」
その可能性は高い。
しかし一体何が入っているのか想像つかない。これだけのサイズと重量に見合う物。
「開けてみるか」
「そうだね」
スライド式の箱のふたを開けると、そこにはぬいぐるみいっぱいと、えんりが。
……えんり?
「えんり、なんでここにいるんだよ!」
「えんりはね、奥さんなんだよー。だからいつも一緒にいるの」
だからといって、こんな箱の中で一日過ごしたのか。一人が怖いといっていたのに、なかなか度胸がある。
「どうしたものかな、トルテ」
「あたしに聞かれても困るんだけど」
僕も困っている。これは大幅に予定を変えなくてはいけない。
野営をするつもりだったが少し引き返し、目的の場所の近隣にある村に宿を借り、拠点とする。あとはここにえんりを置いていくしかない。
夕食を済ませ、少し遊んでやったら予定通りえんりは寝てしまった。後はトルテと打ち合わせをすればいい。
「それで作戦とかあるの?」
「一応ね。トルテには魔力破棄の防壁を作ってもらいたい」
魔力の塊かつ、魔法で攻撃してくるフェフェに最も有効な魔法だ。
「あたしその魔法知らないんだけどさ、どうするの?」
「僕が発動するから、それを維持してくれればいいよ」
魔法の発動は、その魔法のイメージをしっかりとできなくてはいけない。そして集中力を高め、呪文や印によって行う。しかし一度発動させてしまえば、魔力を供給することで誰でも維持できる。もちろんそれ相応の魔力を消費するから、厳密には誰でもというわけではないのだが。
「それじゃ作戦会議終わり! んでさ、せっかく二人きりの夜なんだし……」
トルテが艶やかかつ、モアエロスな流し目でこちらを見ている。
無理だ無理。これ以上迫られたら、この磨きに磨かれ、妙な輝きを放つ曲槍が初戦を飾ってしまう。
もし許されるのならば、今すぐにでも初陣を華々しくデビューしたいのだが、死に戦とわかっていて飛び出すこともあるまいて。
…………死んでもいいかもしれない。
いいや僕はまだ死ぬわけにはいかん。現実に戻れ、現実に。
「お、おい。えんりがいるんだぞ」
「大丈夫、寝てるから」
寝ていても危険はあるだろ。突然起きてきたらどうするんだ。
横で寝ている子供に気付かれないよう、声を出させずにゆっくりと組み合う。シチュエーションとしてはアリだ。少しやってみたい。
だが今はその時ではない。いつか来るであろうその時まで、我慢。
「そそ、それに明日は早朝から出るんだから、早く寝ないときついぞ」
「早朝って何時くらいよ」
「えっと、夜明け前」
「なんでそんな早く出る必要があるのさ。もう少しゆっくり出てもいいじゃない」
「えんりが寝ている間に出たかったんだ。またついてこられたら大変だろ?」
「うぅー、それはそうなんだけどさ」
「というわけで、僕は部屋に戻るよ。おやすみ」
寝る前に槍を磨いでおくかな。




