第四嫁 幼女地獄 その五
「じゃあ行ってくるよ。えんりが外へ出ないように気をつけてね」
「はい。まだ寝ていると思うので大丈夫だと思いますが、目を離さないようにします」
トルテの荷物と僕の荷物を荷車に乗せ、馬車が通る街道まで押す……のだが、あまりにも量が多い。女の子はこういう時面倒だ。
当然のように荷車を僕だけが牽き、街道へ出る。屋敷の場所が森深いために、普段の何倍も時間がかかってしまった。
へとへとになりながらなんとか着くと、先に行っていたトルテが手を振っていた。
「ねー、あの馬車でいいんじゃない?」
トルテが指した方角から、馬車が来る。黒い馬車は乗り合い馬車で、途中で乗り込むことができる。頭数によって短距離か遠距離かがわかり、用途に応じて使い分ける。
「そうだね、四頭式だから同乗者がいなければこのまま雇うか」
「じゃあ止めるよ。おーいっ」
トルテが道に出て手を振る。馬車は減速し、僕らの前で停止した。
車輪にバネが付いていて、乗り心地をよくしているところを見ると、かなりの高速馬車のようだ。これなら丸一日あれば着くだろう。
「すみません、雇い入れはできますか?」
「あいよ。じゃあ荷物を積み込みな」
町へ寄る手間が省けてよかった。僕らは早速持ち物を荷台へ運び込む。
「それじゃあお願いします。えっと、地図のこの辺りへ」
「了解。とりあえず前金で一〇〇〇」
長距離の御者は無愛想な人が多いが、仕事はきっちりやるから気が楽でいい。
しかし長時間、狭い個室で女の子と二人きりか。何をすればいいのか全く思いつかない。
いや、したいことは山ほどある。しかしそれを実行してはいけないのもわかっている。
こういう時は女の子から言ってもらえれば……って、トルテに任せたら僕の思ったままのことをやられそうだ。先手を打ってなんとかしなくてはいけない。
「なあトルテ……」
「んー、ごめん。今日朝早くてさー、寝るから後にしてよ」
少し残念だが、これはありがたい話だ。寝てしまえば何も問題はない。
僕もその提案に賛同し、寝かせてもらうことにした。




