第二嫁 誘惑地獄 その五
「ただいま」
返事が無い。この時間だったら、いつもリルミムは応接間にいるはずで、玄関を開けたら真っ先に来るはずなのに。
まさか、何か起きたのか? やはり残して行くべきではなかったのか。
いや、応接間から物音が聞こえる。ただ僕に気付かなかっただけか。
「ただいま。何かして……」
思わずドアの隙間から覗いた状態から、隠れてしまった。
僕が留守の間に、一体何があったのだろうか。
もう一度見てみよう。
…………うむ、見間違いではないようだ。
椅子に座らせたリルミムの股に、トルテが顔を近づけている。
「リル、かわいいよ」
「ちょっと恥ずかしい……」
「なんで? 大丈夫だよ」
「でもこんなこと、初めてだし……」
「慣れればどうってことないよ。それに、リルだってもう大人なんだから」
「だけど、えっと……」
「ほらかわいいピンク色──」
僕がいない間に、屋敷はワンダーランドに変貌していた。
有りか無しで言ったら、確実に有りだ。むしろもっとください。
こういうシチュエーション大好きです! ご馳走様です!
ガタッ
しまった、興奮しすぎてドアにぶつかってしまった。
「え?」
「あ、ルゥ様」
こちらに気付いてしまったようだ。残念……無念!
「た、ただいま……。何をしていたのかな」
「おかえりなさい。えっと、これは……」
「リルの足にペディキュアを塗ってたんだよ。ほら見てあげて」
よく見たら、奥側の足は膝を立てていて、椅子の座るところに足をかけていた。
きれいなピンク色の、ペディキュア。
あは、あはは……。
そりゃそうだ。僕がいないからって、二人がそんな仲になるはずもない。
一体何を期待していたんだよ。恥ずかしい奴だ。
……期待して何が悪い!
違う違う、僕はそんなことをしたかったんじゃない。
「リルミム、ちょっと話があるんだ」
「どうかしましたか?」
リルミムを廊下へ誘い出し、不満げなトルテを無視して話をする。
「えっとね、ご両親に引っ越してもらったんだ」
「え……、ど、どこにですか?」
市街地図を見せ、前の家の場所と新しい家にマークを入れる。
「このメインストリートから少し外れて……、ここだよ。日当たりも良くて、なかなか綺麗な家なんだ」
「そんな、なんでこんなことを?」
「ここなら家に専用の井戸もあるし、何も苦労はしない。リルミムはここに来てから、ずっと家族の安否を心配しているだろ? それだと疲れてしまいそうで」
「でも、だからって」
「キミは僕の妻なんだよ。ということは、キミのご両親は僕の家族でもあるんだ。だから自分の家族に何かするのは全然不自然じゃないんだ」
「ありがとう……ございます。ありがとう……」
僕が何故こんなことをしたのか、よくわかった。これだ、この笑顔を見たかったんだ。目から大量に涙があふれているが、それをこらえようともしない。それでいて心底うれしそうな表情。
「あああーーーっ。ちょっとあんた、なにあたしのリル泣かせてるのよ!」
トルテのではない。そして僕のでもない。僕のにしたいが、それはまだ後の話だ。
「トルテは何か勘違いしているぞ。別にこれは悪いことでは──」
「リル大丈夫? 何されたの?」
「うん、大丈夫。なんでもないから……」
「ほんとにぃー?」
そんないかがわしいものを見るような目で見ないでくれ。
でもいいか。リルミムもうれしそうだし、二人共仲が良さそうだ。




