表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

第二嫁 誘惑地獄 その四

 ラインソンに来るのも久々だ。ルゥから特別な買い物を命じられた時くらいにしか来ないから、門から城へ続くメイン通りくらいしかわからない。

 北門から続く大通りを進み、城を迂回して南門の付近にある目的の場所へ。

 フィード区は、話で聞いた程度の知識しかないのだが、予想以上に酷かった。

 日が当たらないと、ここまで状態が悪くなるのかと思うくらいに。

 家の壁や道路にまでコケが生え、全体的にジメっとした雰囲気をかもし出している。

 リルミムの妹はこんなところで暮らしていたから病にかかったのではないだろうか。

 彼女の実家を見たら、その考えは確信となった。入り組んだ建物の奥で、日が当たらないどころか、空すらも見えない場所だ。

 建物の玄関から一人の女性が出てきた。多分リルミムの母親だろう。面影があり、とても美しい女性だ。

「ちょっといいですか?」

「あら、こんにちは」

「失礼、こんにちは」

 リルミムと同じことをしてしまった。さすがに母だ。

「どのようなご用件でしょうか」

こちらを警戒する様子もなく、笑顔で話してくれる。母親を見るとリルミムがよくわかる。

「えっとですね、そのー……。この家を売っていただきたいのです」

「それは──、できません」

「え、何故ですか?」

「私の娘は遠くへ嫁いだのですが、もし何かの折に戻った時、ここに居なかったら悲しむと思うからです」

 少し物悲しそうな笑顔で話す女性から、親の心を感じた。僕の家は放任主義といえば聞こえはいいが、何もしてくれない家庭だったから羨ましい。

「安心してください。僕はルゥ・コーゲンの使いです。新しく引っ越した先は、ちゃんとリルミムに伝えておきますから」

「ルゥ様の……。何故うちをお買いに?」

 確かにこんなボロ……、いや、古い家を買うなんて不審に思うか。

「ではルゥからの伝言を。自分の妻の実家なのですから、それに相応しい場所に住んでもらいたい、とのことです」

 リルミムの親なんだから、きっとリルミム同様の対応をされるだろう。だから申し訳ないが、ちょっときつめに言わせてもらわなければ。

「そうですか。確かにルゥ様の妻の実家が、こんなみずぼらしいところでは失礼ですね。だけどここを売ったとしても、そんなに良い場所には住めませんし……」

「大丈夫です。相応しい場所は確保してありますので、お金はかかりませんよ」

 城のすぐ近くにある一等地でも良かったのだが、それでは逆に気を使いすぎて息苦しくなってしまうだろうから、少し豪華な一般邸宅を選んだ。丁度メインストリートの近くに空き家があり、早速押さえておいた。

「娘の病を治していただいたうえに、そこまでしていただくなんて……」

 泣き出しそうな女性に、何故か罪悪感を覚えた。あまりこの話を引きずるのは善策ではない。話題を切り替えよう。

「そういえば、リルミムの妹さんはお元気ですか?」

「はい、おかげさまで。だけど……」

「だけど?」

「いえ、なんでもありません。すみませんでした」

 また病気になったとか、他に何か起きたとかだろうか。

「聞かせてください。リルミムに安心してもらうために来たのですから」

「あの子はリルミムのことをとても慕っていたので、いなくなってしまったのが自分のせいなのではないかと……」

「確かにそれだと寂しいですよね」

「あの子はもう、うちに帰ってくることはできないのでしょうか」

「まさか、そんなことはありませんよ。彼女は奴隷でもなんでもないのですから、その気になれば、いつでも会えます」

「そうですよね。それで、あの子は元気でしょうか。迷惑をおかけしたりは?」

「大丈夫です。彼女はとてもよくやってくれているので、ルゥも喜んでいます」

「よかった……。それだけが心配だったので」

 色々と落ち着いたら、一度リルミムを帰郷させてあげよう。

 新しい家で家族団らん。きっと喜んでくれるだろう。

 これは僕の独断だ。このことをルゥに知られて罰を与えられるとしても、それを甘んじて受ける覚悟はできている。

 良い行いをしたとも思っていない。ただただ、リルミムに何かをしたかったんだ。

「それではこの辺で……っと、最後に一つ聞かせて頂きたいのですが」

「はい、なんでしょうか」

 大事なことを聞き忘れるところだった。

 しかしなんて聞いたらいいのだろう。

 聞きたい内容は、リルミムがいやらしい……もとい、夜の営みに対して積極的な理由を知りたいわけだが、こんなことをストレートに親へ訊ねるわけにはいかない。

「えーっとですね……ああそうだ、あなたは子供というものをどう思っていますか?」

「子供、ですか。家族だと思っています」

「ああいや、そういう意味では──」

「子供がいるから家族でいられるのです。夫婦はあくまでも夫婦です。子供がいて初めて本当の家族と呼べる。私はそうかんがえています」

 ああ…………。

 リルミムは家族というものをとても大切に考える子だ。

 結婚して新しい家族ができる。それは子供ができて成せることだ。

 リルミムはそういう家庭に生まれてきた。だからあんなに積極的だったのか。

 やばい、断りづらくなってしまった。

 余計なことは聞かないに限る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ