第二嫁 誘惑地獄 その三
さて、今日も仕事、仕事っと。
昨日はロクに進められなかったからな、ちょっと量が多いぞ。二七通か……。
一つずつ目を通しているから面倒なんだな。ざっと見て駄目なやつは取り除こう。
…………んー……。
……んんー?
……くそ、どいつもこいつも適当ぬかしやがって。クソして寝てろ。
ルゥの性格がアレなのは、こんなもの毎日見ているからなのかもしれない。
「おはようございます、ルゥ様。あっ、もうお仕事ですか?」
リルミムは部屋に僕がいないことを確認してか、書斎の方へ顔を出してきた。
「おはよう、リルミム。ああ、昨日ほとんどできなかったから、少しでも早くやろうと思ってね。で、トルテは?」
「まだ寝ていますよ。昨日来たばかりで、寝床にも慣れていないのでしょう」
それはよくわかる。僕も出先で宿の布団に馴染めず、眠気がくるのが遅くなって寝坊するんだよ。
「じきに慣れるだろうし、起こさないでやってくれ。どうせここでは急いで何かをやらなくてはいけない、ということはないんだから」
「そうですね」
「だからリルミムも、こんな早く起きなくてもいいんだぞ」
「いえ、ルゥ様が頑張っているのに、妻としてのうのうと寝ているわけにはいきません」
悪くないんだけど、ちょっと頑固だよな。
「では朝食を作ってきます。今日は奮発してベーコンエッグなんて作ってみようかと」
「ははは、ベーコン多めで頼むよ」
後に持ってこられた、ベーコン山盛りのパンに気持ちが悪くなりながらも、仕事を続ける。だが人の頑張りというものは悲しいもので、努力したからといって報われるとも限らない。早朝から始めた作業で、まともな依頼は無し。はぁ……。
思いのほか早く終わってしまい、どうしたものかと思案に暮れる。
このままだと、リルミムに襲われてしまう。仕事をしているふりというのは、酷く退屈で辛いから長く続かない。ならば仕事と偽って、暫く出かけてくるかな。
そうだなぁ、折角だし、気晴らしついでに少し屋敷を留守にしよう。
いい機会だから、リルミムの両親の元へ行ってみるか。
どうせルゥは金なんてあまり使わないし、このままここへ貯めこんでいるのは経済的によろしくないから、世のために散財させてもらおう。
リルミムの両親のために、家を買って少しばかりの気持ちを添える。
だけどもしそれがばれたら、絶対に何か言われるだろう。
その時の言い訳も考えないと。
「リルミム、ちょっといいかな」
「どうかなさいましたか?」
「リルミムってどこから来たのかなって」
「ラインソンですが……」
「ここからそんなに遠くない大都市じゃないか。けっこういいところに住んでいたね」
「そこの、フィード区です」
南の壁際か。
ラインソンは国境に近いせいか、ほぼ要塞化している。見上げるほどの高い壁に囲まれているせいか、南側はほとんど日が当たらない。そのせいで首都の中にあっても土地は恐ろしく安く、貧民街と揶揄されている。
首都に特別な思い入れとかがなければ、近隣の村とかに住んだほうが圧倒的にいいのだが、何か事情があるのだろう。
「フィード区のどこらへんとか教えてもらえるかな」
「手紙に書いてあったと思うのですが」
完全に手紙の存在を忘れていた。怪しまれていないだろうか。
「そういえばそうだったね、あはは……」
いかんいかん。彼女らの手紙はきちんと暗記しておかなければ。
「あの、私の住所がどうかしたのですか?」
「あー、えっと、ちょっと仕事でラインソンに行くから、様子を見に行こうかなって」
「でしたら私……。いえ、宜しくお願いします」
自分も行きたいと言いたかったのだろう。だけど今回はごめん。




