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序章 登るは地獄、落ちたら天国

「ロート、今日はあなたの誕生日でしたよね」

「へ? はぁ」

 名目上、僕の師匠らしき人物ルゥ・コーゲンが突然、屋敷の掃除をしている最中の僕に話しかけてきた。暦を確認すると、確かに今日は僕の一八年目の誕生日だ。

「あの、それが一体──」

「そうでしたか。それではこれを授けましょう」

 僕の返事なんてどうでもいいらしく、ルゥは手にしていたプレゼントらしきものを押し付けてきた。広げてみると、どうやらルゥが纏っているものと同じ、真っ白のケープのようだ。

 材質も一緒の極上な生地で作られていて、見るからに高価な代物だ。しかもちゃんと採寸されている。

 背の高いルゥのおさがりではさすがにひきずってしまうが、これはぴったりの丈だ。おさがりというわけではなく、ちゃんと僕のサイズに作られている。

「あの、ええっと、どうも」

 本来ならば師匠と同じケープを纏えるというのは、一人前と認めてもらえた証拠であり、とても喜ぶべきなのだろう。だけど僕は別にそれをうれしいとは思わない。

 当然といえば当然だ。弱みを握られ、強制的に無理矢理、強引に……どれだけ言っても足りぬくらいに自らの意思を無視された形で弟子にさせられたのだ。

 師匠と弟子というよりも、人さらいと奴隷といったほうがしっくりくる。

 一応弟子らしく魔法を教わったりもしているが、基本的に雑用ばかりだ。掃除洗濯、食事の用意。僕自身自らを弟子だと思っておらず、下僕の一種として持ってこられたと諦めている。

 そんな状態を続けること四年。何故突然ルゥがこのような振る舞いをしたのか、全く理解できない出来事だ。

「それで、あの、これは──」

「さあ着けてみてください。ほう、採寸をしてあるとはいえ、ぴったりですね。お似合いですよ」

 僕の発する言葉は、ルゥにとって動物の鳴き声程度にしか思われていないのだろう。何を言っても無駄だ……。

 だけど僕を褒めるなど、この男が発するセリフとは思えない。人の良さそうな口調と顔に騙されるほど、僕はルゥとの付き合いは短くない。これは絶対に何か裏があるはずだとは思いながら、どうせ何が起きようとも自分の意思など無視されるんだろうな。もういい加減諦めている。

「それでは暫く留守にしますので、私の代理をお願いしますね」

「はぁ、どうぞ……って、えええぇぇぇ!」

 僕がこの屋敷へ連れ去られてから、ルゥが長期に渡って留守にするなど一度たりともなかった。外出はよくしていたが、どんなに遅くとも二、三日中には帰っていた。それが今になって、留守にするから代理をしろだなんて。あまりの出来事に思わず叫んでしまった。

「私が居なくなると寂しいでしょうが、我慢してくださいね」

「い、いいえいいえ! 僕のことなんて気にせず、いくらでも空けてくださいよ! あ、旅行ですか? それとも冒険? 後のことは任せてください! 立派にやり遂げてみせますよ、はっはっは」

 やばい、あまりの嬉しさに感情を抑えきれない。それはそうだ、これからは毎日この残虐な鬼と離れ、自由気ままに生活できるのだ。これが嬉しくなくて何なのか。

「頼もしいお言葉ですね、ロート。これなら私も安心して代理を任せられます」

 やばい、喜びが隠せない。鏡を見なくても自分が笑顔になっているのがわかる。

 あれ、でもなんだ? 代理を任すって、一体なんなのだ。

「あのー、代理って一体何なのでしょうか」

「聞いての通りですよ。私が今まで行っていた仕事を、代わりに請け負ってくださいね」

「え? ちょっと待って下さい。僕にそんな大役ができるわけが……」

「あとは絶対に、あなたが代理であるとばれてはいけませんからね。今日から暫くの間、あなたがルゥ・コーゲンです」

 また無視された。

 ルゥはどのような相手でも、正体を人前に晒してはいない。もちろん買い物などで人の多い場所へ行ったりはするが、そこに歩いている人間がルゥだとわからなければ、知らないのと一緒だ。

だからといって、何かのきっかけでばれてしまう可能性も拭えない。

「もしばれたらどうするんですか?」

「その時はあなたの魔力供給器パムマテリアを破壊し、一生奴隷としてこき使わせてもらいます」

 人が生まれて世界の空気を吸った瞬間、空の果てにある『黒い大気』と呼ばれる空間に、パムマテリアと呼ばれる、空の魔力を吸収して地上の人間にそれを注ぐ器も生まれる。

 悪しきものを浄化する太陽が沈み、黒い大気に空が満たされた時、月と共に輝く粒子としてその姿を見ることができる。

 それを破壊するということは、魔力が供給されることが無くなってしまうということだ。魔力が無くても死んだりはしないが、一定以上サイズのパムを持つ、いわゆる魔術師にとっては殺されるのと一緒だ。生活の糧を失ってしまう。

 通常では空を見上げたところで、どれが誰のパムだかわからない。

 だけど容量が大きい者が、一気に魔力を消費をしたらわかってしまうときがある。

 夜空に輝くパムの一つが、消えるように真っ黒になってしまうんだ。

 そして僕はルゥに見られてしまった。魔法を使い、パムが消費されているところを。

 パムを破壊する魔法なんて聞いたことがない。しかし歴史上でも最高ランクの魔術士であるルゥならば、それが可能なのかもしれない。

「そ、そんな、ばれないようになんて無理です!」

「大丈夫、誰も私を知っている者はいないのですから。いいですね、決して誰にも正体を知られてはいけませんよ」

 なんだか大変な用を押し付けられた気がするぞ。

 でも、うん。この鬼と離れられるのならば、それほど大変だとは思わない。むしろ大歓迎といったところだ。

 生活なんていつも通りにやっていればいいんだ。普段買い物とかで町へ行っていても、誰も僕の名前なんて知らないんだし、代理だからといってルゥの名を出す必要もない。

「それで、いつ発つんですか?」

「明日の早朝には出ますよ。朝食の準備だけお願いします」

 ハイヨロコンデー!

ルゥがいない日々──。どれだけ夢見たことか。

 今まで寝ている時でも風呂に入っている時でも散々いたずらをされてこられ、もはやプライベートなんていうものは無かった。

 だけど明日から暫く、この屋敷は自分一人の世界だ。

 ならば僕がまず取る行動といえば、やはり魔法の研究だろう。

 基本的に魔術師は魔法の研究をして生活をするものだ。

 新たな魔法を開発するのもよし、既存の魔法を発展させて少ない魔力で使えるようにし、魔術師でない一般人でも使えるようにしたり。

 僕が主に研究したいのは、防御系の魔法だ。

 それでルゥの魔法からパムを守れるようにし、いつか独立したいと目論んでいる。

 ルゥがいる時では研究がばれてそれを打ち破る魔法を考えられてしまう可能性があるから、今度こそがチャンスだ。

 明日が楽しみだと思うなんて、子供の頃以来だ。



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