表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

現実

ー1年後ー




ジャカジャカジャカジャーン

大樹は体を前後左右に動かしながらギターを引いた。


「僕の気持ちを聴いてください」


自己陶酔気味の路上ミュージシャンを見て、街行く人々はクスクス笑いながら通り過ぎて行った。


「サンキュー」


誰一人として立ち止まる事なく通り過ぎて行く駅前。

(ちっ、この世はつまらない人間ばかりだ)

大樹は完全に人のせいにしていた。




「ふぁぁぁ〜」

桜は大きなあくびをした。

(徹夜で曲作ってたから、さすがに眠い。)


「あのぉ、お尋ねしますが」

レジカウンター越しにヌッと出てきた顔に、桜は驚いた。

「田中ちゃんおはよう!これはこれは驚かせてしまったかなぁ?失敬」


(出たな!アカブチ!)


毎日のように桜のバイト先のCDショップに現われる赤ブチメガネをかけた男だ。

「まぁ、毎日言ってるから分かってると思うけど、もうすぐアイリンのデビューシングルが発売になるよね。そこでだ、まぁこれも耳にタコができるほど聞いてると思うが、僕はあそこの入り口にある、

等身大 夢村アイリ

のパネルがどうしても欲しいのだ!僕の命を田中ちゃんにくれてやっても構わないくらいだ!だからどうしてもどうし………」


(はぁ、うざい)


「田中さん、上がっていいよ。おつかれさん。」


運良く交替の時間がきて、桜は難を逃れた。

「おつかれさまでした!」

「ちょっ、田中ちゃん!まだ話は終わってな………」




桜はバイトが終わると、人通りの多い公園で歌うのが日課だ。

路上ミュージシャンにとって条件のいい場所なので、いつも必ず他のミュージシャンも数人いた。

(急がないといい場所取られちゃう!)




「♪僕の歌〜この想い〜誰にも届かない〜」


駅前を足早に歩く桜の耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。


(大樹だ!相変わらず変な歌だなぁ〜)


大樹を横目に桜は先を急いだ。


公園に着くと、既に数人のミュージシャン達が、自分が一番だ、と言わんばかりに、一生懸命歌っていた。

桜は彼らから少し離れた場所に腰掛けて、ギターのチューニングを始めた。


その時、遠くで拍手喝采が聞こえた。

「アンコール!」

「もう超感動!!」


十数人の人々に囲まれて、鼻高々になっているミュージシャンを、桜は羨ましい思いで見つめた。






『今は芽もない土の中 でもいつか 満開サクラのように』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ