夢
目が痒くなるほどの生暖かい風が、教室中に吹き回った。
飛ばされそうになったプリントを、大樹はバシッと押さえ付けた。
(進路希望って…そんなの決まってんだろ)
大樹は書き殴って机に顔を伏せた。
〜アーティスト〜
「はい、じゃあ後ろからプリント回してください」
プリントが回収し始めているのに、大樹は居眠りを続けた。
「田中君、プリント前に回してよ」
後ろの席の女子が困惑していた。
それに気付いた前の席の男子が、大樹の頭をペシッと叩いた。
それでも起きない大樹。
「ははは。こいつバカ?第一志望校アーティストだってよ」
「そんな大学ねぇよ」
「やっぱり田中アホだよなぁ」
教室中に呆れた笑い声が充満した。
「アーティスト!?」
そうですが、何か?という顔で桜は担任を見た。
「大学は?行かないの?」
「はい」
桜は何の迷いもなく答えた。
「何言ってんのよ田中さん。あなた学年トップの成績なのよ。行こうと思えばどこでも狙えるのよ!」
「もうずっと前から決まってることですから。高校まではちゃんと卒業すばいいって親にも言われてますし。」
はぁ、と担任は大きなため息をついた。
「あのねぇ、はっきり言っちゃうけど、田中さんには似合わないわよ。こーんなフリフリ着てルンルンルーンなんて歌うアイドルなんて。」
桜はポカーンと呆れた表情で、担任の変なダンスを眺めた。
「先生、あたしアイドルになりたいなんて言ってませんよ。あたしがなりたいのは…
シンガーソングライター
です。」
『笑われたって からかわれたって 気にならない程 本気なんだ』