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あれから、俺はこの日の為に失礼のないようにと、礼儀作法を徹底的に仕込まれ馬車に押し込まれた。
俺がいきたいと言ったわけでもないといのに強制的に呼び寄せた存在に、無礼のない様にと俺の時間を消費させられた2週間だ。
剣の稽古の時間も、術の研究の時間も削れ、望んでない相手に会うためにだ。ふざけるな。だったら礼儀作法がしっかりしているやつに俺の変装でもさせて向かわせればいいだろうに。だいたい目立つわけでもないモブ顔だぞ。適当にごまかせる。
なぜ馬鹿正直に、俺を城に送り込むんだ。
――ああ、ドナドナを歌いたい気分だ。今なら子牛の気持ちが分かる気がする。
いきなり歌い出したら頭がおかしくなったと思われるので、唇を引き結んでこらえる。
「レイザード、レイザード」
「なんだ」
同じ馬車に詰め込まれたジルベールが、しつこく声をかけてくる。顔が意味もなく近かったので、片手で押しかえす。そういう無意味に顔面を近づけるのは、主人公にやってほしいものだ。
「無意識かい? これ以上ふやすと、馬車の中が大変なことになるよ」
苦笑しながらジルベールが、指さす方向を見ると馬車内に水の球体が大量に浮かんでいた。犯人は……俺だ。ジルベールに水の適正はない。俺とジルベールしか馬車の中にいない以上、これをやれるのは俺だけだ。
どうやら無意識のうちに、術を構築して行使していたらしい。
「……」
思わず押し黙る。だがいつまでも球体を浮遊させておくわけにもいかない。俺は水を気体に変化させた。
「なんでそんなに不機嫌なんだ? 王子と会えるんだ、将来城勤めをするなら顔を合わせておけば、何かと有利だろ?」
「俺は、城勤めをするつもりはない」
城って言うのは魑魅魍魎の巣窟だ。
そんなどろんどろんのぐちゃんぐちゃんな権力争いを繰り広げられている巣窟に、就職する気などこれっぽちもない。
そんな争いになんの後ろ盾もない庶民オブ庶民の俺が巻き込まれたら、碌でもない事になる事に決まっている。この世界がファンタジーだからといって、権力争いもなにもない綺麗なお城なんて存在するわけがないのだ。
「じゃあどこで働くつもりなんだ?」
「お前に教えるつもりはない」
剣と魔法のファンタジーの世界だから、冒険者とかもいいよなとか思ってるんだが言えない。
なにげに城勤めを視野にいれてそうなジルベールに、冒険者を目指してるんだなんてとてつもなくいいずらい。
例えるなら将来は国家公務員を目指している奴に、夢をかなえる為にフリーターをやるんだと豪語するくらいに気まずいものがある。
「つれないことをいうな。教えてくれても、っと着いたみたいだ」
馬車の速度がどんどん落ちていく。無情にも城についてしまったらしい。
「お待ちしておりました。レイザード様とジルベール様ですね。王子の元までご案内させていただきます」
馬車の扉が開けられて外にでると、騎士が一人立っていた。
さわやかな笑顔が実に、うさんくさい。いやこの人がなにかしたわけではない。だが、2次元でさわやか笑顔を浮かべているキャラが、本当にさわやかだった礼はすくない。いなくもないが、そんなキャラは希少だ。だいたいが腹黒キャラだ。腹黒だけならまだしも、ラスボスってときもあるからさわやかキャラは油断ができない。
だがただ王子のとこまで案内してくれるキャラに対して、考えすぎかもしれない。俺は笑顔で対応しているジルベールに倣って頭を下げた。ジルベールといるとコミュニケーションの矢面にされされなくて済むから、こういう時はとっても楽である。
無駄に長い廊下を歩きながら、散々叩き込まれて礼儀作法を反復する。そうしているうちに、王子がいるという部屋の前までたどり着く。
「少しお待ちください」
騎士が扉の前に立っている別の騎士に声をかけ、部屋の中に入っていく。
「どうぞ、お入りください」
またされるかとおもったが、案外早く扉はあき入室を促される。
室内に入るとだだっ広い部屋の真ん中に、巨大なテーブルが一つ鎮座している。そこには王子と、みたことのない少女が一人座っていた。少女の傍にはメイドが一人控えるように立っている。
案内役の騎士はそのまま王子の左側に立つ。反対側にはもう一人騎士が立っている。その目線から警戒されているのが見て取れた。
王子が襲撃されてから1か月もたっていないから理解はできるが、おもしろくはない。
命令で呼び出されて胡乱気な目つきを向けられているんだ。不愉快さの方が先に来る。そんな目を向ける位なら忠臣らしく、俺たちを呼ぶべきではないと進言して説得して止めさればよかっただろうに。それすらできなかったくせに、そんな目をむけるなと言ってやりたくなる。
言えないけど、王子の目の前でお付の騎士に喧嘩をふって、許されるのは主人公位である。モブがそんなことしたら、大変な騒ぎになるのは分かりきっている。ようするに俺には黙っているという選択肢しかな用意されていない。
「やあ、よくきてくれたね。座って楽にしてくれ」
王子が立ち上がり着席を促してくる。試合の時は碌に見ていなかったが、王子もさわやか系である。さわやか騎士と並んだせいで、胡散臭ささ倍増である。
思わず隣の騎士をみてから、もう一人の騎士を盗み見る。さわやかと、いかつい顔の対比がひどいことになっていた。
「失礼いたします」
「失礼いたします」
来るだけで疲れた。ため息をつきたくなるが、王子の手前そうもいかない。頭を下げてから、椅子に座った。
「わざわざ来てもらってすまない。ここには口うるさいものはいないから、くつろいでほしい」
俺の右側にいる奴は、口うるさそうだ。一瞬、そちらに目を向けたのに王子が気付き、苦笑される。早々にやらかした。
「すまない。彼は優秀な騎士なんだが、ちょっと固いところがあるんだ」
「いえ、失礼を……もうしわけありません」
そう俺が返すとのと同時に、王子の隣にいた少女が立ち上がる。良くみると顔立ちの整った美少女だ。髪と目の色が王子と同じだ。顔立ちも王子に似ている気がする。
「あなたがたが、お兄様を助けてくださったのですね。どうもありがとう」
どうやら、王子の妹らしい。権力者じゃなかったら、お近づきになりたくらいの美少女だ。
「すまないね。君たちの事を話したら、ぜひ会ってお礼をしたいと言ってきかなくてね」
苦笑する王子に笑顔で対応し、姫にも柔和な笑みを浮かべて対応する。俺がじゃない、ジルベールがだ。
俺ももう背景かのように、その様子を眺めている。もうこの場はジルベールに任せて、退出しても気づかれないんじゃないだろうか。
「姫様、そろそろ参りましょう」
「もう、わかったわ。それではお兄様、お二方もお邪魔して申し訳ありません」
そんなことを考えていると、姫の隣にたっていたメイドが姫に退出を促す。まだ話したりなさそうに、目線をジルベールに向けたが優雅に一礼をして去っていった。
そのあとも特出したことはない、コミュニケーション力レベル99のジルベールが完璧に王子への対応をこなすので、俺は余計な口を挟まずに壁のようにそれを眺めることに従事した。
王子の部屋から退出後、二人で廊下を歩く。行きは騎士が案内したが、帰りは勝手に帰れという事らしい。警備上、問題ないのだろうか。
「さすが、レイザードだな。王族相手でも表情も変わらずだな」
「お前とは違う」
そうジルベールと俺は違う。何が違うかというとこいつは攻略キャラで、俺はモブということだ。
そうモブの俺には、表情差分が少ない! このゲーム、表情差分が多いので喜怒哀楽にも種類が多い。
笑顔1つとっても、微笑みから口を開けて笑うもの、穏やかに微笑みもの、顔を赤らめての微笑みと微妙な差異が多いのだ。けれどそれは、攻略キャラと主人公に限ったことだ。
モブの俺にはそんなものは用意されていない。
これでも国家権力者の象徴の王族と会うんだ、ジルベールに対する態度と同じだとまずいこと位俺にも分かる。だから少しでも愛想よく、笑顔位浮かべようと努力したのだが無駄な努力で終わった。
これは命が危ない時でも同じだ。
むかし、実技の授業で魔物が大暴れして死にそうになった時がある。その時でさえ泣き叫びたかったというのに、俺の表情は変わらなかった。これだから冷たいだの感情がないなど陰口を叩かれる羽目になるんだ。
そのくせ、眉間に皺を寄せたりなんて細かい差分のせいで、いらん誤解を抱かれることがおおい。なぜそんな必要のない悪印象を与える差分は、あるのに普通の笑顔の差分が存在しないんのか甚だ疑問である。
攻略キャラになりたいとは思わないが、表情の差分はほしい。せめて人と円滑なコミュニケーションが取れる位にはほしい。
日常生活に支障がでかね……もうでている。無駄だろうとは思ったがダメもとで王子に合う前に、必死に笑顔をつくろうとしたんだ。これでも努力した。
だが実際は口元をかなり凝視すればなんとか笑っているなと分かる程度にしか表情が変わらなかった。
だがもう王子との面会も終わったんだ。やっと帰れる。顔には出せずとも弾んだ気持ちになるのを止めれない。とりあえず城から早く出たい、俺は少し歩くスピードを速めた。だがその行く手を、なにかが遮った。
胡乱気な目で、俺の邪魔をしてくれた奴に視線を向ける。顔立ちは王子に似ているが、性根の悪さと底意地の悪さが滲み出ているような表情の男が立っていた。
顔立ちは整っている方だろうに、その表情がすべてを台無しにしている残念なやつだ。
歳は王子より、少し下に見える。その顔には、こちらを下としてみている傲慢さが、滲み出ていた。
後にはおつきのおっさんが、いてこちらを威嚇するように見ている。いったいなんなんだ。王族の傍に居る奴は、俺を威嚇する趣味でも持ち合わせているのか。さっきの騎士と言い、いい加減にしてもらいたい。
「ああお前たちか? 兄上をお救いしたというのは? 随分と腕が立つようだな。どうだ私の相手をしてくれないか」
疑問形でしゃべっているが、実質命令だ。うん、こいつ知ってる。思い出した。サブキャラの第二王子だ。
優秀なお兄ちゃんに、コンプレックスを抱く次男坊で悪役になりきれない小悪党だ。
イラッとするが、実害はあまりないキャラだ。だがそれは主人公にとってであって、モブの俺には多大なる迷惑をかけてくるかもしれない要注意なキャラだ。
「大変ありがたいお申し出ですが、私たちはリシュワルド様に拝見することのみを許され入城をしております。謁見がすみしだい退城するように、リシュワルド様から直々に仰せつかっております」
嘘を混ぜながらジルベールが、返す、第一王子の名前をだすことで、お前の命令はきけないと牽制もしているのだろう。さすが攻略キャラだ。頭が切れる。
「ああそれなら、いましがた兄上から許可をとってきた。お前たちとの手合わせをお許し下さるそうだ」
いま俺たちは、第一王子のいた部屋からまっすぐにここまできた。こいつが俺たちをすり抜けて第一王子の部屋にいかない限り会話することは不可能だ。
けれど王族がこういっているのを、嘘だと撥ねつける権限は平民の俺たちにはない。
それがわかっているからだろうジルベールが一瞬、表情を不快気にゆがませると恭しく頭を下げた。




