59話(ジルベール視点)
講義が、終わり昼休みになる。レイザードを、誘うために探すと中庭で見つけることが出来た。人気のいない中庭の端で、椅子に座りテーブルに片肘をついている。
声をかけるが、反応がない。近づいて考え込んでいる様子のレイザードに、もう一度声をかける。
いつもなら面倒くさそうにしながらも、反応してくれるのだけれどよほど集中しているのか気づく様子もない。
邪魔をするのも気が引けて、眺めていると顔色が悪いことに気が付く。
気になって邪魔になるのは、承知で名前を呼び頬に触れる。やっぱり顔色が、少し悪い。それに目の下には、うっすらと隈が出来ている。
―― 大丈夫だろうか
なにか悩みでもあるのかもしれない。それなら力になりたい。
―― 気が付いてくれた
見つめていると、レイザードと視線が合う。
なにか力になればと、言葉を紡ぐ。彼にしては珍しく、術のことで悩んでいるらしい。持っている知識を、総動員して助言をすることにした。
話を聞き終わると、レイザードが術を構築し始める。
見たこともない花をつけた氷の木が出来上がる。そのあと氷が水に変化して、美しい花弁を形成する。数分の間に、三回繰り返し動きを止めた。
レイザードの目が、僅かに細まる。視線を落として黙ってしまったから、なにか余計なことをしたのかと心配になった。けれど杞憂だったらしい。
短い礼の言葉に、ひどく幸せな気持ちになる。
「適性以外の術なのに、詳しいんだな」
少し首を傾げて、視線を向けてくる。
―― 当たり前だよ
愛おしい、君の適性なんだから。
声に出して返そうとしたけれどやめた。また集中して術のことについて、考えたレイザードの邪魔をしてしまう。
適性のない術で、詳しいのは『水』だけだ。他は基礎的な事しか知らない。
レイザードの適性だから、調べたし知識も身に着けた。
同じくらいの知識量がなければ、レイザードの話相手を務めることができない。
結構、苦労をした。勉強熱心で、自分で研究もする。そんなレイザードと、同等の知識量となると生半可な覚悟じゃ身につかない。それでも努力を続けていけば、知識に関しては身についた。
けれどその先が、上手くいかない。自分の適性外の術の事だから、知識を身に着けられても感覚的なことが掴めなかった。水の適性がないから、術を使えばわかるものを理解することがどうしてもできない。
なんで彼と同じ水の適性がなかったのだろう。二つの術の適性なんていらない。
ただ一つ水の適性があればよかったのに。
悔やんだところで、どうにもならない。水の適性をもっている従兄に、手紙を送り助言を求める。
『お前が、本気になる事なんてあるんだな。それが好きな子に、好かれたいからとか本気で腹を抱えて笑ったぞ』
届いた手紙を開くと、俺を笑う文面が目に入る。文字なのに、実際に腹を抱えて笑うあいつの姿が脳裏に浮かぶ。
思わず手紙を握りつぶしそうになったけれど、からかいの言葉が十行続いた後に的確な助言が書いてあったから止めた。
性格に難のあるやつではあるけれど、理解していない相手に分からせることが上手い。
手紙に書かれていた助言のおかげで、感覚めいたものも理解することが出来た。
礼の手紙を、送ると今度はからかいの文面が三十行に増えている。また握りつぶしそうになって、一行だけレイザードとのことに関して応援してくれる言葉が書いてあるのを見つけて止めた。多分これが、本題なんだろう。伝えたい内容の前に、人を煽る性格の悪さは相変わらずだ。
腹が立ちもしたけれど、あの手紙のおかげでレイザードの役に立つことが出来た。そこだけは、感謝している。
応援されてから変わった事といえば、レイザードがお茶の誘いを受けてくれる回数が増えたことくらいだ。それとかっこいいと言ってくれたこと―― そのことを手紙にかけば、笑われるのが目に見えていたから報告はしていない。
いつか彼の隣に立つことが、できたらその時は報告しようと思う。そのときは、きっとどんなからかいの言葉も笑って受け流せそうだから。
望みの薄い。でも必ず叶えたい願いを、想像していると訝し気な視線を向けられてしまう。
誤魔化すように笑ってから、また愛おしい存在に視線を向けた。




