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―― あれ?
開けた目に、移るのは白い天井だ。頭の中が、大量の疑問符で埋め尽くされる。
ここは、どこだろうか。そんな疑問以前に、なんで目を開けられたのかが不思議でしょうがない。
目を開けることが出来る。息をしている。ということは、生きているということだ。
―― 生きてる? あれ俺どうしたんだっけ?
余りできの良くない頭を、フルに動かして記憶をたどる。
たしか、ドラゴンが灼熱のブレスをゴーしたのが見えた。それで俺はあの時間でできる最大の強化を氷に施して術を構築して、体を覆った。あの時間であの強度の氷を作り出せるのは一人分だけだった。2人分に広げれば、それだけ強度が下がる。だからそれをシーディスさんに使ったんだが、彼は無事だろうか。
出血がひどかったが、内臓は損傷してないだろうか。
―― 確かめないと
体を動かそうとして、手を動かせないことに気づく。
「ギルド長?」
手の神経でも、損傷したのか。そう思ったが違った。シーディスさんが、俺の手を握り締めているのが見えた。
ベッドの横に座り込み、上半身はベッドに預けている状態だ。
「……火傷が、治ってる?」
顔を突っ伏した状態でも見えるうなじと、腕の皮膚を見て首を傾げる。
気を失う前に見たシーディさんの状態は、酷いものだった。一刻を争うとは、ああいう状態を言うんじゃないか。そう思えるものだった。
俺は医者でもなんでもないから、実際にどんな状態なのかはわからない。けれどそんな俺が見ても、早く治療しないとやばい。そう思えるものだ。
けれどそんな痕跡は、どこにも見えない。火傷も、その痕すらもないように見える。
もしかして俺の希望でしかなかった光の術師が、本当にいたのだろうか。あんな状態から、ここまで良くなっているのならそれしか考えられない。
まあなんにせよ。シーディスさんが、死ぬこともなく無事だったんだ。
「……よかった」
「よかねえよ」
安堵から息を、吐いたのと同時くらいだろう。扉が開く音と、なんか怖い感じの声が聞こえてきた。どすの利いた声というのは、こういう声を言うんじゃないだろうか。
声の方向に視線を向けると、そこには口調の悪さと反比例した見た目の長身の……男の人が立っていた
―― いったいどちら様ですか?
低姿勢で言葉をかけようとして、できずに口を閉じた。
声をかけたいが、できない。理由は、至極単純で怖いからである。
部屋に入ってきたその人は、見るからに不機嫌ですという顔をしていた。見た目は、線の細めの美人系だ。女の人と間違えたりはしないが、顔立ちが整っている。
もしかして俺の知らない攻略キャラだろうか。モブにしては、顔がよすぎる。
「おい起きろ。お前、俺が安静にしていろ。寝てろといったのが、聞こえてなかったのか。いつから難聴になりやがった」
「……ギーニアスか。うるさいぞ」
肩をつかまれたシーディスさんが、眉をしかめながら顔を上げる。そして俺と目が合った。
不機嫌さを、全く隠す気がない。そんな目をしていたのが、これでもかと見開かれる。
「レイザード!」
「……はい」
鼓膜が破れたるんじゃないか。そう思えるくらいの大声が、シーディスさんの口から放たれる。
あまりの声の大きさに、怯えて顔が引きつりそうになった。なんせシーディさんは、顔が怖いからな。内面は、面倒見のいい良い人だと分かってはいるがなんせ顔が怖い。
ただいつも通り、俺の表情は少し眉間にしわを寄せるくらいしか変わってはいないだろう。
「無事か!? 痛むところはあるか? どこか……」
「俺が治したんだ。支障があるわけねえだろうが」
俺が治した。そうギーニアスと、呼ばれていた人が答える。
火傷の跡すら消えている。その状態で、考えられるのは光の術師が治したということだろう。
―― ということは、この人が光の術師なのか
ろくに情報も残っていないから、本当のところは分からない……けれど
―― あれ、でも
文献に載っていた光の術師の外見と、異なっていて内心で首を傾げる。文献には、髪の色は白だと書かれていた。けれどこの人は、この国で多いだろう髪の色をしていた。目立つから染めているのかもしれないな。
「……俺は彼に、聞いているんだ。口をはさむな」
「おいガキ、どこか痛むか? 違和感があるところは?」
―― すごいなこの人
ギーニアスと呼ばれた人は、目つきを鋭くさせたシーディスさんを怖がる様子もない。内心では、怯えまくっている俺とは大違いである。
「いえどこも」
「だそうだ。さっさとお前は、部屋に帰って寝てろ」
邪魔だといわんばかりに、シーディスさんを追い払うように手を振っている。
「ここにいる」
「俺はお前と、押し問答しにきたわけじゃないんだよ。急激に回復させたせいで、体に負担がかかっているといっただろうが。休んでいる必要があるともな。戻らねえってなら、気絶させて連れてくぞ」
「あのギルド長、俺なら大丈夫です。きちんと休まれてください」
―― 目が本気だ
普通なら冗談だと思うが、この人ならやりかねない。あったばかりだというのに、シーディスさんを気絶さえて運んでいく絵面が想像できる。
「……わかった。おいギーニアス、きちんと彼の診察をしろよ」
「お前が、さっさと出てけばすぐにでも始めるんだよ。さっさと寝ろ。何回いわせりゃ気が済むんだ」
もしかして昔からの知り合いで、気心が知れているのかもしれない。そう思いはすれど、傍で聞いていると気が気じゃない。というか怖い。
顔の怖いシーディスさんに、口調と雰囲気が怖いギーニアスさん……良く知りもしないけれど、怖くて思わず『さん』をつけてしまいそうなくらいに怖い。
「それじゃ、始めるぞ」
「えっ?」
シーディスさんが、出ていくのを見送るとギーニアスさんがベッドの横に椅子を持ってきて座った。
何を、ですか? と、聞きそうになっていると思い切りため息をつかれる。
「お前も、耳が遠いのか? 診察だよ。……お前俺のことをなんだと思ってるんだ? 医者だぞ」
全然見えないです。なんていうことは、もちろん言えずにお願いしますと頭を下げた。




