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部屋を出る前に、課題を渡せばよかったのに渡し忘れたせいでまたサイジェスのいる部屋に戻って来るはめになった。
「座るといい。怪我に響くだろう」
「ありがとうございます」
渡したらさっさと帰ろう。そう思っていたのだが、なぜか呼び止められて椅子に座るはめになる。
攻略キャラと二人きり―― まったく嬉しくないシュチュエーションである。
これでここに、主人公たるロイがいれば最高だっただろう。何かと口実をつけて、部屋を去りそっと隙間から二人の様子を眺めると言う至福の時を過ごせたはずだ。だが残念なことに、この場にロイはいない。
もうとっくに傷の具合いはいいので、立っていても全く問題ないです。そう返すわけにもいかずに、礼を言って腰かける。
「怪我の具合は、どうだ」
「大分いいです」
「紹介した医者に、行っていないそうだな。診察代なら、心配せずとも学園が支払うと言っただろう。なぜ行かないんだ」
紹介された医者に、行かない理由は簡単だ。もうほぼ治っている。というか、寝る度に、傷が良くなってるから診察も治療も必要が無い。
主人公や攻略キャラだったら、怪我を負った差分が用意されているだろう。だから治るのも、時間がかかるかもしれない。けど俺はモブである。そんな細かい差分など、存在しないのだ。だからきっと、いつも通りの状態に驚くくらい早く治っていくんだろう。
けどそんなことを、馬鹿正直に話したところで信じてはもらえない。それにこの状態を、医者に診せたら色々と面倒くさいことになりそうだ。だから俺は学園に、紹介された診療所には通わなかった。
「知り合いに、良い医者がいるのでそっちで治療をしています。気心もしれているので、そちらのほうがいいんです」
正直に話しても、納得はしてくれないだろう。だから適当に嘘をついておく。
「本当だろうな」
「生徒を信じて頂けないですか」
返した言葉に、サイジェスは大きなため息をついた。ここで信じないとは、サイジェスの性格からして言えないだろう。その外見や、言動からは分かりづらいがサイジェスは、生徒想いの良い講師だ。
まあそれでも俺が、体を引きずる様に歩いたり痛みに顔をしかめたりしていれば
力づくでも医者に診せに行きそうではある。そうしないということは俺の今の様子から、大丈夫だと判断したのだろう。
正直、シレっと嘘をついてすまないと思っている。思ってはいるが、これはどうしようもない。モブなのでといったところで、攻略キャラで差分の豊富にあるサイジェスには理解してもらえないだろう。
「シーディスとは、どんな関係だ?」
「店を出しているところが、ギルド長の土地なので許可をいただいたときに顔を合わせた程度ですが」
俺を説得するのを、諦めたのか話題がシーディスさんに移る。
「それだけか、本当に?」
「それだけと言われても……更新の時にあったのと、ああそういえば、店でトラブルが起きた時に解決していただきましたが。それくらいですね」
俺返した答えに、サイジェスが考え込む素振りをする。
一体何を、疑っているのだろうか。俺はまごうことなき、モブである。そんな俺と、シーディスさんに深い関係がある訳がない。
「それだけにしては、あいつの態度は異常だ。あいつが意味もなく大口の学園との取引を、中止させるなんてことはしない。なのにお前の件で、学園との取引を中止させようとまでした」
「面倒見のいい方なので」
そう面倒見が、いい人なのだ。末端の俺が、ごろつきに絡まれていれば助けてくれる。怪我をしていると分かれば、薬もくれて気にかけてくれる。見た目は怖いが、良い人なのだ。
「あいつは、基本が利害の一致があれば動くが、それ以外では動かんぞ。まして数回しか会っていないお前の為に、動くような奴じゃない」
「そういわれても、心当たりはないのですが」
ため口で話していたから、シーディスさんとはある程度は親しいのかと思った。けれど勘違いだったようである。
どうやら全く親しくないらしい。ただの商売上の付き合いでしかない様だ。
親しければ、見た目の怖いシーディスさんが良い人なのは知っているだろう。あの人は、俺に親切にしてくれた。けどそこに利益などないだろう。
商人のギルドを仕切り、自分でも手広く商売をしている。そんな人が、俺に親切にすることで得る利益などなに一つないはずだ。
「……まてよ。レイザードお前入学したのは、4年前だったな」
「そうですが」
はっとしたようにサイジェスが、伏せていた目を開けて俺を見る。
確かに俺が、入学したのは4年前だ。それにしても、よく覚えてるな。
この学園には、何年生という概念はない。靴や名札やなにかで、生徒を色分けしている訳でも無い。だがら誰が、何年学園に在籍しているかなんて外見からは判断できない。
それにこの学園は、在籍人数がかなり多い。そんな中でモブの俺が、入学して何年か覚えているなんてサイジェスの記憶力は半端ないな。在籍している生徒全員が、何年いるか覚えていそうだ。
「当時頭角を表したあいつが、学園に格安で商品を卸すと話を持ちかけてきたのは4年前だ」
「偶然では?」
俺の入学と、シーディスさんに何の関連性があるというのか。
正解に辿りついた、みたいな顔をしていたが的外れにも程がある。何処をどう考えても、偶然でしかないだろう。
「さっきもいったが、普段のあいつを考えればあの行動は異常だ。どう考えてもお前とは数回あっただけじゃない」
「まあ、だとしてもですよ。取引は継続されるですから、そこを詮索する必要はないでしょう。どうしてそこまで気にするんですか」
どうやらサイジェスの中では、俺とシーディスさんが何かしらの関係があるという答えにいたりそれが正解となってしまったようだ。
そう思い込んでいるのを、違うと言い続けても考えは変わらないだろう。そんなことより、そんなに気に掛ける事に引っ掛かりを覚えて問いかける。
「突きとめておかないと、お前が卒業したと同時に取引を止めれる可能性がある。いまあいつは、学園にかなり融通をきかせて卸しているんだ。取引を止められたら、学園が大損害をうける!」
ああそっちか。よかったシーディスさんが、好きで気になるとかいいださなくて。攻略キャラが攻略キャラに、好意を寄せるなんて誰特って感じだしな。少なくとも、俺は見たくない。本当に良かった。
「そもそも融通をきかせてくれているからって、取引先を1つにしているのが問題なんじゃないですか。なにがあるか分からないですから、分散させておいたほうがいいのでは?
ギルド長に旨みがないなら、尚更です。いつやめてもギルド長は痛くもかゆくもないなら、俺云々関係なく止める事もあり得るという事ですよ」
シーディスさんに、取り引きを止められると大損害を受ける。それが分かっているのなら、他と少しづつでも取引を始めればいいだけの話だ。そんなことサイジェスが、思いつかないはずがない。だからそうしない理由が、わからずあえて口に出して尋ねる。
「俺に決定権が、あるのなら今すぐにでもそうするがな……」
「申し訳ありません」
苦虫をかみつぶした様な表情をされた。
サイジェスの立場は、いわば中間管理職である。うえにもっとお偉方が、多くいる。最終的な決定は、上の連中がするのだろう。
悪いことを言ってしまった。こんど詫びに、別バージョンの猫の置物を作って渡す事にしよう。
……中間管理職か、ストレスも多そうである。こんどジルベールに、リラックスできる茶葉でも聞いて買ってきてやろうか。なんか今回の事は、俺が原因の様だしそれくらいはしてみよう。
眉間のしわを増やしたサイジェスに、心の中で謝り直してサイジェスのストレスをどうやって和らげるか頭を捻った。




