14
俺は市場の帰りにある場所を、探してさまよっていた。ジルベールの家だ。
奴は他の国から、この町に来ている。ここらで一人暮らしをしているはずなんだが、見つからない。
「レイザード?」
あれからしばらくさまよって、ようやくジルベールの家にたどり着いた。扉をノックした時点で、そういえば休みだから出かけているかもしれないと思ったが杞憂だったようだ。
「どうしたんだい? よかたっら入って……」
「これを渡しに来ただけだ。渡したら帰る」
俺が自分の家にいる理由が分からず戸惑っている表情もみせている。まあ約束もしていないしな。
俺は袋に入れていた物を取り出して、ジルベールに渡そうと手を差し出す。
「これ、もしかしてレイザードがつくったのかい?」
「急造でつくったからな、大していいものではないが。昨日の詫び……にもならないか。謝罪だ」
取り出しのは、俺が朝早くに起きてつくった氷の置物だ。それを氷の箱に入れてある。この氷は、上に装飾されているリボンを解こうとすると、消えてなくなる仕組みになっている。
正直な所、ジルベールがこういうものを好むのかは、分からなかったが詫びの品として何を持っていけばいいかも思いつかなかった。
そもそも昨日のあれは、この程度のもので詫びになるかというと甚だ疑問だ。
王子に絡まれても、防御に徹したこいつの努力を無駄にして、勝手に殺されると誤解してこの国から連れ出そうとした。
ジルベールにだって、この国にきた理由はあるし生活もある。それを全て投げ捨てろと言ったも、同然なことを言ったしまった。
謝罪はしたが、それで済ませるのもどうかと思って一応誠意としてもってきたんだが。
「いらないのなら、持ち帰る」
ジルベールは、一向に受け取る様子を見せない。そればかりか顔を横に向けて、口元に手をやり小刻みに震えている。これは怒りを我慢しているんだろうか。
そこまで気にくわなかったか。たしかに急いでつくったものだ、できは決してよくはない。
せめてもう少し、時間をかけて質のいいものを作ってくるべきだったか。
「そんなわけがない!」
いきなり置物ごと、俺の手をジルベールの手が包む。
「ありがとう。本当にうれしいよ」
そういって微笑むが、どうみても無理している。どうみてもさっきのは嫌がっていた。
無理に笑って受け取る必要もないのだが……ああそうか、やっぱりこいつ俺が落ちそうになったとき、掴みそこなったのをまだ気にしているらしい。それで気を使っているのだろう。
昨日も散々、気にするなといったんだがどうやら昨日の今日で、忘れるのは無理らしい。
まあこればかりは、時間が解決してくれるのを待つしかないか。トラウマにならないといいが。
「よかったら、お茶でも飲んでいかないか?」
「……ああ」
了承の返事をした途端、ジルベールの顔がパッと明るくなる。こいつは本当にお茶をするのが好きらしい。だからあんなに頻繁に俺を茶に誘ってきていたのか。
謝罪の意味を込めてこれからは、5回に1回位はつきあってやることにしよう。
促され室内に入ると、入り口は狭めに感じたが中は広い。
客間になっている部屋に、通されて椅子に座る。ジルベールも座りテーブルに、俺の渡した置物をそっと置いた。
「レイザードこれって、中身は出せるのかな?」
「リボンになっているところを、摘まむように触ってみろ。箱が消える」
「……凄いな。綺麗だ」
目を細めてみている。
あまり凝視しないで、もらいたい。あまり時間をかけれなかったから、見れば見るほどあらが目立つんだ。
「喉が渇いた」
「ああ、ごめん。今入れてくるよ。なにがいいかな。城下街で手に入るのは一通りあるよ」
「茶には詳しくない。まかせる」
特に喉が渇いたわけじゃないが、あまり出来のよくない置物から目を逸らたくて思わず口にする。
それにしても、街で手に入る茶葉が、一通りそろってるとは本当に茶を飲むのが好きらしい。さっきも同じこと思ったな。
ここの街、売ってる茶葉の種類がものすごく多い。俺も一応買いに行くけど、何がなんだか分からず店員の勧めてくれる安価なのを買う事が多い。
「少し待っててくれるかな。今入れてくるから」
微笑んでからジルベールは、部屋を出て行った。
ぐるりと室内を見渡すと、調度品が全て高そうに見える。なんか高そうな絵もかざってある。俺の家と大違いだ。
もしかしてジルベールは金持ちなんだろうか。そうか、そうじゃなきゃ他国に来て、学園に通い一人暮らしをするなんてできないな。どこかで、働いてるという話も聞かないしな。
「お待たせ、どうしたんだい?」
扉が開かれ、カップとティーポットを乗せた盆を持って、ジルベールが戻ってくる。あたりに視線をむけていた俺に不思議そうに首をかしげる。
「一人暮らしにしては、片付いていると思っただけだ」
金持ちそうでうらやましいなんて、思ってたなんてことは口が裂けても言えない。
「あまり物が多くないからね。散らかしようがないんだよ」
それにしても綺麗に保たれている。俺なんか扉を開けて直ぐの部屋は、片づけているが研究をする部屋は、ものすごい事になっている。
それでも定期的に掃除はするから、なんとかなっているけれど。
「甘い……」
「嫌じゃなかったかな? 疲れているかと思って、甘めのお茶にしたんだけど」
カップを傾けて、一口飲むと甘味が口に広がる。
甘いといっても、しつこいものじゃない。さわやかな風味の中に、ほんのり甘さがある。素直に美味しいと思えるものだ。
「美味い」
「本当かい? ならまだ茶葉があるから、後で包むよ」
「……煎れ方を知らん」
「了解、煎れ方も書いて渡すよ」
なんか駄々をこねる子供に言うみたいに、笑われた。恥ずかしさから、眉間に皺が寄る。
「ごめん、ごめん怒らないでくれないかレイザード……少し嬉しかったんだ。君は何でも出来るから、俺に力になれる事があったんだなって」
謝りながらも頬が緩んでいる。謝る気があるのだろうか。だが俺は今日は詫びに来たんだから、これ以上不機嫌になるのはやめておこう。
それにしてもこいつは、何をいっているんだ。俺は出来ない事の方が多い。どこをどう見たら、そう思うんだ。
むしろできない事がないのは、ジルベールの方だ。
それにレベルを99まで上げられる攻略キャラにいわれてもな、嫌味にしかならない。
はあ、モブのままレブル99まで上げる方法はないだろうか。
「そうえいば、頭痛はもういいのかい?」
頭痛……ああそういえばそうだ。あの幻聴、あれから全く聞こえない。何だったんだろうか。
幻聴だけじゃない。早く逃げないと殺されてしまうと、いま考えると一種異様な焦燥が襲ってきた。
―― それに
ジルベールが俺の頬を包んだとき、女の人の声……いや声だけじゃない。ぼやけた映像が見えた気がした。
どれもこれも騎士やら王子という権力者がが絡んでいるときだ。一体なんなんだ。バグか何かか。もしかして他のキャラに関する何かが、バグのせいで俺に聞こえたのか。
あれかモブに発生するバグだから、取るに足りないと放置されているのか。なんて迷惑なんだ。
「ああ、あれからは無い」
「そっかよかった、昨日は大変だったからね。疲れもあったのかもしれないね」
「そうだな」
なんにせよ。もう聞こえないのなら、問題ない。さすがに、あれが続いていたら自分の脳みそを疑うが大丈夫だろう。
「あのレイザード、もしよかったらまたこれを作ってくれないかな。そのもちろんお金は払うから」
よほど気に入ったのだろうか、ジルベールは氷の置物を嬉しそうに見ている。
「なら店に買いに来ればいい」
「店? どこかに出品してるのかい?」
「市場が軒を連ねているところがあるだろう。学園が休みの日は、大概あそこで店を出している。ただ、いない時もある。来るなら事前にいえ」
ここぞとばかりに店の宣伝をしたが、これは礼と謝罪を兼ねた物としてはちょうど良い気がする。いい機会だ。売らずに作ったのをやる事にしよう。
「わっかた。ありがとう。そうするよ」
「まあ、欲しいのならお前の分くらいは作ってやる。だから買わなくても構わない」
「……えっ」
呆然とした表情を、俺に向けてくる。
なんだこいつは俺が迷惑かけまくった相手に対して、欲しけりゃ金出して買いやがれ! とかいう奴に見えるとでもいうのか。
「嫌なら作らん」
「いるよ! 君が俺の為に作ってくれるのに要らないわけがない」
いちいち台詞が、BL仕様なのはもうしょうがないんだろか。これも主人公が現れない弊害だな。
本当は主人公用のセリフが、主人公が出てこないバグのせいでモブに対して言うはめになってるんだろう。
憐れだなジルベール、早く主人公が現れるのを願っているよ。そして早く俺にイベントを見せてくれ。
俺はモブにBL仕様のセリフを吐くはめになっている、ジルベールに心中で激励をおくった。




