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やらかしてしまった。
数分前の自分のとった行動を思いだし青ざめる。たぶん青ざめる表情差分がないから、眉間に皺がよっているだけだろうけれど。
やってしまった。最後の最後でだ。途中までは我慢してたんだ。傷つけないように適当に相手をしていたし、術が暴走しそうなときも頑張って話し合いに持ち込んでいた。
ジルベールだって、最後まで防御に徹していた。やろうと思えば、ジルベールならあっさり第二王子など倒せる。でもそうする事がどういう結果につながるか、理解していたからやらなかったのだろう。
なのに俺が、最後の最後で怒りにまかせて王族に刃を向けてしまった。実際には傷一つ付けていない。けれど王族に危害を加える意思があると判断されるのは、致命的だ。
首と胴体がおさらばしても、文句の言いようがない最悪な状況だ。
王子がけしかけてきたとか、王子の術が暴走したとかは、一切関係ない。
関係あるのは、王族である王子に、平民の俺が危害を加える意思があったとみなされる行動をした。それだけだ。
「レイザード?」
馬車に乗りこもうとしていたジルベールの腕をつかみそのまま通り過ぎる。そのまま人通りの少ない路地裏を進む。
巻き混んでしまった。あの場で俺の連れとみなされていたジルベールは、無関係ですといったって、聞き入れてもらえない可能性がある。
主人公とのイベントをみるどころか、俺が攻略キャラのジルベールの命を危険にさらしている。
なんということだ。
……よし、逃げよう。国外逃亡だ。他国に逃げれば、何とかなる。
イベントを見れないのは、断腸ものだが俺自らが攻略キャラの死の原因をつくるなんてあってはならない。
「おいジルベール、お前はたしか他国の出身だったな」
「そうだけど、どうかしたのかい?」
「なら、この国に執着や未練はあるか? ないよな?」
「レイザードがいる国だからね。当然あるよ。いったいどうしたんだい?」
やっぱりこいつはボッチだったらしい。学園内で男で交流があるのは、俺だけなんだろう。それだけで、固執するほどボッチだったのか。
まあそれなら都合がいい。
「なら俺がいないなら、未練はないな? 俺と国を出てくれ」
「かまわないけれど、突然どうしたんだい? もちろん嬉しいけれど」
どこかに買い物につきあってくれと、言われた様な気安さでジルベールが了承の返事をしてくる。
正直いうと、とんでもない要求をしているという自覚はある。なのでこの反応に思わずいいのかと、聞き返したくなってしまう。
「俺が氷の刃で第二王子を取り囲んだだろう。王族に危害を加えようとしたとみなされる。お前も俺と行動を共にしていた。関係ないといういい訳は通らない。逃げないと殺される。だから……」
離しているうちに、逃げなければいけないという恐怖に駆られるてくる。
「レイザード」
「俺達の非があるとか、ないとかは関係ない」
ジルベールの声は俺を落ち着かせるためだろう、いつも以上に穏やかだ。なのにそれは。俺の中から湧き出てくる理解できない何かを静めるには足りない。
「レイザード」
「殺されてしまう」
「レイザード、おちついて」
――そうだ、逃げないと殺されてしまう
うん? 今のは、なんだ。一瞬脳裏に、何かが浮かんだ気がする。だがあまりにも漠然としすぎてて、分からない。
それになんで俺はこんなに怯えているんだ。ここはライトなファンタジーだ。そう理解しているのに、国家権力者からは逃げないといけない様な、よくわからない漠然とした恐怖が襲ってくる。
「この国から出たいのなら、出よう。俺もと望んでくれるなら、俺も一緒に行くから」
――ごめんなさい
両手で俺の頬を包むジルベールと、誰かが重なる。
ジルベールの手を外し、頭を振る。さっきから、なにか変だ。バグだろうか。
「なら家にさっさと荷物と取に言って、合流するぞ」
「分かった。くれぐれも気を付けて」
俺は自分の内から出てくる何かを振り払うように、もう一度頭を振る。
そして待ち合わせ場所を決めると、ジルベールと別れた。
俺は自分がだせる最大のスピードで、疾走していた。時間との勝負だ。早く戻らないといけない。
家に戻って必要最低限に荷物をまとめて、この国からでていく必要が有る。国境を超える道筋を、いくつか思い浮かべながら角をまがる。
視界の先に俺の家の前に止まっている、馬車が見えた。あわてて足を止める。
馬車には王家の紋章が煌々と輝いて見える。その馬車の傍には、騎士が三人警護するように立っていてあたりの様子を伺うっている姿がみえる。
ヤバい、そう思った時には遅かった。騎士の一人と目が合ってそいつは、視線をそのままに口を動かした。すぐに他の2人もこちらに顔をむける。
俺は家に荷物を取りに戻るのをあきらめて、家とは逆方向に走った。
裏路地に入り俺が走ってきた、道路を凍らせていく。まあ火の適性がある奴がいたら、すぐ溶かされるだろうけれど時間は稼げる。
本当なら氷漬けにしたいんだが、こちらに攻撃の意思があると思われるのは避けたい。下手に危害を加えたら、事態が悪化しかねない。
できれば足止めだけして、逃げ切りたい。追ってきたのは、三人だ。
ジルベールの方にも向かっているのだろうか。まあ奴なら上手く振り切れるだろう。
問題は俺だ。三人を振り切り、集合場所にいかないといけない。今は、日が短い。もう少しすれば、あたりはあっという間に暗くなる時期だ。それまでなんとか凌いで、暗闇に乗じてなんとか逃げ切りたい。
後ろがわずかに明るくなった。どうやら火の適性を持っている奴がいるらしい。
しょうがない。俺はある術を構築する為の時間を稼ぐために、止まらずに走り続ける。少し時間のいる術だ。
しばらく走って逃げていると、前方に騎士の姿が見える。後ろからも、足音が迫っている。俺はそのまま前方に向かい、走り続けながら術を発動させた。
「殺すなよ!」
その言葉と同時に、成人男性位の大きさの氷の人形が出来上がる。俺がいつも剣の鍛錬の相手をさせている人形だ。時間が稼ぎにはもってこいだ。
人形が騎士に向かい、氷の刃を振り下ろしている横をそのまま駆け抜ける。
だが、また前方から騎士が現れた。後ろから追ってきていれば、そのまま逃げれたのに。
そう思っても遅い。
まずい挟まれた。細い路地裏で前後から、騎士達が迫ってくる。攻撃して怪我をさせるわけにはいかない。
どうするかそう一巡したとき、体を風が包んだ。そして地面から足が浮くと体が屋根の高さまで上昇した。
「おそくなってごめんね。レイザード」
「……」
「大丈夫かい? どこかぶつけてしまったかな。ごめんね。自分以外を浮かせるのが初めてで、コントロールが上手くいかなったかな」
屋根の上には、ジルベールがいた。どうやら風の力を利用して、俺の体を屋根の上まで運んだらしい。
驚いて声がでない俺を、怪我をしたのかと勘違いしたようだ。慌てて怪我の確認をしている。
「やるねえ!」
足の下から、弾んだ声がかけられる。俺の前方からきた騎士だ。楽しそうに剣を掲げている。その騎士は、俺らに笑いかけた後、氷の人形をけしかけられ苦戦している騎士に近づいていく。
そしてそれに気づいた氷の人形が反応して振り下ろした氷の刃ごと、騎士はいとも簡単に人形を切断した。




