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偽聖女だと断罪されましたが、正真正銘の偽物です!今更謝ってももう遅いですか!?

作者: あらいサラ
掲載日:2026/06/05

[日間]ハイファンタジー - 短編 4位ランクイン!

たくさんの応援ありがとうございます。

(……もしかして、レオン様にばれてしまったの…!?)


華やかな王宮の夜会。その中心で、ローランド伯爵家の長女アナベラは、いつも通りツンと澄ました表情をしながらも、レオン王子の醸し出す不穏な空気に、扇を持つ手を小さくカタカタと震わせていた。


婚約者である第一王子レオンが、その端正な顔を歪めながら、アナベラに向かって指をさす。


「アナベラ!お前が『護国の聖女』などという嘘をつき、真の聖女である妹のリリアナを虐げていた証拠は上がっている!

偽聖女め!!本日をもって婚約破棄、および国外追放処分とする!そして、真の聖女であるリリアナを私の婚約者とする!」


(ば、ばれてるぅぅぅぅぅ!!!!)


アナベラの脳内は大パニックだった。


そうなのだ。彼女は正真正銘、ただの偽物。聖女の姉だが、何の力もない一般人。

ばれないように、毎日怯えながら、必死に聖女のフリをしていただけなのだ。


しかし、見た目こそクール系美人で気高く澄ましているが、中身は超がつくほどの小心者である。

プレッシャーに耐えかねたアナベラの涙腺は、ここで完全に崩壊した。


「ふん、弁明の言葉すら出ないとは…」


「…ぴ…ッ」


「ぴ??」


「っぴやあああああああああ!!ごめんなさいいいいい!!」


普段のクールな面影など微塵もない。子供のようにガチ泣きしながら、アナベラはその場にドサリと土下座した。床におでこをこすりつける。


「騙しててごめんなさい!わたくし本当に偽物なんです!本当なんです、本物の偽物です!!」


「えっ、本物…っ!?え?え??どっちだって!??」


「上手く出来なくてごめんなさいいいい!!国外追放、謹んでお受けしますので、お許しくださいいいい!!」


「……………えぇ…、お前そんなキャラだっけ…!?いつももっとツンと淑女然としてなかったっけ!!?」


あまりの豹変ぶりに、レオン王子や周囲の貴族たちがドン引きしている。


だが、その静寂を破ったのは、アナベラの後ろに控えていた「真の聖女」――妹のリリアナだった。


「はあぁっ……泣き顔のお姉様もなんて素晴らしいの!土下座すらも、お姉様の魅力を引き出すポージングになってしまうなんて……」


「はっ?リリアナ?今なんと…」


「お姉様。お姉様が国外追放されるというなら、私ももちろんついていきます」


「……は?…はぁっ!??」


レオン王子の顔が固まる。

そんな王子を置き去りにして、リリアナは恍惚とした表情のまま、床に伏せる姉の手を優しく引いて立ち上がらせた。そして至極自然な動作で、アナベラに付いた汚れを払い、スカートの広がりを美しく整えた。


「ま、待てリリアナ!なぜついていく!?お前はあいつに虐げられていたのだろう!?お前がついていく必要などない!」


困惑するレオン王子に、リリアナは小首を傾げた。


「虐げる?滅相もない!それ、どこのデマ情報ですか?

 それに私は、お姉様がそばにいてくれないと、淋しくて発狂して死んでしまいます。1日20時間以上は『おねえさまといっしょ』タイムが必要なんです」


「拘束時間長すぎだろ!!最近王都で流行りのマウスピース矯正かよ!」


「はぁぁ…お姉様の涙がついたハンカチ…。宝物にしなくては…」


レオン王子のツッコミが響くが、リリアナには届いていない。

王子は慌てて手元の調査書を広げた。


「し、しかし!まるで侍女のように身の回りの世話をさせられていたと書いてあるぞ……!」


「お姉様のお世話という最高の栄誉を、なぜそこいらの侍女に譲りましょうか!お姉様に触れていいのは私だけです」


「えっ、ええ!?だ、だが外では喋るな等と、キツく扱われてる場面を見た者もいる!」


「私が口を開くとお姉様への賛辞しか喋らないので、外ではお姉様が照れてしまわれて。うふふふ、シャイなお姉様も堪りません……!」


「い、一緒の食事の場につかせてもらえなかったと聞いたぞ!?」


「各皿の一口目は『お姉様からのあーん』が必須ですからね!私が食べる毎にお姉様が席から移動されるのも手間なので、食事の時間を分けていただいていただけです」


「なにそれこわい」


レオン王子が冷や汗を流す。周囲の貴族たちも「あれ? これ虐めじゃなくね?」と気づき始めた。


だが、ここで引くに引けなくなったレオン王子は、震える手でさらに調査書をめくって声を張り上げた。


「で、では、これはどうだ!

 お前は伯爵令嬢でありながら、姉のお下がりのドレスばかり着せられているそうじゃないか!あ、まて、オチが見えたからやっぱ止め…」


「お姉様のお下がりドレスなんて、もはや最高のご褒美!!

 本当は洗濯前が良かったですけど、お姉様が本気で嫌がるので、泣く泣く洗濯済みをまとっている私の心境がわかりますか!?」


「わかるわけねぇだろ!!いや、想像より遥かにたちが悪いわ!!!」


大声でツッコんだあと、レオン王子はぜえはあと肩で息を整える。


「……ではこの、姉の部屋の掃除や洗濯をすべて一人でやらされて……いや、これもいい。察した」


(((絶対こいつが自分で志願してやってるだけだ)))


会場の心の声が完全にひとつになった瞬間であった。


「……では、それはどういう事だ?」


気を取り直すようにして、王子はリリアナの膝下まで届きそうな、とてつもなく長い髪を指さした。


「散髪すら許されず、そんな異常な長さまで伸ばされているのではないか?」


貴族の女性が髪を伸ばすのはステータスではあるが、ここまで長いのはあまりにも稀だ。

きっとここには、姉からの精神的抑圧があったはず。王子の瞳にそんな確信が宿る。


するとリリアナは、完璧に手入れされた美しい髪を愛おしそうに撫でた。


「本来なら、揃える為とはいえ、愛しいお姉様の髪を切る事さえ断腸の思いですが、『長すぎるのはちょっと困るわ…』だなんて、あの可愛らしい声で言われたら、聞くしかないじゃないですか。

 なのでせめて、お姉様の遺伝子に少しでも近いこの自分の細胞(かみ)の面積を少しでも増やし、お姉様の素晴らしさを世界に知らしめているのです!!!!」


「なにこいつ気持ち悪い!!!」


耐えきれなくなったレオン王子が、とうとう本日一番の本音を叫んだ。


アナベラは申し訳なさと居たたまれなさで完全にパニックに陥り、涙目で何度も頭を下げながら平謝りした。


「ご、ごごごごごめんなさい、レオン様!本当にごめんなさい……!

 わたくしがもっと、普段から厳しく言い聞かせておけばよかったんです……!!それにわたくしが完璧に聖女を演じられなかったせいで、こんなおかしな空気にしてしまって本当に申し訳ありません……っ!」


「………いや、待て。お前、本当にあのアナベラか?」


レオン王子は、目の前でふるふると震える伯爵令嬢を凝視した。なんかウサ耳の幻覚まで見えてきた。


「普段のお前は、もっとツンとしていて冷徹だっただろう。あの高圧的な態度は一体なんだったんだ!?」


「はわわわわ……!高圧的でごめんなさいいいいい……っ!

 王宮での生活に、粗相のないようにと緊張で身体をガチガチに固めて、挙動不審になってしまうのを必死に隠そうとしていたら……ああなってしまっていただけなんです…!

 小心者でごめんなさいいい……!!」


「ただの超絶ビビリ令嬢だった…!!」


周囲の貴族たちも「あ、あのクールな氷の令嬢がただの小心者……?」と困惑を隠せない。


レオン王子はこめかみを押さえ、深いため息をついた。


「……ハァ。いや、態度についてはもういい。

 だが、なぜお前は『自分が聖女だ』などと言い出したんだ?リリアナの力を自分のものだと偽り、皆を騙していた本当の理由を聞かせろ!!」


「あの…それは……」


「―――その続きは、儂から話そう」


「父上!?」

「へ、陛下っ!?」


よく響く声に振り返れば、そこには威厳に満ちた正装姿の国王が立っていた。その隣には、美しくも険しい顔をした王妃。

そしてその後ろでは、アナベラ達の両親であるローランド伯爵夫妻が遠い目をしていた。


「父上、まだ御出座の時間ではないのに、なぜ……」


「お前が馬鹿な事をしていると聞いてな、登場前のおやつタイムを切り上げて、止めに来たのだ」


(((おやつ食べてたのか…)))


皆の視線が一斉に国王のふくよかなお腹に移る。


「ばっ、馬鹿とはなんですか!私はただ、我が国を騙していた偽の聖女を断罪して……!!」


「もし断罪するにしても、内々に済ませたほうが混乱も少ないでしょうが、このバカちん!それをこんな夜会で、しかも儂が居ないとこで吊し上げるなんて…、もう大馬鹿!!儂悲しい!!」


「えぇ…!?」


先ほどの威厳はどこへ行ったやら、悔しそうに両手をバタバタさせる国王の隣から、「陛下…」と呆れたように王妃が肩をつんとつつく。


「コホン…。…よいかレオン、アナベラ嬢は騙していたのではない。王家と伯爵家で話し合い、あえてアナベラ嬢を代役に据えたのだ」


「えっ!?な、なぜですか!?」


「…右腕に聖女の証が現れたと、報告に来た時。リリアナ嬢が何をしたかわかるか?

……姉と離れて聖女として王宮で暮らすくらいなら、国を一回更地にして姉を女王として据えた新たな国を作る、と神聖力をたぎらせながら儂に言ってきたのだ……」


「「「…ひぇ………」」」」


会場にすさまじい引き潮のようなドン引きが広がる中、リリアナだけは「別にそれでも良かった」と言わんばかりに澄ました顔をしている。


国王の後ろでは、ローランド伯爵夫妻がすべてを諦めたような「死んだ魚の目」をして遠い世界を見つめていた。


「…超こわかった……!!」


国王は思い出してプルプルと震えだした。あの日はショックでなかなか寝付けず、王妃に手を握ってもらったのだ。

隣の王妃は、今でも怯える夫の背中を「よしよし」と手慣れた様子で優しくトントンと叩いている。


「……リリアナ嬢はな、聖女として過去一の力を誇るが、それと同時に性格が破綻している。世界には『姉か、姉以外か』しかいないと豪語しておった。そんな人間を聖女として、この国の王族に次ぐ地位に据えれるか?

 聖女の仕事には外交もある。あれ、絶対他の国の超お偉いさんの前で、姉の賛美を始めるぞ??なんなら『姉以外』に属する超お偉いさんをこき下ろしてくるぞ???外交問題にしかならん…!!」


「容易に想像出来る…!!!」


「よって国の上層部と伯爵家で話し合い、あえてアナベラ嬢を代役に据えたのだ。姉が聖女役をするのであれば、自分は大人しく付き従うと約束したからな。

 実際、お前が暴くまでは、アナベラ嬢が表で『聖女の顔』を演じ、リリアナ嬢が裏で『聖女の力』を振るうという、完璧な双輪であったはずだ」


「そ…そんな…!そのような事、私には何も…!どうして教えてくださらなかったのですか!?」


「…お前はまだ青く、真っ直ぐすぎる。事実を知れば無駄に正義感を暴走させ、本来の聖女であるリリアナを担ぎ上げるのが目に見えている。……現に今、そうなっているだろう?」


「うっ……」


図星を突かれ、レオン王子は言葉に詰まる。国王は少しだけ声を落とし、真面目な顔で息子を見つめた。


「国家の命運を分ける極秘事項なのだ。お前がもう少し大人になり、王族としての才覚を身につけた時――その時が来れば、お前にも全てを話す予定だったのだよ」


「父、上……」


ぐうの音も出ない正論に、レオン王子の顔からスーッと血の気が引いていく。

会場がしんと静まり返る中、王様はふっと口元を緩め、立派なお腹を揺らしてチャーミングに笑った。


「……まぁ、聖女の血筋を取り込みたいなって婚約を結んだわけだけど、それもちょっと計算違いだったというかさぁ。

 姉狂いの魔王……んんっ、リリアナ嬢より、小心者だけど心優しいアナベラ嬢の方が、まだレオンと相性いいかなと思ってたのにねぇ。まさかアナベラ嬢があそこまでツンドラ対応するとは思わなかったし…」


「ぴやぁぁぁぁ…!!ごごごごめんなさい、ツンドラフィールド展開してごめんなさいいいいい!!!」


頭を抱えて悲鳴をあげるアナベラを横目に、レオン王子はがくがくと震えだした。


「そ、そんな理由があったなんて…!!アナベラは…聖女の抑制装置だったというのですか…?」


「そうだよ。聖女が仕事をしているのはアナベラ嬢のおかげ。アナベラ嬢を国外追放しようものなら聖女も一緒に国から去るし、なんなら、この国が更地にされる未来もあり得るからね。まじトラウマ。

 …よって、今回の国外追放の件は無ぁぁぁし!!!レオンは暴走しすぎだよ。反省しなさい」


「がーーーん……っ!!!」


自分の盛大な勘違いとやらかしの深さに、レオン王子はその場にがっくりと膝をついた。


国王はそんなバカ息子を放置し、鋭い眼光で会場の貴族たちを見渡す。その佇まいは、一国を統べる王そのものの圧倒的な威厳に満ちていた。


「こほん、…今後もアナベラ嬢が聖女ということで通す。他国に隙を見せないためにも、今日のことは皆、決して口外せず心のうちにしまっておくように。……よいな?」


「「「は、はっ……!!」」」


会場の全貴族が、一斉に深く頭を下げた。

こうして、歴史に残るはずだった大舞台での断罪劇は、一国の王の手によって力技で揉み消されたのだった。


―――それから、数ヶ月後。


大やらかしを演じたレオン王子とアナベラの婚約は、当然のように白紙に戻り、レオンは厳しい再教育を受けているそうだ。


アナベラは今も貴族たちの「公然の秘密」として聖女の役を務めている。ただ、以前のような無理をしたツンツンとした態度は減り、本来の小心者なモードが少しずつ表に顔を出すようになっていた。

一方のリリアナは、周囲にバレているならもう隠す必要もないだろうと、以前にも増して四六時中、姉にべったりと寄り添うようになっていた。


ある日の午後。

自室のドレッサーの前で、リリアナが当たり前のようにアナベラの艶やかな髪を梳きながら、楽しげに口を開く。


「最近、王都でうさぎの人形が流行ってるらしいですよ」


「へえ、どんなものかしら?」


「どうやらお腹を押すと、ぴゃあああと鳴くらしいです」


「ふふふ、面白いわね。そんなアイディア、一体どこから思いつくのかしら」


自身がモデルになっている事など、1ミリも気づいていない姉の姿に、リリアナは愛おしそうに目を細めた。


「……今日もお姉様は最高に美しく、そしてポンコツでいらっしゃいますね。大好きです!」


「もう、急にどうしたの?」


鏡越しに微笑み合う姉妹の部屋の外には、あの日以来、猛省して「せめて友人として二人を支えたい」と毎日のように通い詰め、リリアナに塩を撒かれ続けているレオン王子の姿があったりするのだが――それはまた、別のお話。


(おしまい)

アナベラ「最近王宮に行くと喉が痛くなるの…。風邪かしら?」

リリアナ(いつも叫んでるから…。勘違いするお姉様かわいい)

レオン(あいつマンドラゴラの生まれ変わりか…??)

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― 新着の感想 ―
レオン王子、根はいい人なんだろうなぁ… 概ね事実だったので… 調査していた分だけ、他の断罪王子よりマシに思えてしまう…
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