第十八章 未来を選ぶ日
「守ってくれた未来だから」
私の言葉に、紗月は静かに涙をぬぐった。
桜のトンネルの中。
風が優しく吹き、花びらが空に舞っている。
カメラの画面には、さっきの写真が残っていた。
三つの影。
手をつないで歩く家族。
私と紗月。
そして、小さな子ども。
紗月が言った。
「……不思議だね」
「うん」
「三年前」
彼女は桜の道を見つめた。
「私、ここに来ることなんて想像してなかった」
私は小さく笑った。
「俺も」
紗月が続ける。
「事故のとき」
彼女の声は静かだった。
「本当に終わったと思った」
私は何も言わなかった。
その瞬間を想像するだけで、胸が苦しくなる。
紗月は言った。
「でも」
カメラを見つめる。
「助けてくれた人がいた」
私は空を見上げた。
父の姿は、もう写真には写っていない。
でも。
確かにここにいた。
紗月が言った。
「悠人くん」
「うん」
「もし」
彼女は少し照れたように笑った。
「この未来が本当に来るなら」
私は彼女を見る。
紗月は桜の花びらを手に取った。
「ちゃんと生きなきゃね」
私はうなずいた。
「そうだね」
三年前。
私は死ぬかもしれなかった。
紗月もそうだった。
でも。
今、ここにいる。
それは。
偶然じゃない気がした。
私は言った。
「紗月」
「なに?」
私は少しだけ勇気を出した。
「もし」
紗月がこちらを見る。
「未来の写真」
私はカメラを指さした。
「本当に来るなら」
胸が少しだけ高鳴る。
「その未来」
紗月は黙っている。
私は言った。
「一緒に作らない?」
紗月の目が少し大きくなった。
風が吹く。
花びらが舞う。
そして。
紗月はゆっくり笑った。
「……うん」
そのとき。
カメラが鳴った。
ピッ。
二人同時に画面を見る。
新しい写真。
桜のトンネル。
そこに写っていたのは——
私と紗月。
でも。
今までと違った。
私たちは。
手をつないでいた。
紗月が少し顔を赤くした。
「……今?」
私は笑った。
「今だね」
二人とも同時に笑った。
そのとき。
桜の花びらが一斉に舞った。
空いっぱいに広がる淡いピンク。
私はふと思った。
父は。
きっと見ている。
遠くから。
いつもの優しい顔で。
私は心の中で言った。
——ありがとう。
風が優しく吹いた。
まるで、返事のように。
そして私は、紗月の手を少し強く握った。
そのとき。
カメラがもう一度鳴った。
ピッ。
最後の写真。
そこに写っていたのは——
桜のトンネル。
手をつなぐ私たち。
そして。
その少し後ろ。
遠くの桜の木の下に。
ぼんやりと立つ、一人の影。
紗月が小さく言った。
「……あ」
私は画面を見た。
その影。
はっきりは見えない。
でも。
わかった。
私は小さく笑った。
「……父さんだ」
紗月も静かに微笑んだ。
写真の中で。
父は、少しだけ手を上げていた。
まるで。
「行ってこい」
そう言っているようだった。




