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桜のトンネル  作者: 斑鳩あおい


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第十七章 未来の影

「……私たちの未来かもしれない」


紗月の言葉は、静かな桜のトンネルに溶けていった。


私はすぐには理解できなかった。


カメラの画面。


小さな二つの影。


手をつないでいる。


その影は——


赤ちゃんのようにも見える。


紗月が言った。


「もし」


「?」


「この写真が」


彼女は言葉を選びながら続ける。


「過去じゃなくて」


私は画面を見つめた。


「未来?」


紗月はうなずいた。


風が吹く。


桜の花びらが、ふわりと舞う。


私は少し笑った。


「そんなこと」


言いかけて、止まった。


だって。


父は、確かに写っていた。


死んだはずの父が。


そして。


少しずつ近づいてきた。


最後には。


私の肩に手を置いた。


もし。


このカメラが。


時間の境目を写すものだったら?


私はもう一度写真を見る。


小さな影。


二つ。


紗月が小さく言った。


「ねえ」


「うん」


「悠人くん」


私は顔を上げた。


紗月の目が、まっすぐこちらを見ている。


「もし」


彼女の声が少し震えた。


「未来だったら」


胸がドクンと鳴る。


「……何が?」


紗月は少し照れたように笑った。


「その」


言葉を探している。


桜の花びらが彼女の髪に落ちた。


紗月が言った。


「私たち」


私は息を止めた。


紗月はゆっくり言った。


「家族になるのかな」


風が止んだ。


桜のトンネルが、静かになる。


私は何も言えなかった。


三年前。


事故。


父。


そして今日。


全部が、ここにつながっている。


私は画面を見る。


小さな影。


二つ。


手をつないでいる。


その瞬間。


カメラがまた鳴った。


ピッ。


新しい写真。


桜のトンネル。


私と紗月。


そして。


小さな影。


でも。


今度の写真は違った。


影が。


少し大きくなっている。


紗月が息をのむ。


「……成長してる?」


私は画面を見つめた。


確かに。


さっきより、ほんの少し大きい。


まるで。


時間が進んでいるように。


紗月が小さく言った。


「このカメラ」


私は静かに答えた。


「過去だけじゃない」


紗月がうなずく。


「未来も写す」


そのとき。


もう一枚。


ピッ。


新しい写真。


そこには——


桜のトンネル。


私と紗月。


そして。


三つの影。


私は息を止めた。


「……三人?」


紗月も固まっている。


影は。


大人二人。


そして。


小さな子ども。


その三つの影は。


手をつないで歩いていた。


紗月の目に涙が浮かんだ。


私は写真を見つめた。


その影。


間違いない。


私。


紗月。


そして——


子ども。


紗月が震える声で言った。


「悠人くん」


私は静かに答えた。


「うん」


紗月が涙をこらえながら言う。


「これ」


桜の花びらが、写真の上に落ちた。


「……本当に来る未来かな」


私は少しだけ笑った。


そして言った。


「来るよ」


紗月が驚いた顔をする。


「どうして?」


私はカメラを見る。


父が写っていた場所。


その空間を。


私は静かに言った。


「父さんが」


風が優しく吹く。


桜の枝が揺れる。


「守ってくれた未来だから」

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