表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜のトンネル  作者: 斑鳩あおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

第十六章 小さな影

「……誰?」


紗月の声は、ほとんどささやきだった。


私はカメラの画面を見つめた。


最後の写真。


桜のトンネル。


私と紗月。


そして——


小さな影。


確かに写っている。


背の低い影。


大人ではない。


まるで、子ども。


私は思わず言った。


「……子ども?」


紗月が首を振った。


「でも」


「?」


「ここ」


彼女は画面を指さした。


「私たちのすぐ後ろ」


私は写真を拡大した。


桜の花びらが舞う中。


ぼんやりした影。


でも。


よく見ると。


その影は——


手をつないでいるように見えた。


私は息を止めた。


「……え」


紗月が言った。


「これ」


私は画面を凝視する。


影は二つ。


とても小さい。


でも。


確かに。


手をつないでいる。


私は小さくつぶやいた。


「……二人?」


紗月がうなずく。


「たぶん」


桜のトンネルは静かだった。


風が少しだけ吹く。


花びらが、カメラの液晶に落ちた。


紗月が言った。


「悠人くん」


「うん」


「さっき」


彼女は思い出すように言う。


「お父さん」


「うん」


「送り返しに来たって言ったよね」


私はうなずいた。


「でも」


紗月の声が少し震える。


「もし」


「?」


「お父さんだけじゃなかったら?」


胸が、ドクンと鳴った。


「……どういう意味?」


紗月は写真を見たまま言った。


「事故の日」


私は黙っている。


「現場には」


彼女はゆっくり言う。


「私しかいなかった」


私はうなずく。


「警察もそう言った」


紗月は画面を指さした。


「でも」


「?」


「もし」


彼女の声が小さくなる。


「本当は」


桜の花びらが舞う。


紗月が言った。


「もう一人」


私は息を止めた。


「……誰?」


紗月は静かに言った。


「悠人くん」


胸が強く鳴る。


ドクン。


ドクン。


私は言った。


「俺?」


紗月はうなずいた。


「さっき言ってたよね」


「事故の瞬間」


私は思い出す。


ヘッドライト。


ブレーキ。


そして。


記憶が途切れた瞬間。


紗月が言った。


「もしかして」


彼女の声が震える。


「悠人くんも」


私は動けなかった。


紗月は言った。


「……あのとき」


桜の花びらが落ちる。


「死にかけてたんじゃない?」


その言葉が、胸に突き刺さった。


私は思い出そうとした。


事故の瞬間。


でも。


記憶が、そこで途切れている。


そのとき。


カメラがまた鳴った。


ピッ。


二人同時に画面を見る。


新しい写真。


そこには——


桜のトンネル。


私と紗月。


そして。


小さな影。


でも。


今度の写真では。


その影が、少しはっきりしていた。


私は息を止めた。


影は。


子どもではない。


もっと小さい。


紗月が震える声で言った。


「……これ」


私は画面を見つめた。


影の形。


丸い頭。


小さな体。


そして。


私はゆっくり言った。


「……赤ちゃん?」


紗月の目が大きく開いた。


私はもう一度写真を見た。


二つの小さな影。


手をつないでいる。


その瞬間。


紗月が、はっとした顔をした。


「悠人くん」


「?」


紗月の声が震えていた。


「これ」


私は顔を上げる。


紗月はゆっくり言った。


「……私たちの未来かもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ