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「爆死おめでとう、勇者さま」——全財産つぎ込んだで爆死したソシャゲーマー、異世界で配布R女神と最底辺から始めます  作者: ころにゃん


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8. 草原の膝枕

2体目のスライムは、10分ほど歩いた先にいた。


リルアの手をそっと離した。名残惜しかったけど、片手じゃビンは投げられない。


今度は手順がわかってる。壊れやすいビンの2本目を投げて、短剣で核を突く。残り1本。


ずぶ。ぱきん。


……慣れ、とは言わない。でも1体目よりはマシだった。手の震えも小さくなった。


『手際良くなってない?』


『学習能力たっか』


リルアが「2体目〜!」と両手を上げて喜んでる。後光がぽわぽわ。


『R女神ちゃん応援してるだけなのにかわいいな』


「ひなたちゃん、強い!」


「強くないよ。アイテム様々だよ」


「アイテムの使い方を考えたのはひなたちゃんでしょ?」


「……まあ、そうだけど」


「じゃあひなたちゃんが強いの!」


反論できなかった。リルアの論理、たまにシンプルに正しくて困る。



3体目。


ここで問題が発生した。


壊れやすいビン、最後の1本。


3本のビンに虚無のポーションを3等分した。つまり、3体が限界。


「……リルア。ビン、あと1本だけ」


「え? もう最後?」


「3本セットだからね。3回で終わり」


Nアイテムのリソース制限。SSRの装備なら1日使っても持つんだろうけど、Nは最初から数が少ない。


3体目のスライムがぷるぷるしながら近づいてくる。こいつは1体目より少し大きい。


最後の1本を投げた。薄いガラスがぱりんと割れて、虚無の霧が散る。


霧がスライムを包む――が、体が大きい分、効きが浅い。動きが鈍るけど、完全には止まらない。


「ちょっと足りない——!」


粘る糸を投げた。足元に絡みつく。でもスライムの力が強くて、糸がみしっと音を立てた。


今にも切れそう。


走った。短剣を抜いて——


「ひなたちゃん、今っ!」


リルアの声が、背中を押した。


スライムに突っ込む。


ずぶん。


深く刺さった。核に触れる。ぱきん。


3体目が崩れた。


「はあ……はあ……」


息が上がってる。足がふらつく。戦闘の緊張と、走った疲労と、手のひらに残るあの感触。


3体倒した。


壊れやすいビン、残りゼロ。粘る糸も使い切った。短剣は使えるけど、サポートアイテムがない状態で戦うのは危険だ。


『3本で3体。ぴったりだけど余裕がない』


『Nアイテム、継戦能力がなさすぎる』


「ひなたちゃん」


リルアが息を切らしてる私の横に立った。戦闘には参加してないけど、一緒に走ったりコンボのタイミングを声で教えてくれたりしてた。


「お疲れさま。3体もすごいよ」


「……うん」


前を見ると、少し離れたところに、4体目のスライムがぷるぷるしていた。


こっちに気づいてはいない。草原でのんびり揺れてる。


倒せるだろうか。


壊れやすいビンはもうない。粘る糸も使い切った。短剣一本で突っ込めば、核を壊せるかもしれない。でもサポートなしだとスライムの体当たりを食らう可能性がある。


ゲームなら突っ込む。スタミナ消費と報酬を天秤にかけて、いけると判断したら攻める。


でも。


リルアの顔を見た。


笑ってる。後光がぽわぽわしてる。でも、よく見ると、額に汗が浮いてる。銀色の髪が少し乱れてる。後光の光量が、朝より少し弱い。


疲れてるんだ。戦ってないけど、ずっと一緒に走って、声を出して、心配して。


「……やめよう」


「え?」


「今日はここまで。3体で十分だよ」


「でも、あと1体……」


「うん。でもビンもポーションもないし、リルアも疲れてるでしょ」


「わ、私は大丈夫だよ? 全然平気——」


「嘘。額に汗かいてる。後光もちょっと暗い」


リルアがはっとして、自分の額に手を当てた。


「……バレてた」


「バレてたよ」


『撤退は甘え』


『いや正解だろ。リソース切れで突っ込むのはダメプレイ』


『正論ニキが味方してる時点で撤退が正しい』


コメント欄も意見が割れてるけど、冷静な判断は「撤退」だ。


ソシャゲーマーはスタミナ管理を知ってる。限界を超えて突っ込んでも、得るものより失うもののほうが多い。


「ごめんね、リルア。もうちょっと行けるかと思ったけど」


「謝らないでよ! 3体も倒したのに! すごいんだよ!」


リルアがぶんぶん首を横に振った。


「帰ろう。明日もガチャ引けるし」


「うんっ! 明日のガチャも一緒に引こうね!」


「……もちろん」



帰り道。


草原を歩きながら、体の疲労がじわじわと効いてきた。


足が重い。腕がだるい。短剣を振ったせいで握力もほとんど残ってない。


「ひなたちゃん、大丈夫?」


「大丈夫……ちょっと疲れただけ」


全然大丈夫じゃない。足がもつれそう。前の世界で運動なんてしてこなかったツケが回ってきてる。


リルアが心配そうに私の顔を覗き込む。


「顔、白いよ?」


「色白なだけ」


「嘘。朝はもうちょっとピンクだった」


なんでそんなに顔色チェックしてるの。


草原の真ん中に、ちょうどいい大きな石があった。リルアがそこに座って、ぽんぽんと自分の膝を叩いた。


「ひなたちゃん。ここ」


「え?」


「膝」


「膝?」


「膝枕。いいから、横になって」


「い、いやいやいや。別にそこまで——」


「ひなたちゃん。命令」


「命令?」


「女神命令。横になりなさい」


リルアの青い目がきりっとしてた。


……女神命令って、そんなスキルあったっけ。ないよね。


でも、膝はたしかにやわらかそうで、抗議する体力が残ってなかった。


「……じゃあ、ちょっとだけ」


リルアの膝に頭を乗せた。


やわらかい。あったかい。銀色の髪がカーテンみたいに私の顔の横に垂れてきた。リルアの顔が上から覗いてる。


逆光で後光がぼんやり光って、女神っぽい。初めて女神っぽいかもしれない。


「えへへ。ひなたちゃんの寝顔、見放題」


「寝てないよ。目開いてるよ」


「もう閉じていいよ。休んで?」


リルアの手が、そっと私の前髪を撫でた。


「…………」


あったかい。


風が吹いて、草のにおいがする。空が青い。太陽が暖かい。リルアの膝がやわらかい。後光がぽわぽわ光ってる。


……あれ。


「リルア」


「ん?」


「なんか……体が楽になってきた」


「え?」


「さっきまで足がパンパンだったのに……腕もだるかったのに、ちょっと軽くなってる」


「えぇ? 私、何もしてないよ?」


リルアがきょとんとしてる。本当に何もしてないらしい。ただ膝を貸してるだけ。


でも、確実に回復してる。微弱だけど、体の疲れが少しずつ抜けていく。じわじわと、お風呂に浸かった後みたいな、全身のコリがほぐれていく感覚。


「リルアの近くにいると……回復する?」


「そんなことあるの?」


「あるみたい。今、実感してる」


『え、マジか』


『R女神にヒーラー適性?』


リルアが自分の手のひらを見つめた。


「……私が近くにいるだけで、ひなたちゃんが元気になるの?」


「みたい」


「…………」


リルアの後光が、ぽわ、と。


さっきまでロウソクだったのに。


ぽわぁ、と、暖炉くらいの温かい光が広がった。


「私がいると、ひなたちゃん……元気になるんだ」


その声が、震えてた。


顔を上げると、リルアの目にうっすら涙が浮かんでた。


「え、リルア? 泣いてるの?」


「泣いてない。泣いてないよ」


泣いてる。


「……だって」


リルアが鼻をすすった。


「私、ずっと……何にもできないって思ってたの。戦えないし、応援しても効果ないし、後光はしょぼいし。ひなたちゃんの隣にいるだけで、何にも役に立ててないって」


「リルア……」


「でも、いるだけでいいんだ。近くにいるだけで、ひなたちゃんが元気になるんだ」


涙がぽろっとこぼれた。私の頬に落ちた。あったかい。


「……いるだけで、役に立ってたんだ」


リルアの後光がぽわぽわ明滅してる。嬉しい時の光。揺れてるのは泣いてるから。


「リルア」


「……うん」


「前から役に立ってたよ」


「え?」


「昨日の夜、リルアが隣にいなかったら、私はたぶん怖くて眠れなかった。知らない世界で、知らないベッドで、一人きりだったら」


リルアが目を丸くした。


「ひなたちゃん……怖かったの?」


「……ちょっとだけね」


ちょっとだけじゃなかった。すごく怖かった。でもリルアが腕にくっついて寝てくれたから、なんとかなった。


「私がいたから、眠れたの?」


「たぶんね」


「……えへへ」


リルアが涙を拭いて、笑った。後光がぽわぁっと温かくなった。


「じゃあ、これからもいっぱい一緒にいるね。いっぱい回復してあげる」


「別に回復目的で一緒にいてほしいわけじゃ——」


「えー、じゃあ何目的?」


「それは……その……」


好きだから一緒にいたいなんて言えるわけない。好きって。友達として好き。そう。友達。


「……リルアがいないと、さみしいから」


言ってから、ものすごく恥ずかしくなった。


なにさみしいって。何言ってんの私。


リルアの後光が、ぼわっと爆発した。


「っ……! まぶしっ!」


「ご、ごめんなさい! 嬉しくて光っちゃった!」


草原の真ん中で、後光が太陽みたいに輝いてる。遠くにいたスライムがびっくりしてぷるぷる逃げてった。


「さみしいって言ってくれた……! 私がいないとさみしいって……!」


「だから光を抑えて!? モンスターに見つかっちゃうから!」


「えへへへへ」


リルアがにこにこしながら後光を抑えようとするけど、ぽわぽわ明滅が止まらない。嬉しすぎて制御不能。


『これが百合ですか(入信)』


『R女神のパッシブ回復、百合パワーで増幅してない?』


コメント欄がうるさい。でも今は、不思議と嫌じゃなかった。



リルアの膝枕で30分ほど休んだ。


体の疲労はだいぶ回復して、足取りもしっかりしてきた。


帰り道。夕暮れの草原を、二人で並んで歩く。


「ひなたちゃん」


「ん?」


リルアがごそごそとポケットを探って、何かを取り出した。


元気が出るメッセージカード。朝、使い道がなくてリルアに預けたやつだ。


「はい。これ」


リルアがカードを開いて、私の目の前にかざした。


『いつもがんばっていてえらいね! (Nランク)』


…………。


Nランクの定型文。何の効果もないゴミカード。


「どう、元気になった?」


「……うん。ちょっとだけ」


「ほんと!?」


「ちょっとだけね」


リルアの後光がぽわっとした。嬉しそう。


カードの効果じゃない。リルアが笑ってるから元気になっただけだ。


でもそれは言わない。恥ずかしいから。


『元気が出るメッセージカードの正しい使い方:かわいい女の子に読んでもらう』


『攻略サイトに載せろ』


うるさいなコメント欄。正解だけど。


――翌朝のガチャで出たのは「フレンドポイント」。友人に使えるアイテム。リルアに使ってみた。……効かなかった。


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