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「爆死おめでとう、勇者さま」——全財産つぎ込んだで爆死したソシャゲーマー、異世界で配布R女神と最底辺から始めます  作者: ころにゃん


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7. Nアイテムの逆襲

準備と言っても大したことはしない。


虚無のポーションを壊れやすいビンに移し替える。3本に均等に分ける。ポーションの元瓶は重くて投げにくいけど、壊れやすいビンなら片手で投げられるし、何よりぶつければ確実に割れる。Nアイテムの欠点が、そのまま武器の利点になる。


粘る糸は巻き方を変えて、投げやすい束にまとめる。


短剣を腰に差す。……革のベルトがないから、薄い革の端切れで即席のホルダーを作った。不格好だけど抜ける。


「……ひなたちゃん、器用だね」


「3年間、低レア装備でやりくりしてたからね。ゲームの中では」


ゲームの中では。


この言葉が、どこかに引っかかる。でも今は考えない。


よく燃える枯れ葉の束も念のためポケットに突っ込んだ。何が使えるかは現場で決まる。低レア攻略の鉄則だ。


元気が出るメッセージカードだけは……使い道が思いつかない。


「リルア、これ持っといて」


「え? カード?」


「ポケットに入れとけば邪魔にならないし。何かに使えるかも」


使えないと思ってる。でも捨てるのはなんか嫌だった。


「ひなたちゃん、ポケットぱんぱんだよ」


「全部持っていくの。ゴミに見えても、いつ使うかわかんないから」


「ひなたちゃん、ゴミに優しいね」


優しいっていうか、ゴミに救われてきたっていうか。


ふと、虚無のポーションの元瓶を見た。3本のビンに分けた残りが、底にほんの少しだけ残ってる。


「……これ、実際に飲んだらどうなるんだろ」


「え? 飲むの?」


「効果確認。敵にかけるものを、効果も知らないで使うのは怖いし」


それっぽい理由をつけて、元瓶に残った虚無のポーションを一口だけ飲んだ。


…………。


「ひなたちゃん? どう?」


「…………」


何も。


何も感じない。


楽しいも悲しいもない。嬉しいも怖いもない。世界がグレーになった。目の前のリルアがかわいいはずなのに、「かわいい」という感情が出てこない。心の中が無風。凪。


これが虚無。


概念で殴ってくるタイプのポーションだった。


「ひ、ひなたちゃん!? 目が死んでるよ!?」


「…………あ」


10秒くらいで戻った。


ぶわっ、と感情が戻ってくる。リルアの顔が見える。かわいい。ああよかった、「かわいい」がちゃんと感じられる。


「だ、大丈夫?」


「大丈夫。うん、これは効く。味は……」


「味は?」


「ない。味すらない。虚無だから」


「虚無の味は虚無なんだ……」


リルアが哲学的な顔をしている。


「敵にかけたら10秒動けなくなるはず。体感、かなりきつかった」


「ひなたちゃん、自分で飲んで確認するの、ちょっとこわい……」


「ソシャゲーマーは新アイテムの性能は自分で確認する主義なの」


嘘。ふつうは攻略サイトを見る。でもここに攻略サイトはない。


準備ができた頃には空が白み始めていた。


「あ、そうだ。これは食べよう」


ほんのり甘い木の実を半分に割って、リルアに渡した。


「わぁ、甘い!」


「朝ごはん代わり」


「えへへ。甘くておいしい」


リルアの後光がぽわっとした。



朝。冒険者ギルドで受付のエルナさんにガチャ結果を報告した。


N9、R1。Nの内訳を全部伝えると、エルナさんがすごい速度でメモを取っていく。目がキラキラしてる。朝から少女漫画のヒロインみたいに輝いてる。


「素晴らしいデータです。Nアイテムの排出傾向が見えてきますね……!」


Nアイテムのリストを「素晴らしいデータ」って言う人、初めて見た。


「あの、エルナさん。初心者向けのクエストを——」


「東の草原のスライム討伐が定番です。核を破壊しないと倒せませんが、単体行動なのでFランク向きですね」


核を壊す。スライム戦は基本中の基本。500作品で何千回と読んだ。


でも。読んだのと、やるのは、違う。


「桜庭さん」


エルナさんの声が少しだけ真剣になった。目が一瞬だけ遠くなる。何かを思い出してるみたいな。何かを……後悔してるみたいな。


「初めての実戦は、どんな冒険者でも緊張します。何かあったら、すぐに撤退してください」


「……はい。行ってきます」


「はい。……あ、桜庭さん。ガチャ結果、明日も楽しみにしています」


……戦闘の話よりガチャの話のほうが目が輝くの、この人。



東の草原。


街を出て20分ほど歩くと、見渡す限りの緑が広がっていた。


風が気持ちいい。空が広い。前の世界では、こんなに広い場所に立ったことがなかった。自分の部屋は6畳。行動範囲は学校と家とコンビニの三角形。


「わぁ……広いねぇ」


リルアが隣で目を輝かせてる。銀色の髪が風に揺れて、後光がぽわぽわしてて、草原と女神の組み合わせが絵画みたい。


「ひなたちゃん」


「ん?」


「あれ」


リルアが指差した先に、ぷるぷる震えている半透明の塊がいた。


スライム。


大きさは大型犬くらい。青みがかった半透明の体の中に、小さな光る核が見える。


「……いた」


心臓がどくんと鳴った。


500作品で読んだ。何千回と想像した。でも、目の前にいるのは初めてだ。


スライムがこちらに気づいた。ぷるん、と体を揺らして、ゆっくりと近づいてくる。


「ひなたちゃん……」


リルアが私の袖を掴んだ。後光がちょっと不安定に明滅してる。


「大丈夫。作戦通りにいくよ」


腰から壊れやすいビンを1本取った。虚無のポーションを詰めた、即席の投擲弾。残り2本。


深呼吸。


投げた。


ビンがスライムの手前の地面にぶつかって、あっけなく砕けた。壊れやすいのは伊達じゃない。中身が霧状に散る。


紫色の霧がスライムを包んだ。


スライムの動きが、目に見えて鈍った。ぷるぷる……ぷる……と、震えの速度が半分くらいになる。


効いてる。虚無、効いてる。


『おお』


『マジか』


『虚無の状態異常、スライムに有効!』


コメント欄が色めき立つ。


今だ。


私は短剣を抜き、走った。


スライムに近づく。半透明の体越しに核が見える。拳くらいの大きさの、光る球体。


短剣を構えた。


——刺す。


ずぶ、と。


短剣がスライムの体に沈んだ。ゼリーみたいな感触。ぬるっとした抵抗。生温い液体が手首まで伝わってきた。


核に、刃先が触れた。


ぱきん。


小さな音がして、核が砕けた。


スライムの体がぶるっと一度大きく震えて――崩れた。どろりと液体になって、地面に広がった。


「……倒した」


「ひなたちゃん! 倒したよ!」


リルアが駆け寄ってきた。


「すごいすごい! 作戦通り! ひなたちゃんすごい!」


『Nアイテムでスライム撃破は草』


『虚無→短剣のコンボ、理にかなってるな』


『低レア勇者の初勝利wwwwww』


コメント欄が沸いてる。


勝った。初戦闘、勝った。作戦が通じた。Nアイテムの組み合わせで、ちゃんと勝てた。


嬉しい。


嬉しいはずなのに。


右手が震えてた。


短剣を握ったまま、指が震えてる。さっきの感触が手のひらに残ってる。ずぶ、って沈んだ感触。ぬるっとした抵抗。核がぱきんと割れた振動。


ゲームでは、タップ一つだった。スライムをタップして、「討伐完了!」の文字が出て、経験値とゴールドがもらえた。


そこに、感触なんてなかった。


「ひなたちゃん?」


「あ、うん。大丈夫」


短剣をしまった。震えてる手を背中に隠した。


大丈夫。ゲームと同じだ。スライムは最弱モンスター。倒して当たり前の敵。


――手のひらの感触が、まだ消えない。


「ひなたちゃん」


「ん?」


「手」


リルアがじっと、私の背中に隠した手を見ていた。


「……震えてる?」


「え? 震えてないよ。風が冷たくて」


「そっか」


リルアはそれ以上聞かなかった。


黙って隣を歩き始めた。


その時、背中に隠してた右手から、ふっと力が抜けた。隠すのに疲れたのかもしれない。手が体の横に落ちた。


——リルアの小さな手が、その右手をそっと取った。


震えてる手を、両手で包み込んだ。何も言わずに。


あったかい。


さっきまでの、ずぶって刺さった感触が——リルアの手のひらの温度で、少しだけ薄まった。


「……リルア」


「何も聞かないよ。でも、手は繋いでていい?」


「……うん」


リルアがにこっと笑った。後光がぽわっとした。


『…………尊い』


『手繋いだ。手繋いだぞ。これ戦闘中だぞ』


手を繋いだまま、2体目を探しに歩き出した。



――壊れやすいビン、残り1本。そして次のスライムは――今までで一番、大きかった。


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