5. ずっと一緒の約束
登録手続きが終わって、ギルドカードが発行された。
……灰色だった。
カード全体が灰色。背景も灰色。文字も地味。
ソシャゲのNカードと同じ配色。
「あの、エルナさん。このカード、色って選べます?」
「ランクに応じて自動です。Fランクは……その、灰色です」
「ですよね」
「ちなみにSSRランクの方は虹色に光ります」
「その情報は聞いてない」
レクトちゃんのカード虹色なんだ……。
リルアが私のカードを覗き込んだ。
「わあ、ひなたちゃんのカード!」
「灰色だけどね」
「でも、ひなたちゃんの名前が書いてある! 私の名前も! "所属女神:リルア"って!」
「……そこ喜ぶんだ」
「だって、ペアだよ? カードでもペアなんだよ?」
リルアが灰色のカードを両手で持って、きゅっと胸に抱えた。
……灰色でもいい気がしてきた。
エルナさんがそのやり取りを見て、柔らかい目をしていた。
……少しだけ、寂しそうな目でもあった。
「……桜庭さん」
「はい」
「その、毎日のガチャ結果なんですが。私にも教えてもらえませんか。データを……まとめたいので」
頬がほんのり赤い。
「いいよ、もちろん! ガチャ仲間だね!」
「ガチャ仲間……!」
エルナさんの目がキラキラ輝いた。事務的な仮面がまたちょっとずれてる。
「ありがとうございます。毎朝、楽しみにしていますね」
リルア(後光暗め)「……私も楽しみにしてるのに」
「リルアが一番だよ?」
後光復活。
◇
ギルドを出た頃には夕方で、空がオレンジ色に染まっていた。
宿に戻って、ベッドに倒れ込む。
異世界2日目。
スキルは2個。ランクはF。ギルドカードは灰色。
でも、ガチャ仲間ができた。女神さまは隣にいる。
悪くない、のかな。
「ひなたちゃん」
リルアが、もじもじしながら私のベッドの横に立っていた。
「あのね……お願いがあるの」
「うん」
「今夜も……一緒に寝ていい?」
「え? リルアのベッドあっちにあるよ?」
「あるけど……ひとりは怖いの。暗いと後光がしょぼくて余計に暗くて……」
リルアの後光をちらっと見た。ロウソク。確かにこれじゃランプにもならない。
「お願い……ダメかな?」
上目遣い。指先で私のシーツの端をぎゅっと掴んでる。
こんな顔されて断れる人間いる?
「……おいで」
「! いいの!?」
「いいよ。おいで」
布団を持ち上げてあげると、リルアがすごい勢いで潜り込んできた。
そしてすぐに私の腕にくっついた。
「えへへ……ひなたちゃんのベッド、ひなたちゃんの匂いがする」
「嗅がないでよ恥ずかしい」
「いい匂い。安心する匂い」
「……もう」
コメント欄が流れてるけど、「見るな」と念じた。
『また真っ白に――』
『おい大事なとこだろ!』
『プライバシーフィルター仕事しすぎ』
『視聴者はモヤモヤしてます』
騒いでるけど、知らない。
今は、二人きりがいい。
リルアが私の腕に顔を埋めた。銀色の髪が広がって、後光がふわぁっと柔らかく光る。
さっきまでロウソクだったのに、今は暖炉くらいの温かさ。
「ひなたちゃん」
「ん?」
「今日、鑑定でスキルが2個って言われた時……悲しくなかった?」
「うーん……ちょっとだけ」
嘘。ちょっとじゃなくて、すごく怖かった。
でもそれは言わない。
「ごめんね」
「リルアのせいじゃないよ」
「でも、セラフィーナちゃんのところは7個で……私のところは2個で……」
「リルア」
「……はい」
「昨日言ったでしょ。推しは性能じゃないって」
「うん」
「スキルが2個でも7個でも、リルアが私の女神さまなのは変わらないよ」
リルアが顔を上げた。
近い。すごく近い。
青い目がうるうるしてて、後光がぽわぽわ光ってて、唇がちょっと震えてて。
「ひなたちゃんは……すごいね。私、今まで誰にもそんなこと言ってもらったことない」
「そう?」
「うん。"Rだから"って、"どうせハズレだから"って、みんな見向きもしなかったの。でもひなたちゃんは……私を見てくれる」
「……見るよ。だって私のたった一人の女神さまだもん」
言った後で、ちょっと恥ずかしくなった。
リルアが真っ赤になった。
後光がぼわっと明るくなって、暗かった部屋が一瞬だけ昼間みたいに照らされた。
「わっ、まぶしっ!」
「ご、ごめんなさい! 勝手に光っちゃった!」
慌てて後光を抑えようとするけど、ぽわぽわ明滅が止まらない。
嬉しい時は光って、悲しい時は暗くなって、照れると暴走する。
感情ダダ漏れ後光。
「ね、寝よう! 明日は0時にガチャだし!」
「う、うん! ガチャ! 楽しみ!」
リルアが私の腕にぎゅっとしがみついて、目をぎゅっと閉じた。後光が少しずつ落ち着いていく。キャンドルくらいの光量。
ちょうどいい明るさだ。
……今日、鑑定室で感じた「怖い」は、まだ消えてない。
スキル2個で、この世界を生きていけるのか。ゲームの知識だけで、本当に戦えるのか。
わからない。
でも隣に、あったかい女神さまがいる。
それだけで、もうちょっとだけ頑張れる気がするのは、たぶん甘えだ。
でもまあ、今はいいか。
「おやすみ、リルア」
「おやすみ、ひなたちゃん。……明日も一緒だよ?」
「一緒だよ」
「……えへへ」
R女神の後光に照らされながら、異世界2日目の夜が更けていった。
明日はガチャ初回。
N90%。ゴミの山が来る。
でも、ソシャゲで3年間やってきたことを思い出す。
ゴミに見えるアイテムの中に、誰も気づいていない使い道を見つけること。それが私の戦い方だった。
低レア攻略の専門家は、低レアスキルで異世界を生き延びてみせる。
……たぶん。
――そして深夜0時。リルアと手を重ねて、異世界初のガチャを引いた。光の色は――灰色。そして9個のNアイテムが、部屋にばらまかれた。
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