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「爆死おめでとう、勇者さま」——全財産つぎ込んだで爆死したソシャゲーマー、異世界で配布R女神と最底辺から始めます  作者: ころにゃん


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3. スキル2個って何ですか?

異世界召喚2日目の朝は、顔に当たるやわらかい感触で始まった。


もふ、と。


「……んん」


目を開けると、視界いっぱいに銀色の髪が広がっていた。


リルアだ。


昨夜、隣のベッドで寝ていたはずの女神さまが、いつの間にか私のベッドに潜り込んで、私の腕を抱き枕にしている。


すぅ、すぅ、と穏やかな寝息。後光が寝ぼけてぼんやり明滅してる。


顔が、近い。


まつげ長いな……。肌きれいだな……。唇ちっちゃくてかわいいな……。


って何をじっくり観察してるの私は。


「……リルア。朝だよ」


「んぅ……あと5分……」


「女神さまが二度寝するの?」


「ひなたちゃん、あったかい……もうちょっと……」


ぎゅっ、と腕への抱きつきが強くなった。


やわらかい。あったかい。甘い匂いがする。


……朝から心臓に悪いんだけど。



なんとかリルアを起こして、顔を洗って(リルアは水が冷たくてきゃーきゃー言ってた。かわいかった)、着替えて、朝食をもらった。


リルアはパンを両手で持って小動物みたいに食べてた。かわいかった。


いよいよ本日のメインイベントに向かう。


王宮の鑑定室。


正式にスキルと能力を鑑定してもらう儀式だ。



鑑定室は広い部屋で、中央に魔法陣が描かれている。その前にローブ姿の老人が座っていた。王宮鑑定士のモルドさん。白くて長いひげが床につきそう。いかにもファンタジーのおじいちゃん。


そして――鑑定室には、先客がいた。


レクト・ヴァルシュタイン。


白銀の鎧が鑑定室の光を反射して、朝からまぶしい。


その隣に、セラフィーナ。レクトのSSR女神。


昨日の召喚の間でも見たけど、今日はリルアの後輩としての姿を知ってるから、余計に気になる。


セラフィーナがこちらに気づいた。


「あ、リルア先輩! おはようございます!」


ぺこり、と深々とお辞儀。SSR女神がR女神にお辞儀してる図、相変わらず絵面がおかしい。


「お、おはよう、セラフィーナちゃん……」


「先輩、昨夜はよく眠れましたか? 客間のベッドが硬くなかったですか? 何かお困りのことがあったら、私に言ってくださいね」


先輩の体調を気遣い、不便がないか確認し、困りごとの相談まで買って出る。


できる後輩すぎる。


リルアが小声で私に言った。


「……セラフィーナちゃん、昔からああなの。なんでも上手にこなして、みんなに頼りにされて……すっごくいい子なの」


「うん、いい子だね」


「いい子だから余計につらいの……」


わかる。嫌な人なら「あの人嫌い」で済む。でもいい子だから、負けてる自分が惨めになるしかない。


私はリルアの手をぎゅっと握った。


「大丈夫。リルアにはリルアのいいところがあるから」


「……あるかな」


「あるよ。少なくとも、寝顔は世界一かわいい」


「ね、寝顔!?」


リルアが真っ赤になった。後光がぽわっと明るくなる。


セラフィーナがそれを見て、ふわっと微笑んだ。


「……リルア先輩、いい勇者さまですね」


嫌味じゃない。心からそう思ってる目だった。


いい子だ。ほんとにいい子だ。


だからつらいんだけどね。



レクトがこちらを見た。碧い目が一瞬だけ私を捉えて、すぐに逸らされた。


「……来たか」


「おはよう、レクトちゃん」


「……ちゃん?」


レクトちゃんの眉がぴくっと動いた。


「私を"ちゃん"付けで呼ぶ者は初めてだ」


「ダメ?」


「……好きにしろ」


ぷいっと横を向いた。耳がちょっと赤い。


……気のせいじゃないよね、それ。



鑑定はレクトちゃんから始まった。


モルドじいさんが杖を掲げると、レクトちゃんの頭上に光の画面――ステータスウィンドウが展開された。


でかい。


画面がでかい。



**【レクト・ヴァルシュタイン】**


女神ランク:SSR


スキル数:7


1. 全属性魔法

2. 聖剣術

3. 飛行

4. 結界

5. 強化身体

6. 鑑定

7. カリスマ


ステータス:全項目A以上



モルドじいさんがスキルを一つずつ読み上げるたびに、騎士団の人たちがどよめく。


「全属性魔法……!」


「聖剣術に飛行まで……!」


「なんという逸材……!」


レクトちゃんは腕を組んで涼しい顔。でもちょっとだけ口角が上がってる。


スキルが画面いっぱいに並んでて、ステータスも全部高くて、背景に金色のエフェクトがかかってる。SSRキャラの詳細ページそのもの。


セラフィーナが「さすがレクトさまです」とにこにこ拍手している。後光がレクトのステータス画面をさらにキラキラ照らしてる。演出過剰。


……泣かないもん。泣かないけど、見るのがちょっとつらい。



「では次に、桜庭ひなた殿」


モルドじいさんが私を呼んだ。


魔法陣の中央に立つ。杖が掲げられて、私の頭上にもステータスウィンドウが展開された。


――小さい。


画面が小さい。


レクトちゃんのが50インチテレビだとしたら、私のはスマホ画面。



**【桜庭ひなた】**


女神ランク:R


スキル数:2


1. 無料10連ガチャ

2. コメント欄


ステータス:全項目C〜D



しん、と。


部屋が静まり返った。


レクトちゃんの時のどよめきが嘘みたい。


モルドじいさんがステータス画面を見て、目をこすった。もう一回見た。首を傾げた。もう一回杖を振った。


画面は変わらない。


「……桜庭殿」


「はい」


「スキル……2つ、ですな」


「2つです」


「無料10連ガチャ……コメント欄……」


声に出して読まないでほしかった。


その時だった。


脳内に、文字が流れた。


右から左に、すーっと。ニコ●コ動画みたいに、文字がスクロールしていく。


『スキル2wwwwww』


……何これ。


何これ何これ何これ。


『404 Not Found』


『スキル欄がメンテ中(※終了未定)』


誰かが私の視界を見てて、それにリアルタイムでコメントしてる。匿名のコメントが、次々と脳内を流れていく。まるで配信者と視聴者の関係。


これが「コメント欄」? 名前を読み上げた瞬間に起動したの?


うるさい。うるさいけど、今はそれどころじゃない。


モルドじいさんが大臣の方を見た。大臣が王さまの方を見た。王さまが天井を見た。


全員、目を逸らしてる。


怖い、と思った。


恥ずかしいんじゃない。いや恥ずかしいけど、それ以上に怖い。


昨夜、リルアに「スキル2個でも使い方次第で化けるかもしれない」って偉そうに言った。低レア攻略は私の得意分野だって。


でもそれはゲームの話だ。


リセットボタンがあって、やり直せて、失敗してもスマホを閉じれば済む世界の話。


ここにはリセットがない。ゲームオーバーは本当の死だ。


スキルが2個しかないって、ここでは、死ぬかもしれないってことだ。


「あの」


モルドじいさんが向き直った。


「老体の目が衰えたのかと思いましたが……本当に2つ、ですかな?」


「2つです」


「何か隠しスキルなどは……」


「ないです」


「覚醒条件を満たすと増えるとか……」


「たぶんないです」


「…………」


おじいちゃんの哀れみって地味に刺さるんだよなぁ。


スキル欄の余白が悲しい。レクトちゃんの画面はスキルで埋め尽くされていたのに、私の画面は「1. 無料10連ガチャ」「2. コメント欄」の下が全部空白。


「せめて……空いてるところに"Coming Soon"って書いといてくれないかな」


「かみんぐすーん……?」


「あ、こっちの話です」


コメント欄がまだ止まらない。さっきからずっと流れ続けてる。


『課金すれば増えるんじゃね?(課金要素ない)』


『下半分が広告スペースに見える』


広告スペースは言い過ぎ。……いや否定できない。


セラフィーナが心配そうな顔でリルアに駆け寄った。


「リルア先輩……大丈夫ですか?」


「う、うん……大丈夫」


「先輩の勇者さまのスキルが2つなのは、先輩のせいじゃないですからね! Rランクの付与上限って確か2つだから、先輩は上限いっぱいまで付与してるんです! むしろ満点ですよ!」


フォローしてくれてる。一生懸命フォローしてくれてる。


でもセラフィーナちゃん。あなたの勇者さまのスキルが7個なの、この部屋の全員が知ってるの。「2つで満点」って褒められると、7個との差が余計に浮き彫りになるの。


リルアの後光がしゅんと暗くなった。


セラフィーナが「あ……ごめんなさい……」と慌てた。悪気がないのがわかるから、誰も責められない。


この空気、つらい。


リルアが私の横で小さくなっている。


「ごめんね……ごめんね、ひなたちゃん……」


声が震えてた。


「私がもっと強い女神だったら……もっとたくさんスキルをあげられたのに……」


「リルア」


「……はい」


「ねぇ、リルア。私ね、前の世界でゲームをたくさんやってたの」


「……げーむ?」


「うん。しかもね、強いキャラを使わないで、弱いキャラだけで勝つのが得意だったの」


リルアがきょとんとしてる。セラフィーナも首を傾げてる。レクトちゃんだけ何故か聞き耳を立ててる。


「みんなが"無理でしょ"って言う編成で、勝ち方を見つけるの。それが一番楽しかった」


「弱いキャラだけで……?」


リルアの目が、少しだけ変わった。


「スキルが2個でも、使い方次第で化けるかもしれない。それを考えるのは、私の得意分野だから」


「ひなたちゃん……」


「だから、ごめんねって言わなくていいよ。むしろ燃えてきた」


口にしたら、自分の中の怖さがちょっとだけ薄まった。


嘘じゃない。半分は強がりだけど、半分は本気。残りの半分は――怖い。すごく怖い。でもリルアの前で怖い顔はしたくない。


低レア攻略のゾクゾク感を、私は知ってる。正攻法じゃ絶対勝てない相手に、工夫と発想で穴を見つける。あの快感は、SSRを引いた時とはまた違う種類の喜びだ。


……ゲームでは、ね。現実で通用するかは、わからないけど。


リルアが、ふわっと笑った。


「……ひなたちゃんって、すごいね。何があっても、前を向いてるね」


「前を向いてるっていうか……ガチャ運がないから横道を探してるだけだよ」


「その横道を見つけるのがすごいんだよ」


……ちょっとだけ、泣きそうになった。


怖い。本当は怖い。でもリルアがそうやって笑ってくれるなら、もうちょっとだけ強がっていられる。


リルアは気づかなかったみたいだけど、セラフィーナが紫の瞳を細めて、小さく頷いていた。



――鑑定の後、廊下でレクトちゃんが立ち止まった。碧い目が——初めて、冷たくなかった。


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