2. SSR勇者と二つの月
そんなやりとりをしている間に、広間の空気が変わった。
もう一つの魔法陣が輝き始めた。
私の時と同じように光が収束する。
でも、演出の格が全然違った。
金色の粒子が舞い散る。荘厳なファンファーレが鳴り響く(本物の楽器隊が演奏してた!)。床から天井に向かって光の柱がまっすぐ伸びる。
私の召喚演出が「N排出の灰色画面」だとしたら、こっちは「限定SSRの特別ムービー」。
光の中から、ひとりの女性が姿を現した。
金髪碧眼。長い金髪が光の粒子の中できらきら揺れて、白銀の鎧がまぶしくて、腰には宝石をちりばめた聖剣。
背が高くて、姿勢がびしっとしてて、立ってるだけで「強い」ってわかる。
少女漫画の表紙みたい。
……かっこいい。悔しいけど、すっごくかっこいい。
そして彼女の背後に、もう一人の女神が降臨した。
豊かな水色の髪に純白のドレス。紫の瞳。後光が――まぶしい。ちゃんとまぶしい。うちのリルアの100倍くらいまぶしくて、広間全体が照らされている。直視できないレベル。
SSR女神。
その女神が、こちらに気づいた。
正確には、リルアに気づいた。
「あっ! リルア先輩!」
SSR女神が、ぱあっと笑顔になって声を上げた。
……先輩?
「お久しぶりです! 先輩、召喚されてたんですね!」
「せ、セラフィーナちゃん……!?」
リルアが目を丸くした。
「知り合い?」
「う、うん……女神の研修で一緒だったの。私のほうがずっと先に女神になったから、一応、先輩で……」
「一応じゃないです!」
セラフィーナがびしっと背筋を伸ばした。SSR女神がR女神に対して直立不動。絵面がおかしい。
「リルア先輩は、研修中いつも優しくしてくださいました。迷子になった時も先輩が見つけてくださったんです」
「あ、あれは私も一緒に迷子になってただけで……」
「一緒に迷子になってまで付き合ってくださったんです!」
いい子だ。本気でリルアを尊敬してる。嫌味が一切ない。
……ないんだけど。
セラフィーナの後光が明るすぎて、リルアの後光が完全にかき消されてる。太陽の隣のロウソク。先輩を立てたい気持ちはわかるけど、物理的に後光で負けてるの。
リルアがちょっとしょんぼりした。
「……セラフィーナちゃん、立派になったね。SSRだし、後光もまぶしいし……」
「先輩のおかげです! 先輩に比べたら私なんてまだまだ――」
リルアの後光:ロウソク。
セラフィーナの後光:シャンデリア。
「まだまだ」の基準がおかしいよセラフィーナちゃん。
セラフィーナがハッと自分の後光に気づいて、慌てて光量を落とそうとした。
「す、すみません先輩、光りすぎました……!」
しゅるるる、と後光がちょっと弱まった。
それでもリルアの10倍は明るい。
リルアが私の袖をきゅっと掴んだ。小声で。
「……ひなたちゃん。私、ちょっと惨めかも」
その一言が、ぎゅっと胸にきた。
「惨めじゃないよ」
「でも……」
「まぶしすぎる光より、隣にある小さな光のほうがあったかいこともあるの。私はロウソクくらいが落ち着くから」
……自分で言っておいてなんだけど、なんか急に恥ずかしいこと言った気がする。
でもリルアがちょっとだけ笑った。後光が少しだけ戻った。
◇
広間が歓声に包まれる。
「おお……!」
「なんと神々しい……!」
「これぞ真の勇者召喚……!」
私の時、みんな無言だったよね?
金髪の勇者が一歩前に出た。凛とした声。
「私はレクト・ヴァルシュタイン。この世界の召喚に応じ、参上した」
ルドヴィク王さまが嬉しそうに駆け寄った。私の時と笑顔が5段階くらい違う。
「素晴らしい! SSR女神の召喚だ!」
広間がどよめく。歓声が何重にも重なる。
見てるだけでわかる。立ち姿、纏う空気、何もかもが規格外。
ソシャゲで例えるなら、限定SSRの完凸フル装備。初日から最強編成が完成してる。
……で、私。R。
向こうがSSR。こっちがR。格差は、数字を見るまでもなかった。歓声の量と、周囲の目の温度差で、もう全部わかってた。
レクトがこちらに歩いてきた。
近くで見ると、もっときれい。碧い目がすっと細められて、私のステータスを一瞥した。
「……R女神か」
それだけ。でも、その一言に全部が込められてた。
沈黙。ソシャゲの対戦で相手の編成見た時の「あっ……(察し)」と同じ空気。
「哀れだが、足手まといにだけは、ならないでくれ」
上から来た。清々しいほど上から。
わかるけどね。SSRから見たら、Rの私なんてイベント配布枠だ。
でも言い方ってものがあるんじゃないかな。
「……善処します」
レクトの背中を見送る。白銀の鎧がキラキラしてる。
……あれ。横顔がちょっとだけ赤かった気がした。照明の加減かな。
リルアが「ひなたちゃん……」と心配そうに見上げてくる。
大丈夫。へこたれないよ。
だって私、ソシャゲで3年間、低レアだけでイベントボスを倒し続けてきた女だよ?
最高レアが引けなくても、手持ちのNとRで工夫して勝ってきた。みんなが「無理でしょ」って言う編成で、勝ち方を見つけるのが、誰より得意だった。
……ゲームの中だけの話だけど。あの3年間が、私の居場所だった。
R女神でも、やりようはあるはず。
……あるよね?
「ひなたちゃん。あっちの勇者さんは何で召喚されたのかな。やっぱり爆死?」
「たぶん違うよ。もっとかっこいい理由だと思う」
「えー。じゃあ爆死で召喚はひなたちゃんだけ?」
「たぶん史上初」
「すごい! ひなたちゃん、特別だね!」
「そのポジティブさは嫌いじゃないけど、今はちょっと刺さる」
◇
召喚の儀式が終わって、控えの間に通された。
レクトは王さまや騎士団のえらい人に囲まれてキラキラの輪の中心にいる。セラフィーナが隣に控えていて、後光が部屋の半分を照らしている。
私の方には大臣さんが一人だけ。
「率直に申し上げると、R女神の勇者で魔王を討伐した前例はありません」
だよね。
「まずは冒険者ギルドで経験を積んでいただきたい」
体よく追い出されるわけだ。反論できない。
「わかりました」
大臣さんが去って、広い部屋に私とリルアだけが残された。
窓の外には見たこともない街並み。中世ヨーロッパ風の建物に魔法のあかりがぽつぽつ。空には月が2つ。
「ひなたちゃん」
リルアが隣に座った。後光がロウソクみたいにぼんやり。
「ごめんね。私がRだから……」
「やめやめ。私ね、ガチャの結果を引いたキャラのせいにはしない主義なの」
「……でも」
「いい? リルア。ソシャゲーマーの世界にはね、こういう言葉があるの」
二つの月を見上げながら言った。
「『推しは性能じゃない』」
「おし……?」
「好きになったキャラは、レアリティ関係なく使い続けるの。SSRじゃなくても、Rでも、Nでも。自分が引いたキャラを信じる。それがソシャゲーマーの誇り」
リルアが目を丸くした。
「じゃあ……ひなたちゃんは、私を使ってくれるの?」
「使うっていうか、一緒にやっていこ。R女神とR勇者の二人パーティ」
「R勇者って……ひなたちゃん自分のことも……」
「だって私一般人だよ? SSRとは口が裂けても言えないでしょ」
リルアが、ふわっと笑った。つぼみが開くみたいな笑い方。
「ありがとう、ひなたちゃん」
「うん」
「私、頑張るね。ひなたちゃんの推し、私がなるね!」
「え? ちょっと待って、推しの意味がね――」
言い終わる前に、リルアが抱きついてきた。
ぎゅって。
銀色の髪がふわって揺れて、甘い匂いがして、やわらかい体温。
「ひなたちゃんの推し、私がなるから。全部捧げるね!」
「いやだから意味が反転して……って、ちょ、近い。近いよリルア」
顔が近い。青い目がきらきらしてる。
心臓がどくどくする。異世界に来たストレスでドキドキしてるだけ。女の子に抱きつかれてドキドキとかじゃないから。
「えへへ。ひなたちゃん、あったかい」
「……もう。しょうがないなぁ」
そっと背中に手を回した。しょうがないから。泣きそうな女神さまを放っておけないから。
……かわいいからじゃないよ。たぶん。
◇
しばらくリルアをぎゅっとしてから(しょうがなくだからね)、窓辺に並んで座った。
二つの月が、見たこともない色で空を照らしてる。
「ひなたちゃん」
「ん?」
「この世界、月が2つあるんだね」
「うん。きれいだね」
「……ひなたちゃんの世界は、1つだったの?」
「1つだったよ」
「寂しくないの? 1つだと、お月さまひとりぼっちじゃない?」
……なんだろう、今の言葉。
ちょっとだけ、刺さった。
「……寂しかったのかもね。お月さまも、私も」
「え?」
「ううん、こっちの話」
リルアが不思議そうに首を傾げたけど、追求しなかった。代わりに、そっと肩にもたれかかってきた。
銀色の髪が肩に広がる。後光がぼんやり、ロウソクみたいに揺れてる。
あったかい。
「……ひなたちゃん」
「ん?」
「明日から、どうするの?」
「……冒険者ギルドに行くよ。大臣さんに言われたし。経験を積めって」
「一緒に行っていい?」
「当たり前でしょ。パーティなんだから」
「……えへへ」
リルアが嬉しそうに笑って、ぎゅっと腕にしがみついた。
その重みが、なんだか心地よかった。
◇
しばらくそうしていたら、リルアがすぅすぅと寝息を立て始めた。
銀色の髪が肩に広がって、後光がうとうとと明滅してる。寝ると後光も寝るんだ。かわいい。
……かわいいな。
ガチャで爆死して、異世界に召喚されて、女神のランクはRで、何にも持ってなくて。
なのに今、ちょっとだけ幸せな気持ちになってるのは、この子の寝顔のせいだと思う。
前の世界では、誰かの寝顔を隣で見ることなんてなかった。自分の部屋で、スマホの画面を見てるだけだった。
SSR女神がよかった。
……って思ってたけど、まあいいか。
引いたカードで戦うの。
この子と一緒に。
リルアが寝言を言った。
「……ひなたちゃんの爆死、ありがとう……むにゃ」
……その言葉が感謝として成立する世界、ここだけだよ。
――そして翌朝、鑑定室。私のステータスウィンドウは、レクトちゃんの50インチテレビに対して――スマホ画面サイズだった。
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