1. 女神ガチャ、爆死しました
異世界召喚のきっかけは、普通、死ぬことだ。
トラックに轢かれるとか、病気で倒れるとか、階段から落ちるとか。なろう系500作品を読破した私の統計によると、異世界転生・召喚のトリガーは9割が「死亡」である。
だから言いたい。
ガチャの爆死は、死亡に含めないでほしかった。
◇
話は3分前に遡る。
深夜0時。推しキャラのピックアップガチャ、最終日。
私のスマホには「所持石:300」と表示されていた。
10連を3回。これが最後の弾丸。今月のバイト代、全額投入。友達と遊ぶ予定もないし、使い道なんてこれしかなかった。
……まあ、予定がないんじゃなくて、誘われないだけなんだけど。「桜庭さんは一人でいるほうが好きなんだよね」って。みんなそう思ってる。
否定しなかった私も悪い。
推しの限定SSR。排出率0.7%。天井まではあと200連足りない。
でもいける。いける気がする。だって今日は推しの誕生日だから。
回した。
10連目。来ない。
20連目。来ない。
30連目。来ない。
結果:N×27、R×3。SSR、0枚。
画面に「おめでとうございます!」と表示された。
何がおめでとうだ。
「……爆死した」
呟いた。
ソシャゲーマーなら誰でも知ってる言葉。大量の石を使って何も得られなかった時の、あの絶望を一言で表す単語。
爆死。
桜庭ひなた(17歳・女子高生・廃課金ソシャゲーマー・友達少なめ)は、爆死した。
その瞬間だった。
スマホの画面がバチッと弾けて、足元に魔法陣が展開した。
「……え?」
光。まばゆい光。体が浮く。畳から足が離れる。天井が遠ざかる。
最後に見えたのは、机の上のスマホ。画面には「所持石:0」。
……嘘でしょ。
◇
着地、というか落下。
お尻をついた床は冷たい石畳で、見上げた天井はどこかの大聖堂みたいに高い。周囲にはローブを着た人たちが円を描いて立ってる。
魔法陣。蝋燭。荘厳な空気。
500作品読んだ私にはわかる。召喚の儀式だ。
「……マジかぁ」
異世界召喚は「死」がトリガーのはず。
私は死んでない。死んでないよね? ガチャで爆死しただけだよね?
……爆死。
いやいやいやいや。
「お初にお目にかかります、召喚されし勇者よ」
白髪交じりの壮年の男の人が進み出た。王冠を被っている。国王さまだ。
「私はこの国の王、ルドヴィク。魔王の脅威からこの世界を救うため、異世界の勇者を召喚した」
テンプレだ。でも今はそれより聞きたいことがある。
「あの、王さま。私、なんで召喚されたんですか? 死んでないんですけど」
王さまが首を傾げて、隣の大臣さんに目配せした。大臣さんが分厚い本をめくる。
「召喚の条件は『異世界にて魂が死に瀕した者』……とありますが」
「死に瀕してないです。元気です」
「しかし、召喚の魔法陣が反応したということは、条件を満たしていたはず……」
ここで、私の足元の魔法陣がもう一度光った。
虹色の光。
ソシャゲーマーにとって虹色は特別な色。ガチャの最高レア演出。画面が虹色に割れた瞬間の、あの心臓が飛び出しそうな感覚。
光が収束して、人の形がふわりと浮かび上がった。
銀色の、長い髪。白いワンピース。透き通るみたいな肌。びっくりするほど整った顔立ち。
……美少女だ。文句なしの美少女が、私の目の前に降り立った。
虹色演出で出てきた美少女。SSR女神の召喚――
と思ったんだけど、後光がしょぼかった。
ロウソクくらいの光量。
「は、初めまして!」
女神さまが両手を胸の前でぎゅっと合わせて、ぺこりと頭を下げた。
「わ、私はリルア! あなたを召喚した女神です!」
「あ……どうも。桜庭ひなたです。あの、リルア」
「うん!」
「私、なんで召喚されたの? 死んでないんだけど」
リルアが小首を傾げた。
「え? でもひなたちゃん、爆死してたよね?」
「……は?」
「召喚の窓から見てたの。ひなたちゃん、すっごく爆死してた。ぼーん! って」
「いや、それはガチャの爆死であって、本当に死んだわけじゃ――」
「爆死って、死んでるんじゃないの?」
リルアが心底不思議そうな顔で言った。
青い瞳がきょとんとしてて、銀色の髪が揺れてて、本当にわからないって顔。
「だって"爆死"だよ? 爆発して死んでるんでしょ? すっごく激しく死んでるんだなぁって思ってたの」
「死んでないよ!? ガチャで3万円溶けただけだよ!?」
「3万円が爆発しちゃったの!? 大変!」
「爆発してない! 消えただけ! あと確かに大変!」
ルドヴィク王さまが大臣さんと顔を見合わせた。
大臣さんが本をめくり直す。
「……『魂が死に瀕した者』。なるほど、その……『がちゃ』とやらでの爆死は……魂の死に該当する、と」
「該当しないでほしい!」
「しかし実際に召喚されておりますので……」
つまり。
ガチャで30連爆死した私の魂は、「死に瀕した」と判定されて、異世界召喚の条件を満たしてしまった。
3万円を失った精神的ダメージが、召喚システムに「こいつ死にかけてる」と認識されたのだ。
……ソシャゲーマーの魂、脆すぎない?
「ちなみに」
大臣さんが付け加えた。
「過去の勇者たちは全員、剣に刺されたとか、崖から落ちたとか、物理的な死がきっかけで召喚されています。その……『がちゃの爆死』とやらで召喚されたのは……史上初です」
史上初の爆死召喚勇者。
そんな称号いらない。
◇
召喚条件のことはいったん置いておこう。頭がおかしくなる。
問題は、私の女神さまのスペックだ。
ルドヴィク王さまが手を挙げると、リルアのステータスが光の文字で表示された。
◇
**【召喚女神:リルア】**
ランク:R
◇
R。
レア。
「レア」って聞くといい感じだけど、ソシャゲにおけるRは最底辺から二番目。Nの一個上。SSRどころかSRですらない。
虹色の光を見たんだよ? 期待したんだよ?
出てきたのはRでした。
――ピックアップ仕事して。
「ご、ごめんなさい……」
リルアが半泣きで謝ってきた。後光がさらにしょぼくなった。感情連動型なんだ。
「ご、ごめんね……私、余りものの女神だから……」
「余りもの……?」
「他の女神さまたちに断られた時に……最後に回ってくるの、私。誰にでもつく、最低ランクの女神で……」
私の女神さまは、ソシャゲで言うところの配布キャラだった。
チュートリアルで全員に配られて、SRやSSRが揃ったらベンチに下がる。それが配布の宿命。
3万円溶かして爆死した直後に、余りものの女神。
どこまで運が悪いの私。
……でも。
リルアの顔を見ると、泣きそうに震えてる。青い瞳がうるうるしてて、小さな肩がちょっと丸まってて。
なんか……こう、守りたくなるかわいさがあるんだよなぁ。
ずるくない?
「……大丈夫だよ、リルア」
「え?」
「私、慣れてるから。ガチャで爆死するの。っていうか今日、爆死したから召喚されたわけだし」
「あ、そっかぁ。爆死のおかげで会えたんだね!」
「おかげって言うと、なんかポジティブだね……」
「爆死ありがとう!」
「感謝される爆死、初めてだよ」
――そのとき。広間に、もう一つの魔法陣が輝き始めた。
全年齢では歴史物しか書いていませんでしたが、ファンタジーもの初挑戦です!
「早く続きが読みたい!」「更新頑張れ!」と思っていただけましたら、
下にある【☆☆☆☆☆】からポイントを入れていただけると、執筆スピードが上がります!
ぜひブックマークと評価で応援をよろしくお願いいたします。




