【標本No.9】燃える芸術
――すべてが燃えた時、芸術は完成する。
植物を育てるという行為は、通常、生の継続を願う慈しみである。
だが、私がこの庭に埋めたのは、そんな生ぬるい希望ではない。
カエンソウ。
法によって栽培を禁じられたその種子は、土の底で冷たく笑っていた。
その蕾が綻ぶのは、生への祝祭ではない。
世界を焼き尽くすための導火線が、音もなく弾ける瞬間だ。
庭一面が、緑を拒絶するような真紅の焔に染まり、その中心で人生で最も眩しい『完成』を迎えることを、私は望んでいた。
私は毎日、自らの命を薪にするようにして、この禁忌を慈しんだ。
すべてが赤く染まるその瞬間こそが、私の生涯で唯一の、そして最後の芸術になると信じて。
誰もがこの美しさを恐れ、法律という名の鎖で縛り付けた。
だが、私は知っている。
魂が最も純粋に輝くのは、灰へと還るその刹那、熱量という名の愛に抱かれる時だけだということを。
私はその花々を丹精込めて育てた。
一日二回、昼と夜にカエンソウに特化した成長水を与えた。
巨大な鍋で液体を煮詰め、濃度を一万分の一単位で調整する。
冷めないうちに瓶に納めて、冷蔵庫で貯蔵するのだ。
この花々が火を咲かせるまで、永遠に。
カエンソウの成長は驚くほどに遅い。
もう数年育て続けているが、なかなか葉が増えない。
私は成長水の濃度を見直すことにした。
数週間の実験と解析の結果、発育段階に合わせて濃度を変えるのが最適だと分かった。
適切な濃度の成長水を与えると、カエンソウはぐんぐん育った。
自然に埋め尽くされたこの空間は、酸素で溢れていた。
私はその酸素を糧に生きる。
カエンソウは私の排出した二酸化炭素を糧に酸素を排出する。
これこそが"真の共生"なのだ。
――そして、私の喜びはピークを迎える。
カエンソウを植栽してから、早十三年。
蕾の赤が僅かな隙間を見せた。
私は最後への準備を始めた。
中央に木造りの椅子を置き、観察記録を書きながらそのときを待った。
ひとつ、ひとつと花が咲く。
小さな爆発は隣から隣へと連鎖を起こし、私の周りを螺旋状に巡る。
焦げ臭い匂いと息苦しさが少し感じられた時、足元の椅子に火花が散った。
炎が私の体をなぞり、痛みとともに熱を発する。
ああ、これこそが私の求めたもの...。
私を中心に、円を描く赤は美しい。
真ん中に咲き誇る私の紅が最高の輝きを放つ時、一瞬の芸術は終了を迎える。
――炭化した男の死体とともに、その芸術は本当の完成を迎えた。
焼け落ちた小屋の跡に残ったのは、炎という名の筆で描かれた芸術...最後の、そして唯一の、風化することのない情熱の形だった。
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