第6話:その手を離さない
眼前に迫る死の未来。
リカルドが選んだのは、計算された生存ルートではなく、愚かな愛の証明でした。
第1章『閉鎖駅の捕食者』、完結です。
眼前に迫る、巨大な紅い結晶の槍。
右目が映し出す未来に、逃げ場はない。数秒後、俺の心臓はこの槍によって貫かれる。
(……いや、一つだけある)
『予見眼』が示す、数万通りの死のノイズ。その隙間に、わずか一筋だけ存在する、俺が五体満足で生き残るための「残酷な選択肢」。
それは、カレンの心臓を――彼女の力の源である「核」を、彼女が攻撃してくる前に撃ち抜くこと。
床に落ちている、あのおっさんが落とした拳銃を使えば、今の彼女なら殺せる。
「さぁ、選べリカルド! 彼女を殺して生き残るか、彼女に殺されて無残な死体になるか!」
管理官の嘲笑が響く。
俺は、走り出した。
拳銃とは逆の方向へ。
カレンに向かって。彼女が放つ、死の棘の嵐の中へと。
「あ……あぁ……リカルド、くん……ッ!」
自我を失いかけたカレンの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
右目が痛い。脳が焼ける。
飛来する結晶の破片を、最小限の動きで避ける。頬が裂け、肩が削れ、血が舞う。
だが、止まらない。
「ふん、自暴自棄か? 救えないな」
管理官がスイッチをさらに強く押し込む。
カレンの背中の刃が、さらに禍々しく膨れ上がった。
そして――槍が放たれた。
回避不能。直撃すれば、俺の身体は消し飛ぶだろう。
だが、俺は避けるのをやめた。
あえて槍の軌道上へと、自ら飛び込んだのだ。
「――っ!?」
管理官の顔が驚愕に歪む。
ドシュッ、と肉を裂く鈍い音がした。
紅い槍は、俺の左肩を深く貫き、そのまま壁へと縫い付けた。
激痛で意識が飛びかける。だが、これでいい。
この距離なら、手が届く。
「……捕まえた」
俺は血まみれの右腕を伸ばし、震えるカレンの身体を強く抱き寄せた。
「なっ……!? 肩を捨ててまで、接近したというのか!」
「カレン……聞こえるか。俺を殺してもいい。でも、これだけは忘れるな」
俺は、彼女の耳元で囁く。
「俺が視てる未来には……お前と海に行く未来以外、一つも入ってないんだよ」
ドクン、とカレンの鼓動が伝わってきた。
彼女の目から光が戻り、紅いノイズが急速に引いていく。
「リ、リカルド……くん……?」
カレンが俺の背中に手を回した瞬間、周囲に展開されていた紅い刃が、霧が晴れるように霧散していった。
同時に、彼女の叫びに応じるように、管理官が持っていたデバイスが内側から爆発した。
「ぐわあああぁっ!? 私のデバイスが……バカな、共鳴したというのか!?」
俺は肩に刺さった槍の残骸を引き抜き、よろけながらもカレンの手を握った。
「カレン、行こう。……ここから、地上へ」
駅の奥、非常階段の先から、微かな光が差し込んでいる。
一時間の制限時間は、もうすぐ終わる。
俺たちは、呆然と立ち尽くす管理官を背に、光の射す方へと駆け出した。
出口の重い扉を蹴破る。
そこに広がっていたのは――。
第6話をお読みいただきありがとうございました!
ついに地下駅を脱出した二人。
しかし、彼らを待っていたのは希望の光景ではありませんでした。
これにて第1章「閉鎖駅の捕食者」完結です。
次回、第2章「瓦礫の街の追走劇」がスタートします。
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