第4話:赤いノイズに見る海
機械の軍勢を振り切り、逃げ込んだ備品室。
そこで語られるのは、二人の過去と「海」への約束。
しかし、その安らぎは長くは続きませんでした。
背後で響く機械の駆動音と、コンクリートを削る不快な音が遠ざかっていく。
俺とカレンは、駅の最深部にある備品保管庫と思われる薄暗い小部屋に滑り込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
重い鉄扉を閉め、壁に背を預けた瞬間、右目に激痛が走った。
視界がチカチカと点滅し、赤いノイズが脳を直接かき乱す。
『予見眼』の酷使だ。短時間に何度も未来を視た代償が、俺の精神を削り取ろうとしていた。
「リカルドくん、大丈夫? 顔色が真っ白だよ」
カレンが心配そうに覗き込んでくる。
彼女は俺の頬を冷たい手で包み込み、まるで壊れ物を扱うように優しく、けれど逃げられない強さで抱き寄せた。
「……あぁ、少し目が疲れただけだ。すぐ、動ける」
「だめ。今は休んで。……もしリカルドくんが壊れちゃったら、私、この世界にいる全員を殺して自分も死んじゃうから」
冗談には聞こえなかった。彼女の瞳は本気だ。
カレンは俺の頭を自分の膝に乗せ、あやすように髪を撫でる。
「……ねぇ、リカルドくん。覚えてる? あの白い部屋で約束したこと」
カレンの指先が、俺の眼帯に触れる。
記憶の底から、波の音が聞こえた気がした。
隔離されていた研究所の、小さな窓から二人で見上げた、あの青い空の先にあるはずの――。
「……海、だろ」
「そう。ここを出たら、二人で本物の海を見に行くの。誰もいない、青くて広い場所。そこで、ずっと、ずっと二人だけで暮らすんだよ」
カレンの背中から生える紅い刃が、彼女の幸福な空想に合わせるように、ゆらりと揺れた。
だが、俺の右目が映し出したのは、そんな穏やかな未来ではなかった。
――バキッ!
「……っ!?」
右目のノイズが跳ね上がる。
一秒先の未来。
この部屋の「天井」が崩落し、巨大な槍のような何かが突き刺さる光景。
「カレン、離れろ!!」
俺は叫びながらカレンを突き飛ばし、自分も反対側へ転がった。
直後、天井を突き破って、お掃除屋とは比較にならないほど巨大な「鋼鉄の杭」が、俺たちが今いた場所を粉砕した。
「……あは。お話の邪魔をするゴミが、また一匹」
カレンが立ち上がる。その顔から慈愛が消え、底冷えするような殺意が溢れ出した。
杭が引き抜かれ、開いた穴から一人の男が降りてくる。
先ほどのチンピラとは違う、白いコートを纏った、整った顔立ちの男。
「実験体7号……通称『カレン』。そして、脱走した『予見眼』」
男は眼鏡を指で押し上げ、冷酷に告げた。
「デートの時間は終了だ。……さぁ、研究所へ帰ろうか」
俺たちの「約束」を阻む、このデスゲームの管理者。
そして、俺の右目が映し出した未来には――俺がカレンに殺されるという、最悪の断片が混じっていた。
二人の目的「海」について語られた直後、新たな敵が登場しました。
そしてリカルドが視た「カレンに殺される未来」とは……?
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