第3話:迫りくる「お掃除屋」
通路を塞ぐ鉄の塊。
「お掃除屋」と呼ばれる機械兵器が、二人の行く手を阻みます。
地下通路の奥から、不快な金属音が響いてくる。
――ギギィ、ギギギィ……。
重い鎖を引きずるような駆動音。それに混じって、シュシュッという排気音が、静まり返ったコンクリートの壁に反響する。
「……来た」
俺の右目が激しく脈打つ。
視界が赤く染まり、未来の断片が高速で流れ込んできた。
――暗闇から飛び出す、鋭利なメスのようなアーム。
――俺の首が、抵抗する間もなく切断される光景。
――無機質に発光する、単眼のレンズ。
「カレン、左だ! 天井から来るぞ!」
俺が叫ぶのと、通風孔の格子を突き破って「それ」が飛び出してきたのは同時だった。
「――排除対象、確認」
現れたのは、多脚型の蜘蛛のような形状をした機械兵――通称「お掃除屋」。
頭部のカメラレンズから放たれる青いレーザーが、獲物を定めるように俺たちをなぞる。
「リカルドくん、下がってて」
カレンが俺を背に庇う。彼女の背中から、紅い結晶の刃が鋭くしなった。
お掃除屋が、音もなく跳躍した。
鋼鉄のアームが、カレンの細い首を刈り取ろうと横一文字に振るわれる。
だが、カレンは動かない。
ガギィィンッ!
彼女の周囲に展開された結晶の盾が、火花を散らしてお掃除屋の攻撃を弾き返した。
「私のダーリンを怖がらせるなんて……部品単位までバラバラにしてあげる」
カレンの瞳に、深い殺意が宿る。
彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、地面から突き出した数本の「血の槍」がお掃除屋の装甲を貫き、中空に固定した。
「ギ、ガガ……システム、損……傷……」
火花を散らす機械兵を、カレンは冷酷に踏みつぶす。
グシャリ、とオイルと鉄屑が混ざった嫌な音が響いた。
だが、安堵する暇はなかった。
通路の奥から、一つ、また一つと、無数の「青い光」が灯り始めたのだ。
「……冗談だろ」
その数は、十や二十ではない。
まるで虫の群れだ。壁を、天井を這い回りながら、こちらへ殺到してくる。
『――おやおや。カレンちゃん、お掃除屋一体にそんなにマジになっちゃって。でも、一時間はまだ始まったばかりですよ?』
スピーカーからの嘲笑。
制限時間、残り五十分。
俺は、震える手でカレンの手を強く握り返した。
「……カレン。逃げるぞ。正面突破は無理だ。俺の右目が、一番安全なルートを視せてくれる」
カレンは一瞬、きょとんとしたが、すぐに蕩けるような笑顔を浮かべた。
「うん、リカルドくん。君の視る未来なら、私はどこまでもついていくよ」
迫りくる機械の群れを背に、俺たちは迷路のように入り組んだ地下通路を、光の射す方角へと駆け出した。
圧倒的な物量で迫る「お掃除屋」。
次回、束の間の休息と、二人の「約束」が語られます。
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