最終話:ハロー、ニューワールド
崩れ落ちる支配者の城。
瓦礫の街から始まった二人の逃避行は、ついに「世界」へと到達します。
ここからは、誰も知らない物語です。
轟音と共に、巨大な旗艦が傾いていく。
俺とカレンは、爆発と炎に包まれる甲板を駆け抜けた。
「リカルドくん、あそこ!」
カレンが指さした先。
煙の向こうから、一隻の軍用脱出艇が猛スピードで近づいてきた。
操縦席から身を乗り出し、悪態をついているのは――見慣れた、むさ苦しいオッサンだ。
「おいコラ、カップル! いつまでイチャついてやがる! 置いてくぞ!」
「早く! 爆発しちゃうよ!」
ガンツとシキだ。
俺たちは顔を見合わせ、笑った。
助けに来てくれると信じていた。
「飛ぶぞ、カレン!」
「うん!」
俺たちは炎の海を背に、虚空へと身を投げ出した。
宙を舞う一瞬の浮遊感。
そして、ドサッという衝撃と共に、脱出艇の座席に転がり込む。
「捕まってな! 振り落とされるんじゃねぇぞ!」
ガンツがスロットルを全開にする。
脱出艇は水飛沫を上げ、沈みゆく鋼鉄の巨体から一気に離脱した。
背後で、巨大な火柱が上がる。
空を焦がすその炎は、俺たちを縛り付けていた「鳥籠」が焼け落ちる狼煙のようだった。
◇
数時間後。
俺たちは、名もなき海岸に辿り着いていた。
瓦礫の街とは違う、緑の植物が茂る大地。
空気は澄んでいて、風が草の匂いを運んでくる。
「……さて、ここでお別れだな」
ガンツが煙草に火をつけ、ふぅと紫煙を吐き出した。
「俺は、近くの集落を探して店でも開くさ。この軍用艇のパーツを売れば、元手くらいにはなるだろ」
「ボクも行くよ。おっさんの店なら、退屈しなさそうだしね。それに……」
シキはちらりと俺たちを見て、ニシシと笑った。
「お邪魔虫は退場しないと、カレンちゃんに殺されそうだし」
「あ、分かってるじゃん。賢いね、シキ」
カレンが冗談めかして笑う。
短い間だったが、背中を預け合った仲間たち。
湿っぽい言葉はいらない。
「あぁ。二人とも、達者でな」
「へっ、お前らこそ。……幸せになれよ」
ガンツとシキは、手を振りながら去っていった。
その背中が見えなくなるまで、俺たちは見送った。
そして、残されたのは俺とカレン。二人きり。
目の前には、どこまでも続く青い海と、広大な世界が広がっている。
「ねぇ、リカルドくん」
カレンが俺の手をギュッと握りしめ、上目遣いで見つめてくる。
「これから、どこへ行くの?」
俺は視線を巡らせた。
右目に映る未来に、もう「死」や「壁」はない。
無数の選択肢。無限の可能性。
どれを選ぶのも、俺たちの自由だ。
「そうだな……。まずは、うまい飯でも食いに行くか」
「賛成! 桃缶じゃないやつね!」
カレンが花が咲いたように笑う。
その笑顔を守れたことが、俺にとって何よりの誇りだった。
「行こう、カレン。世界は広いぞ」
「うん! ……ずっと一緒だよ、ダーリン」
俺たちは手を繋ぎ、歩き出した。
道なき道を。
誰も知らない、新しい世界へ向かって。
――ハロー、ニューワールド。
俺たちの本当の旅は、ここから始まるのだ。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
リカルドとカレンの逃避行、これにて完結となります。
最初は孤独だった二人が、仲間と出会い、壁を越え、自由を手にする物語。
もし「面白かった!」「二人の幸せな未来が見れてよかった!」と思っていただけましたら、
【完結後の評価(☆☆☆☆☆)】や感想をいただけると、作者としてこれ以上の喜びはありません。




