第23話:因果律の崩壊
神の如き力を持つワイズマン。
しかし、完璧な計算式ほど、一つの「狂気」で容易く崩れ去るものです。
逆転の引き金は、リカルド自身が引きます。
額に突きつけられた銃口。
ワイズマンの『観測眼』は、俺の死を確定させている。
逃げようとすれば撃たれる。暴れれば撃たれる。どの未来を選んでも、俺は死ぬ。
(……なら、選ばなければいい)
俺は笑った。
恐怖で引きつった笑いではない。狂気を含んだ、捨て身の笑みだ。
「何がおかしい?」
ワイズマンが怪訝そうに眉をひそめる。
「アンタの能力は完璧だ。だが、欠点がある。アンタは『自分にとって都合の良い未来』しか確定させない」
「だからどうした。私が勝利する未来以外、必要ないだろう」
「あぁ。だからアンタは、俺が『自滅覚悟』で動く未来なんて、計算に入れてないはずだ」
俺は右手を動かした。
ワイズマンの銃を払いのけるのではない。
俺は、自分の懐にある手榴弾のピンを抜き、それを強く握りしめたまま、ワイズマンの胸ぐらを掴んだのだ。
「なっ……!?」
初めて、ワイズマンの顔に焦りが浮かぶ。
「離せ、バカめ! 自爆する気か!?」
「あぁ、そうだ! 確定してみろよワイズマン! 俺もお前も木っ端微塵になる未来をなァ!!」
俺の『予見眼』が視せる未来が、激しく明滅する。
ワイズマンの『観測眼』が混乱しているのだ。
彼にとって「相打ち」は敗北。だから必死に回避ルートを探している。だが、俺が離さない限り、回避不能。
確定された未来に、亀裂が入る。
そのわずかな隙こそが、俺が待ち望んでいた「特異点」だ。
「――カレン、今だッ!!」
俺が叫んだ、次の瞬間。
ズドォォォォォォォンッ!!!
艦橋の分厚い天井が、紅い閃光と共に粉砕された。
降り注ぐ鉄骨と瓦礫の雨。
ワイズマンが悲鳴を上げて俺を突き飛ばし、後方へと飛び退く。
「ごめんね、お待たせ!」
砂煙の中から現れたのは、純白のドレスを真紅に染めたカレンだった。
彼女の手には、意識を失ったノアの襟首が掴まれている。
あの最強の完成体を、もう倒してきたというのか。
「バ、バカな……ノアが敗れるなど……あり得ない!」
ワイズマンが瓦礫の中で狼狽える。
その整った髪は乱れ、余裕の表情は消え失せていた。
「あり得ないことなんてないよ。だって、愛は最強だもん」
カレンはノアを無造作に放り捨てると、俺の元へ駆け寄り、背中を合わせた。
「大丈夫、リカルドくん? 手榴弾なんて危ないおもちゃ、持っちゃダメだよ」
「はは、お前が来るって信じてたからな。ピンは戻しておくよ」
俺たちは並んでワイズマンを見据える。
もはや彼の『観測眼』も、このカオスな状況までは制御しきれないはずだ。
「さぁ、ラウンド2だ。神様気取りの科学者さん」
俺は銃を構え直し、カレンは紅い翼を煌めかせる。
因果律は崩壊した。
ここにあるのは、ただの実力勝負。
俺たちが掴み取る、最後の戦いだ。
リカルドの狂気的な賭けと、カレンの圧倒的な実力が、ワイズマンの計算を破壊しました。
ノアさえも撃破して駆けつけたカレン。やはり彼女こそが最強のヒロインです。
次回、最終話一つ前。
ワイズマンとの完全決着。
そして、崩れゆく戦艦からの脱出へ。
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