第22話:神の視座
艦橋の扉を蹴り破った先に待っていたのは、静寂と一人の男。
全ての元凶であるワイズマンは、リカルドの行動すらも「予定調和」だと言い放ちます。
艦橋の自動ドアが開くと、そこは別世界のように静かだった。
外の砲撃音も、悲鳴も聞こえない。完全な防音空間。
無数のモニターが並ぶ制御室の中央に、純白のコートを羽織った男が一人、優雅に椅子に座っていた。
「ようこそ、実験体13号。……いや、リカルド君と呼ぶべきかな」
男――ワイズマンは、まるで旧友を迎えるように穏やかに微笑んだ。
その目には、一切の殺気がない。ただ、深く、冷たい知性だけが宿っている。
「アンタが、ワイズマンか」
俺は銃を構え、油断なく距離を詰める。
「いかにも。君たちのデータは素晴らしかったよ。特にカレンとの『感情的結合』による能力増幅……これは私の想定以上の成果だ」
「俺たちはモルモットじゃない。このふざけた実験を終わらせに来た」
俺は引き金に指をかけた。
問答無用。ここでコイツを殺せば、全てが終わる。
俺の右目が、数秒先の未来を捉える。
――俺が発砲する。弾丸はワイズマンの眉間を貫く。彼は椅子から崩れ落ちる。
「成功」だ。
バシュッ!!
俺は躊躇なく撃った。消音器付きの銃口から放たれた弾丸は、真っ直ぐにワイズマンの頭部へ――
吸い込まれる直前、ワイズマンが「首を傾げた」。
ヒュンッ。
弾丸は彼のこめかみを掠め、背後のモニターを破壊しただけだった。
「……なッ!?」
あり得ない。
俺の『予見眼』は、確かに命中する未来を視ていたはずだ。
あんな回避行動、予知映像にはなかった。
「不思議そうな顔をしているね」
ワイズマンは立ち上がり、懐から銀色の装飾が施されたオートマチック銃を取り出した。
「君の眼は『可能性』を視る。数ある未来の中から、最も確率の高いルートを覗き見ているに過ぎない」
彼は銃口をこちらに向けず、適当な方向――俺の左側の壁へ向けた。
「だが、私の眼は違う」
――ッ!!
俺の右目が、激しい警告音を鳴らした。
「俺が左に回避して、そこに弾丸が当たる」未来。
バカな、俺はまだ動いていない。なのに、回避先の未来が先に確定している?
「私の『観測眼』は、未来を『確定』させる。私が視た未来は、絶対の真実となる」
ワイズマンが引き金を引く。
俺の身体は反射的に、右目の警告に従って左へ飛んでしまった。
まるで、そう動くようにプログラムされていたかのように。
ドシュッ!!
弾丸が俺の左肩を貫いた。
「ぐ、あぁぁッ!!」
焼けるような痛み。俺は床に膝をつく。
「見えるかい? 君がどう足掻こうと、私の前では全ての行動が筒抜けだ。君は私の掌の上で踊る、哀れな人形に過ぎない」
ワイズマンがゆっくりと歩み寄ってくる。
俺は歯を食いしばり、痛みを堪えて銃を乱射した。
だが、当たらない。
彼は最小限の動きで、紙一重ですべての弾丸を避けていく。まるでダンスを踊るように。
(クソッ、視えねぇ……! こいつの未来が、ノイズだらけで……!)
俺の予知が書き換えられていく。
視えたはずの未来が、次の瞬間には別の未来に上書きされる。
情報処理が追いつかない。脳が焼き切れそうだ。
「終わりだ、リカルド君。君の眼は、私という神の模造品でしかなかったのだよ」
ワイズマンが俺の目の前に立ち、冷酷な銃口を額に突きつけた。
右目に映るのは、真っ暗な死の未来。
回避不能。確定された絶望。
――ここまで、なのか?
主人公の上位互換能力を持つラスボスの絶望感。
リカルドの予知さえも手玉に取るワイズマンに、為す術もありません。
しかし、絶体絶命の窮地こそ、逆転の狼煙。
次回、リカルドが選んだ「未来を変える一手」とは。
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