第1話:地下通路の再会
プロローグからの続きです。
逃げ込んだ闇の中で、リカルドは「彼女」と再会します。
はぁ、はぁ、はぁ……っ!
肺が焼き切れるほど走った。
背後からは、まだ微かに悲鳴と銃声が響いている気がする。だが、俺は一度も振り返らなかった。
(クソッ、クソッ! 俺は……見捨てたんだ!)
佐藤の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
だが、あのまま残っていれば、間違いなく俺も眉間を撃ち抜かれて死んでいた。俺の『予見眼』が外れたことは一度もないのだから。
俺が逃げ込んだのは、駅のホームの端にある、関係者以外立入禁止の点検用通路だった。
非常灯の緑色の光だけが頼りの、湿っぽいコンクリートの道。
「……ここなら、あいつも追ってこないはずだ」
壁に手をつき、荒い呼吸を整える。
静かだ。あまりにも静かすぎる。
まるで、世界の音がここだけ切り取られたように。
――カツン。
不意に、通路の奥から硬質な音が響いた。
ヒールの音だ。
誰かいる? 駅員か? いや、こんな封鎖された空間に?
俺は息を潜め、暗闇の奥を凝視する。
そこから現れたのは、この薄汚い地下通路には似つかわしくない、純白のワンピースを着た少女だった。
「……誰だ?」
警戒して声をかける。
少女が顔を上げた。薄暗い非常灯の下でもはっきりと分かる、燃えるような紅い瞳。
そして、背中から生えている、翼の形をした不気味な紅い結晶体。
見覚えがある。
いや、忘れるはずがない。十年前、俺が研究所から逃げ出す原因となった、あの「実験体」。
「……嘘だろ。カレン?」
俺の声に、少女――カレンの目が大きく見開かれた。
無表情だった人形のような顔に、一瞬で熱が宿る。頬が赤く染まり、唇が歓喜に震える。
「あ……あぁ……っ! リカルド、くん……!」
カレンは地面を蹴った。
人間離れした速度で距離を詰め、俺の胸に飛び込んでくる。
「会いたかった! ずっと、ずっと探してたんだよぉ!」
甘い花の香りと、鼻を突く鉄錆の匂い――血の匂い。
俺は反射的に彼女を突き飛ばそうとしたが、彼女の腕力は万力のように俺を締め付けて離さない。
「カレン、離せ! 苦しい……!」
「離さない。もう二度と離さない。……リカルドくんの匂いだ。心臓の音だ。あぁ、生きてる……私のダーリン」
恍惚とした表情で俺の首筋に顔を埋めるカレン。
その時、俺たちが来た通路の入り口から、重苦しい足音が響いてきた。
「ヒハッ……逃げ足の速いネズミだなぁ」
背筋が凍る。
あの「おっさん」だ。乗客を皆殺しにして、俺を追ってきたのだ。
おっさんは血まみれの拳銃を弄びながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
「おいおい、なんだその嬢ちゃんは? 連れがいたのか?」
おっさんが銃口を向ける。
俺の右目が、再び「死」を予知して赤く疼いた。
だが、今度は違う。俺の前にはカレンがいる。
カレンがゆっくりと顔を上げた。
リカルドくんを見るあのアマアマな表情は消え失せ、そこには絶対零度の殺意だけがあった。
「……ねぇ。私の感動の再会を邪魔する、その汚い音……止めてもいいかな?」
彼女の背中の結晶が、ジャキッ!と音を立てて鎌首をもたげた。
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