第18話:水平線の悪夢
ついに辿り着いた海。
しかし、そこはゴールではなく、最後の戦場の入り口でした。
最終章、スタートです。
「……あぁ、しょっぱいな」
俺は手のひらで海水をすくい、顔を洗った。
冷たさが肌を刺し、塩辛さが口の中に広がる。
それは、味気ない栄養食と鉄錆の味しか知らなかった俺たちにとって、何よりも鮮烈な「生命」の味がした。
「見てリカルドくん! 貝殻があったよ! 白くて可愛い!」
カレンが波打ち際ではしゃぎながら、白い巻き貝を拾って見せてくる。
その笑顔は年相応の少女のもので、ここが地獄の実験場の外れであることを忘れさせた。
――ほんの数分前までは。
「おい、感傷に浸ってる場合じゃねぇぞ」
ガンツの押し殺した声が、空気を凍らせた。
彼が見つめる先。水平線上に展開していた黒い船団から、低い発射音が響いた。
ヒュルルルルルル……ッ!!
「総員、退避ィッ!!」
俺が叫ぶのと同時、俺たちの周囲の砂浜が爆発した。
ドゴォォォォンッ!!
水柱と砂煙が高く舞い上がる。
艦砲射撃だ。沖合の軍艦から、ピンポイントで俺たちを狙っている。
「きゃあぁッ!?」
「くそっ、無茶苦茶だ! 実験体を回収する気はないのかよ!」
爆風に煽られ、シキが尻餅をつく。
俺はカレンの手を引き、岩陰へと飛び込んだ。
『――実験体諸君。海への到着、おめでとう』
空から、拡声器を通したような男の声が降ってきた。
上空を旋回する無人偵察機からだ。
『私はエデン統括理事、ワイズマン。君たちの逃走劇は非常に素晴らしいデータを提供してくれた。だが、ショーはここまでだ』
ワイズマン。管理官よりもさらに上、この狂った研究所のトップか。
『直ちに投降せよ。さもなくば、このエリアごと焦土とする』
再び砲撃音が響く。
今度は威嚇ではない。俺たちが隠れている岩場を削り取るような、殺意の籠もった連射だ。
「どうする、リカルド! 車じゃ海は渡れねぇぞ!」
ガンツが怒鳴る。
背後は絶壁の壁、前は海。逃げ場はない。
俺の右目が、無慈悲な未来を映し出す。
このままここに留まれば、数分後には全滅。
かといって白旗を上げれば、待っているのは脳を弄られ、自我を奪われる未来だ。
(……逃げ道はない。なら)
俺は顔を上げ、沖合に浮かぶ巨大な旗艦――ワイズマンが乗っているであろう、悪意の城を見据えた。
「ガンツ。あの車、まだ走れるか?」
「あぁ? 当たり前だ、俺の整備を舐めんな。……だが、どこへ走るってんだ」
「海だ」
「はぁ!?」
俺は波打ち際に近づいてくる、数隻の強襲揚陸艇を指さした。
敵は俺たちを確実に捕獲、あるいは死体を確認するために、歩兵部隊を上陸させようとしている。
「あいつらの船を奪う。……そして、あのデカい旗艦に乗り込んで、親玉の首を取る」
俺の言葉に、全員が息を呑んだ。
逃げるのではない。
たった四人で、軍隊の心臓部へ殴り込むという、正気とは思えない作戦。
だが、カレンだけは違った。
彼女は嬉しそうに目を細め、紅い結晶の刃を煌めかせた。
「賛成。私たちのデートを邪魔する悪い人は……根絶やしにしなきゃね」
退路はない。
俺たちは自由を掴み取るため、最後の特攻を開始する。
圧倒的戦力差。
しかし、彼らは諦めません。
防御ではなく攻撃へ。奪った船で敵の本丸へ突撃する、逆転の作戦が始まります。
最終章もフルスロットルで駆け抜けます!
応援よろしくお願いします!




