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『エラー:聖典の教義と矛盾します』 ~異端認定された『AI魔法』ですが、神様のバグを修正してもいいですか?~  作者: ぱすのーと
【第二章】 王都カステッロ商会・革命 編

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9/19

009: 孤児院の中抜き率9割!? 腐った商会を『デバッグ』します

※当作品は執筆にあたり「Gemini」、「NotebookLM」を補助として利用しています。

「……ふぅ。これで片付けはおしまいですね」


散乱していたガラス片や商品をあらかた片付け終え、ミーナさんが額の汗を拭った。

修復したランタンは、店の奥の最も目立つ棚に鎮座している。その輝きは、先ほどの騒動が嘘のように穏やかだ。


「本当に、なんととお礼を言ったらいいか……。商品だけじゃなく、私の気持ちまで修復してくれたようだわ」


ミーナさんが深々と頭を下げる。

私は椅子に腰掛け、出された茶を一口啜った。


「気になさらないでください。壊れたものを直すのは、私の趣味みたいなものですから」


「それでも、です。……プロミネさんが『革命』とおっしゃった意味が、ようやく分かりました」


彼女は尊敬の眼差しを向けてくる。

リエルも「でしょでしょ!」と自分のことのように鼻高々だ。


だが、問題の根源は解決していない。

私はカップをソーサーに置き、本題を切り出した。


「ところで、ミーナさん。先ほどの男たちが言っていた『ショバ代』……でしたか。あれは一体どういうことなんです?」


その単語が出た瞬間、ミーナさんの表情が曇った。

プロミネさんも、苦虫をつぶしたような顔で腕組みをする。


「……あれは、名目上は『市場保安協力費』と呼ばれているものです」


「保安協力費?」


「ええ。カステッロ商会は、この地区の土地権利と市場の管理権を、王家から正式に委託されているんです」


ミーナさんが悔しげに語り始めた。

本来、市場の治安維持や清掃は国の管轄かんかつだ。だが、国の財政難により、王都の有力な商会であるカステッロ商会が名乗りを上げ、その業務を代行しているのだという。


「建前は『商人たちが安心して商売できるように守る』ための費用です。ですが、その額は法外で……実態はただの『場所代』の徴収です」


「払わなければ?」


私が短く尋ねると、ミーナさんは視線を落とした。


「今日のように、ゴロツキが現れて店を荒らします。『協力費を払わないから警備が行き届かず、治安が悪化した』という言い訳をつけて」


「なるほど。自分たちで火をつけておいて、消火代を請求するマッチポンプというわけですか」


私は冷ややかに呟く。

法的ギリギリのラインで、経済を首輪で繋ぐやり方だ。暴力よりも質が悪い。

組織の内部に入り込み、栄養を奪い続ける寄生虫のやり口そのものだ。


「この歪な構造の犠牲になっているのは、私たち商人だけじゃありません」


プロミネさんが、重い口を開いた。


「特に深刻な被害を受けている場所のひとつが……『リリィ孤児院』でしょうな」


「孤児院、ですか?」


聞き覚えのない名前に、私が首を傾げる。

ミーナさんが悲痛な面持ちで頷いた。


「はい。実は私、そこの出身なんです」


彼女は孤児院で育ち、魔道具職人を志していたが、今はプロミネ商会で働いているという。


「私がいた頃は国営で、質素ながらもお腹いっぱい食べられました。シスターや周りのみんなも笑顔が絶えなくて……。でも、1年前に運営が民間委託に切り替わってからは、地獄のような有様です」


カステッロ商会は「慈善事業」として、孤児院の運営にも名乗りを上げたんだそうだ。

だが、実際に彼らの管理下に入るととたんにひどくなったらしい。


「国からは、子供一人あたり銀貨20枚という、十分な助成金が出ているはずなんです。それなのに、今の孤児院にはその1割も届いていません」


「1割……。残りの9割はどこへ?」


「『運営指導料』『組合会費』『緊急対策積立金』……。カステッロ商会が、もっともらしい名目をいくつもつけて中抜きしているんです」


ミーナさんが拳を握りしめる。


「シスターたちが町のお役人さんや衛兵に抗議しても、『物価高騰で食料が確保できない』の一点張り。嫌なら出て行けと脅されて、子供たちを人質に取られているようなものです」


子供たちは常に腹を空かせ、設備はボロボロ。

着る服すら満足に支給されず、ツギハギだらけの服で寒さを凌いでいるという。


(エコー、照合開始)


『検索中……。ログ参照。対象:入城時に接触した修道女、シスター・エミナ。および同乗していた孤児たちの生体データ』


私の脳裏に、城門前での出来事がフラッシュバックする。

壊れかけた馬車。必死に謝るシスター。そして、荷台に乗っていた痩せこけた子供たち。


『馬車の積載量と子供たちの栄養状態指数(BMI)、および衣服の損耗率……。ミーナの証言と合致します。』


情報が線で繋がった。

あのシスターが、ボロボロの馬車で走らなければならなかった理由。

物理的な貧困ではない。

誰かの欲望によって作られた、人為的な飢餓だ。


「……許せないっ!」


 隣で聞いていたリエルが、バンッとテーブルを叩いて立ち上がった。

 その瞳には涙が浮かんでいるが、それ以上に強い怒りの炎が宿っている。


「小さい子たちのご飯を奪うなんて、絶対に許せない! そんなの、商売じゃないよ! ただの泥棒じゃない!」


「落ち着いて、リエル」


私は彼女の肩に手を置き、座らせる。

だが、私の腹の底にも、冷たく重い怒りが沈殿していた。


非効率だ。あまりにも非効率で、醜悪だ。

未来ある子供たちのリソースを搾取し、肥え太るだけの寄生虫。

そんな歪みが、今いるこの国の中心で当たり前のようにのさばっている。


「アルス……。あたし、あの子たちを助けたい。美味しいものをいっぱい食べさせてあげたいよ!」


リエルが私を見上げて訴える。

プロミネさんも、ミーナさんも、期待と不安が入り混じった目で私を見ていた。


「ええ、同感です」


私は静かに頷いた。


「ですが、正面から殴り込んでも意味がありません。彼らは『王家との契約』や『法』を盾にするでしょう。単純に暴力を振るうだけでは、こちらが悪者にされて終わりです」


「じゃあ、どうするの?」


「もっと効率的にいきましょう」


私はニヤリと笑った。

それは研究者時代、難解なエラーの原因を特定した時に浮かべていた、狩人の笑みだ。


「彼らが隠している『不正の証拠』を白日の下に晒し、彼らが守ろうとしている『既得権益』を、根底から崩壊させます」


◇◆◇


プロミネさんが用意してくれた宿の客室で、私は窓の外に広がる王都の夜景を見下ろしていた。

煌々と輝く貴族街の明かりと、その奥にある暗く沈んだスラムとの対比。

この街は病んでいる。


「エコー、作戦立案だ」


了解ラジャ。目的:カステッロ商会の資金フローの解明、およびリリィ孤児院の救済。推奨プラン……』


視界にウィンドウが展開される。

敵の急所はどこか。

金だ。そして、信用だ。

彼らが不正に得ている金を断ち、彼らが掲げている偽りの信用を剥ぎ取れば、組織は自壊する。


「まずは情報の非対称性を解消する。……彼らの帳簿と、実際の物流データの食い違いを視覚化してやる」


私はスッと右手を掲げ、空中に指を走らせた。

不可視のオーケストラを導く指揮者のように。

リズミカルに動く指の軌跡に合わせて、大気中のマナが反応し目の前の画面が高速で遷移せんいする。

詠唱も杖もいらない。必要なのは、この指先が紡ぐ最適解だけだ。


「明日から忙しくなるぞ」


この国に巣食う最大の病巣、カステッロ商会。

今度は一つ一つの商品ではなく、この国全体を『修理』する。

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