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『エラー:聖典の教義と矛盾します』 ~異端認定された『AI魔法』ですが、神様のバグを修正してもいいですか?~  作者: ぱすのーと
【第二章】 王都カステッロ商会・革命 編

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008: 絡んできたチンピラを物理演算で転ばせ、壊された商品を新品以上に修復する

※当作品は執筆にあたり「Gemini」、「NotebookLM」を補助として利用しています。

「やってやろうじゃねえか、このガキ!」


男たちのリーダー格と思しき、ガンツと呼ばれた大男が太い腕を振り上げた。

プロミネさんが「ひぃっ!」と悲鳴を上げて身をすくめる。

暴力という、最も原始的で非効率な解決手段。

だが、私にとっては、これほど対処しやすい相手もいない。


予測演算プレディクション、完了。右フック、到達まで1.2秒。軌道、修正なし』


視界の中、ガンツの筋肉の動きに合わせて、赤いラインが虚空に描画される。

それは、彼の拳が通る未来の軌跡だ。


「遅いな」


私はその場から一歩も動かなかった。

ただ、首を僅かに左へ傾ける。

ブンッ!

風切り音が耳元を掠める。鼻先数センチのところを、丸太のような拳が通過していった。


「あぁん?」


手応えのなさに、ガンツの体勢が前のめりに崩れる。

重心が完全に崩れたその瞬間、私はスッと右足を彼の足首の前に差し出した。

蹴る必要すらない。ただ、障害物を置くだけでいい。


「うおっ!?」


ドガァッ!!


ガンツは盛大に顔面から石畳にダイブした。

さらに不運なことに、彼の巨体は後ろに控えていた子分たちの方へと突っ込み、ボウリングのピンのように彼らを巻き込んで倒れた。


「いってえぇ……!」

「なんだあいつ、何しやがった!?」


地面で芋虫のように転がる男たちを見下ろし、私は軽く服の埃を払った。


「おっと、足元が留守だったみたいですね。そんなに急いで、何か用事でもありましたか?」


私は努めて穏やかに、しかし目は笑わずに彼らを見据えた。

ガンツが顔を上げ、私を睨みつける。だが、その目には先ほどまでの侮りではなく、得体の知れないものを見る恐怖が混じっていた。

魔法を使ったわけでもない。ただ避けて、転ばせただけ。

しかし、そのあまりに自然で無駄のない動きが、彼らの本能に警鐘を鳴らしたのだろう。


「ち、ちくしょう! 覚えてろよ!」

「カステッロ商会に喧嘩売って、タダで済むと思うなよ!」


三流の悪党らしい捨て台詞を残し、男たちは逃げるように路地の奥へと消えていった。


「すごーい! アルス、全然動いてなかったのに!」


リエルが駆け寄ってきて、私の顔を覗き込む。

プロミネさんは、ハンカチで額の脂汗を拭いながら、安堵のため息をついていた。


「ふぅ……肝が冷えましたぞ。しかし、まさかアルス殿に体術の心得まであるとは」


「ただの物理法則の応用ですよ。相手の力を利用しただけです」


私は肩をすくめる。

実のところ自分自身でも少し驚いていた。エコーにより若い体に再構成されたとは頭では理解していても、実際に自分の感覚として研究者時代、いやもっと若い頃より格段に体が動くことに感情の方が追いついていなかった。


さて、騒ぎは収まった。だが、問題は解決していない。

店の前には、蹴散らされた商品が無残に散らばっていた。


「ああ……」


その場にへたり込んでいるミーナと呼ばれていた女性の悲痛な声が漏れる。

彼女の足元には、粉々になったガラスの破片と、ひしゃげた金属の枠が散乱していた。


「これじゃあ、今月の売り上げどころか……」


彼女が震える手で拾い上げようとしたのは、ただの雑貨ではないようだった。

砕け散ったのは、精巧な作りの『魔石式ランタン』だ。


「あっ、触っちゃダメです!」


リエルが叫ぶより早く、ミーナさんの指先から赤い血が滲んだ。

鋭利なガラス片で切ってしまったのだ。それでも彼女は、痛みを忘れたかのように破片をかき集めようとする。


「直さなきゃ……。これ、私が初めて設計して、プロミネさんが製品化してくれた、大切な……」


涙が、彼女の大きな瞳からこぼれ落ち、地面のシミを作る。

それは単なる商品モノではない。彼女の夢の結晶であり、職人としてのプライドそのものなのだろう。


(エコー、スキャン開始)


了解ラジャ。対象:破損した魔石式ランタン。損傷率85%。ガラス部全損、内部魔力回路の断線を確認』


視界に、バラバラになったランタンのワイヤーフレームが表示される。

構造は理解した。

悪くない設計だ。だが、魔力伝導率の計算に若干の甘さがある。回路の配置を最適化すれば、もっと効率よく光るはずだ。


「触らないでください、ミーナさん」


 私は彼女の前にしゃがみ込み、血の滲む手首を優しく掴んで止めた。


「……え?」


知らない少年に名前を呼ばれたことへの驚きやら、自分のやらねばならぬことを止められた戸惑いやらの複雑な感情が入り乱れた、と息のような感嘆詞が漏れた。


「まだ、直せます」


「無理よ! ガラスだけじゃない、中の回路まで粉々なのよ!? 元通りになんて……」


「元通り以上・・にします」


私は破片の山に右手をかざした。

心配そうに見ているリエルたちの視線が集まる。


(構造定義、ロード。欠損パーツの補完パッチ生成。……そして、回路の最適化デバッグ


『材質データ照合……クリア。分子結合シーケンス、起動します』


私の手元から、青白い幾何学模様の光が溢れ出した。

それは、ただの光ではない。物質の構成情報を書き換えるための、高密度の魔力コードだ。


 シュゥゥゥ……!


まるで時間を巻き戻すかのように、地面に散らばっていたガラス片が浮き上がる。

空中で触れ合い、熱を帯びて溶け合い、一枚の滑らかな曲面へと再構成されていく。

歪んだ金属フレームが、あるべき形へと自動的に戻っていく。


「な、なに……これ……?」


ミーナさんが涙を拭うのも忘れて見上げる中、私はさらに内部構造へと干渉した。

断線していた魔力回路を繋ぎ直すだけではない。抵抗を生んでいた無駄な経路をショートカットし、魔力の流れをスムーズにする。


『出力調整。光量係数、従来比120%へ向上』


カッ!


ランタンの中心にある魔石が強い輝きを放ち、修復作業の完了を告げた。

私は空中に浮かんだランタンを掴み取ると、呆然としているミーナさんに差し出した。


「はい。修理完了です」


そこにあるのは、傷一つない新品同様のランタンだった。

いや、ガラスの透明度も、金属の艶も、以前より増しているように見える。


「うそ……」


ミーナさんは震える手で、首から下げていた片眼鏡モノクルを装着した。

彼女の目が、職人のそれへと変わる。

ランタンを覗き込み、光にかざし、ためつすがめつ確認する。


「……信じられない」


彼女が息を呑んだ。


「継ぎ目が全くないなんてありえない。それに、この魔力回路……。私が設計した時よりも、無駄がなくなってる? 魔力伝導率が上がってるじゃない!」


彼女は片眼鏡を外し、私を凝視した。


「あなた、一体何をしたの!? これは、熟練の職人が何日もかけて調整するような仕事よ!?」


「ちょっとした手直しですよ。元の設計が良かったから、組み直すのも簡単でした」


私はさらりと嘘をついた。

実際には原子レベルでの再構築だが、そんな説明をしたところで混乱させるだけだ。あくまで「君の技術をベースにした」と伝えることで、彼女のプライドも守られる。


ミーナさんはランタンを胸に抱きしめると、今度は嬉し泣きで顔をくしゃくしゃにした。


「ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」


彼女は私の手を両手で包み込み、何度も頭を下げた。

その手には、職人特有の小さなタコの痕跡や傷跡があった。彼女がこれまで、どれだけ真剣にモノづくりに向き合ってきたかが伝わってくる。


「ふふっ、見ましたかなミーナ君。この方が、私が連れてきた『革命の人』ですよ」


プロミネさんが、ここぞとばかりに胸を張る。

さっきまでガタガタ震えていたくせに、商売人の顔に戻るのが早い。

少し尊敬するよ。

少しね。


「ええ、ええ! わかりますプロミネさん! この技術があれば、カステッロ商会なんて目じゃないわ!」


ミーナさんの瞳に、力強い光が宿る。

それは絶望に濡れていた瞳ではなく、未来への野心を燃やす商人の目だった。

リエルも「さすがだね!」と無邪気に喜んでいる。村での無力感はなくなったようで、素直にほめてくれているのがわかる。


こうして、王都での最初のトラブル(連続2件)は、暴力ではなく「生産」という形で幕を閉じた。

この一件で、私は拠点と、頼れる商売仲間パートナーからの絶対的な信頼を勝ち取ることになったのだ。

ん? チンピラを追っ払うのは「暴力」とは言わないよ。


◇◆◇


少し離れた路地裏にて。

薄汚れた白衣を纏い、片方だけヒビの入った眼鏡をかけた男。

彼は壁の陰から、アルスがランタンを修復した瞬間を、食い入るように見つめていた。


「……無からの再構築だと?」


男が細々とつぶやく。その声は、驚きよりも、飢えた獣が獲物を見つけた時の歓喜に震えていた。


「詠唱も、魔法陣もなしに……。あの術式、既存の魔法体系じゃない。失われた古代文明ロスト・エラーことわりか、それとも……」


彼は懐からボロボロのメモ帳を取り出すと、猛烈な勢いでペンを走らせ始めた。

殴り書きされる数式と、謎の図形。


「クックック……。面白い『素材』を見つけたぞ」


男は片眼鏡の位置を直すと、誰にも気づかれることなく、王都の闇の中へと消えていった。


◇◆◇

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