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『エラー:聖典の教義と矛盾します』 ~異端認定された『AI魔法』ですが、神様のバグを修正してもいいですか?~  作者: ぱすのーと
【第一章】 辺境の村とAI魔法 編

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005: 錬金術?いいえ、ただの時短です ~焼きたてパンと商人の驚愕~

※当作品は執筆にあたり「Gemini」、「NotebookLM」を補助として利用しています。

畑での騒ぎがひと段落した後、私たちは場所をレイルおばさんの家に移していた。

狭い木のテーブルの上には、先ほど収穫したばかりの黄金色の麦穂が山盛りに積まれている。


「素晴らしい……! これほどの麦、見たことがありませんぞ!」


行商人のプロミネは、興奮冷めやらぬ様子で鼻息を荒くしていた。

室内には、村長やレイルおばさん、リエルも集まっている。

彼らの視線は、テーブルの上の麦と、それを涼しい顔で見ている私、アルスに注がれていた。


「さあ、せっかくだし食べてみましょうか」


私はにこやかに宣言した。

私自身、楽しみでもある。


「ですがアルス殿。いかに素材が良くても、これを食べるには手間がかかりますぞ? 脱穀に製粉、パンにするなら発酵も必要だ。」


プロミネがもっともな疑問を口にする。

この世界――エテルナ王国の技術レベルでは、麦を収穫してから口に入る形にするまで、かなりの重労働と時間を要する。石臼で挽くだけでも一苦労だ。

もちろん元の世界でも小麦から即座に食べ物に変化させる技術などなかった。


だが、私の『AI魔法』にとって、それは障害ではない。

むしろ、単純な物理的工程プロセスほど、最適化の余地がある。


「問題ありませんよ。……エコー、調理プロセス開始」


私は短く告げると、麦の山に右手をかざした。


了解ラジャ。対象:机上の小麦全量。工程:脱穀、製粉、加水、混捏こんねつ、発酵、焼成。並列処理にて実行します』


脳内でエコーがタスクを展開する。

私の手元から、青白い光のラインが幾何学模様を描いて広がった。


「な、なんだ……!?」


プロミネがのけぞる。

次の瞬間、テーブルの上で「時間」が圧縮されたかのような現象が起きた。


バシュッ!


風切り音と共に、麦の殻が一瞬で弾け飛ぶ。

黄金色の粒だけが空中に抽出され、それが見る間に微細な粉末へと粉砕されていく。


「み、水! 水が勝手に!」


リエルが驚きの声を上げた。

空中から水が生み出され、空中の小麦粉と混ざり合う。

目に見えない無数の「手」が捏ねているかのように、生地は瞬時に滑らかさを増していく。


『温度管理、イースト菌の活性化……完了』


魔法による熱量制御で、生地は一瞬で膨らんだ。

通常なら数時間かかる発酵プロセスを、魔力による触媒作用で数秒に短縮する。


そして、仕上げだ。


「ヒート・コントロール。……焼き上げろ」


カッ、と空中に熱源が発生する。

それは炎ではない。純粋な熱エネルギーのドームだ。

もちろん周囲には防御魔法も展開し熱を感じさせないようにするのも忘れてはいない。

生地が黄金色に色づき、香ばしい匂いが爆発的に室内に広がった。


「はい、お待ちどうさま」


『>Complete』という文字が空中に浮かぶのと同時に指を鳴らすと、熱々のパンが木皿の上にコロンと転がり落ちた。

湯気を立てる、焼きたての丸パンだ。


「ば、馬鹿な……!? 何が起こったのですか!?」


プロミネはあまりの異常事態に、椅子から転げ落ちそうになっていた。

目は限界まで見開かれ、パクパクと口を開閉させている。


「宮廷魔導師だって、パンを焼くことに魔法なんて使いませんよ! しかも、こんな一瞬で……!」


「魔法は単なる道具にすぎません。使い所を間違えなければ、生活を豊かにすることもできますよ」

(この世界の魔法体系は分からないので(多分)という言葉を心の中で付け足しておく)


私は何食わぬ顔で、以前生成した「特製コンソメスープ」も添えて差し出した。


「さあ、冷めないうちにどうぞ。私も空腹ですし」


プロミネは震える手でパンを掴み、スープを一口すすった。

そして、パンをかじる。


カリッ、フワッ。


心地よい音が響いた直後、プロミネの動きがピタリと止まった。


「…………」


沈黙。

村長たちが固唾かたずを飲んで見守る中、プロミネの目からツーッと涙がこぼれ落ちた。


「……美味い」


絞り出すような声だった。


「外はカリッとしていて、中は絹のように柔らかい。噛むほどに麦の甘みが広がる……。それに、このスープ! 深いコクと旨味が、五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡るようだ……!」


プロミネは夢中でパンを頬張り始めた。

商売人としての計算高い表情は消え、ただ純粋に美味に感動する一人の人間に戻っている。


「王城のお抱えシェフでも、こんな深い味は出せませんぞ……! これは、革命だ……!」


その様子を見て、リエルや他の面々も恐る恐るパンに手を伸ばした。

リエルは熱々のパンを両手で包み込むように持つ。


「あちちっ……ふー、ふー」


彼女は可愛らしく息を吹きかけて冷ますと、小さな口でガブリとかじりついた。


「はふっ、はふぅ……!」


もぐもぐと口を動かした瞬間、リエルのエメラルドグリーンの瞳が、カッと大きく見開かれた。


「んん〜っ!!」


リエルが椅子の上でピョンと跳ねる。


「おいひいぃぃ……!」


口いっぱいにパンを頬張ったまま、彼女は感極まった声を上げた。

飲み込むのが惜しいといった様子で咀嚼し、ようやくゴクリと喉を通す。


「なにこれ、すごい! 外側は香ばしいのに、中は雲みたいにふわふわ! 噛めば噛むほど甘くて……こんなパン、生まれて初めて食べたよぉ……!」


リエルの頬が、幸せそうに緩みきっている。

彼女は今度はスープを一口飲むと、さらに目を輝かせて、とろけるような笑顔になった。

瞳の奥が輝いて見えるのは気のせいではないだろう。


「はぁ〜……幸せ……。お口の中が、お花畑になったみたい……」


両手で頬を押さえ、うっとりとしているリエル。

小動物が餌を夢中で食べているようなその姿は、なんとも愛嬌があった。


(……どうやら、大成功のようだな)


リエルのあまりに無防備で幸せそうな表情を見て、私は心の中で小さくガッツポーズをした。


◇◆◇


食事を終え、落ち着きを取り戻した頃。

プロミネが居住まいを正し、真剣な眼差しで私に向き直った。


「アルス殿。単刀直入に言います」


その瞳には、商売人としての鋭い光と、それ以上の熱意が宿っていた。


「私と一緒に、王都へ来てください」


リエルが「えっ?」と声を上げる。

私は静かにプロミネを見返した。


「なぜでしょう。この技術を売り込めば金になる、という話なら興味はありませんが」


「いえ……もちろん、商売にはなります。ですが、それだけではないのです」


プロミネは首を横に振った。


「王都も今、食糧難と物価高騰であえいでいるのです。長引く不作、隣国との緊張状態……民の生活は苦しくなる一方です」


彼は拳を握りしめ、言葉に力を込めた。


「あなたのこの『技術』があれば、多くの民を救える。枯れた大地を蘇らせ、一瞬で極上の食料を生み出すその力……。この村のように、国を、救ってほしいのです」


プロミネの言葉に嘘はなさそうだった。

彼がこの貧しい村に行商に来ていたのも、かつての恩義からだったとさっき村長が話していた。根は義理堅い人物なのだろう。


(王都、か……)


私はこの世界での明確な目的はないが、手近な人助けをするのもいいだろう。

もっとこの『AI魔法』の可能性を探ってみたい。

もっと研究をしていたい。

そのためには、たしかに辺境の村のみに留まっていては限界がある。

王都に行けば、より高度な魔法知識、書物、そして多種多様なデータが手に入るだろう。


だが、懸念もある。


「私がここを離れれば、この村の『改革』が中途半端になる。土壌改良は一度で終わるものじゃない。継続的な管理メンテナンスが必要なんだ」


私がそう言うと、村長やレイルおばさんが寂しそうな、でも納得したような顔をした。

しかし、プロミネは即座に答えた。


「それならば、私が責任を持ちましょう」


彼ははちきれそうな胸を叩いた。


「あなたが王都で生み出す成果や資材を、私が責任を持って、定期的にこの村へ運びます。私の商会の流通網をフルに使って、この村が今後困窮しないよう計らいます!」


「……ほう」


私は感心した。

彼は私の懸念を先回りし、「物流」という観点から解決策を提示してきたのだ。


(悪くない。村の発展を担保しつつ、私は王都でより高度なデータと設備にアクセスできる。……Win-Winの関係というやつだな)


『推奨。提案の実現確率……99.8%』


エコーの判断も肯定的だ。

私はプロミネに手を差し出した。


「分かりました。その提案、乗りましょう」


「おお……! 感謝します、アルス殿!」


プロミネが私の手を両手で包み込み、激しく上下に振った。

周囲で聞いていた村長やレイルおばさんたちからは、「寂しくなるなが、賢者様の栄達だ」「頑張りなよ!」という温かい声援が飛んだ。


ただ一人、リエルだけが、少し複雑そうな顔でうつむいていたのを、私は見逃さなかった。


◇◆◇


その日の夜。

村に活気が戻ったことのお祝いと、私の送別を兼ねて村長が開いてくれた宴も終わり、静けさが戻ったレイルおばさんの家の庭で、私は一人、夜空を見上げていた。


この世界の星空は、当たり前だが地球のそれとは配置が違う。

だが、その美しさは変わらない。

満天の星々が、宝石箱をひっくり返したように瞬いている。


(未知の星座、未知の法則。……解析しがいがあるな)


「……アルス」


背後から、遠慮がちな声がした。

振り返ると、リエルが立っていた。月の光を浴びて、金色の髪が淡く輝いている。


「ああ、リエル。どうしたんだ、こんな時間に」


「ううん、ちょっとね。……風に当たりたくて」


彼女は私の隣に来ると、同じように空を見上げた。


「……行っちゃうんだね、王都」


「ああ。やるべきことがあるからな。この世界の魔法やことわりをもっと深く知りたいんだ」


「そっか……。アルスはすごいもんね。こんな村に収まるような人じゃないよね」


リエルは明るく振る舞おうとしているが、その声は少し震えていた。


「あたし、アルスのおかげで助かったし、美味しいものも食べられたし、村も元気になったし……。本当は、もっといろんな魔法、見てみたかったな」


「村にはプロミネが物資を運んでくれる。生活には困らないはずだ」


「うん、わかってる。わかってるけど……」


リエルは言葉を詰まらせ、寂しそうに笑った。

その横顔を見て、私は何か言葉をかけようとしたが、適切なフレーズが見つからなかった。


私は研究者だ。

論理的な解法や、効率的な手段を提示することはできる。

だが、こういう時の「感情のケア」に関しては、驚くほど手持ちのカードが少ないことを自覚させられる。

前世でも「このような」経験は……なかったのだ。


『報告。リエルの心拍数に揺らぎを検知。瞳孔の水分量が上昇中。推奨:慰撫いぶ行動』


脳内でエコーが事務的なアドバイスを送ってくる。

慰撫行動って、具体的に何をしろと言うんだ。頭を撫でるのか? 抱きしめるのか?


(そ、そんなことできるわけないだろう……!)


私は心の中でエコーに反論し、視線を夜空に戻した。

ここで変に優しくして、期待を持たせるのも違う気がする。かといって、突き放すのも論外だ。


二人の間に、少し切ない沈黙が流れる。

虫の音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……また、来るさ」


長い沈黙のあと、私が絞り出したのは、そんな飾り気のない言葉だった。


「私が開発した新しい技術や道具は、必ずこの村にも届ける。実験データが必要だからな」


「ふふっ、実験データって。アルスらしいね」


リエルが涙を拭って、吹き出した。

少しだけ、いつもの快活さが戻る。


「うん。待ってるね。……あたしも、もっと魔法の勉強しておく! 今度会った時は、アルスをびっくりさせるくらい上手になってるから!」


「それは楽しみだ。期待しているよ」


「絶対だよ! 約束!」


リエルは私の顔を覗き込み、ニカッと笑った。

その笑顔は、夜空の星よりもまぶしく見えた。


こうして、私の異世界での最初の拠点は、守られ、そして新たな旅立ちの場所となった。

明日はいよいよ王都への出発だ。

そこには、この村とは比べ物にならない規模の「非効率」と、それを守ろうとする「旧弊」が待ち受けていることだろう。


「……さて、忙しくなりそうだ」


私は夜風に吹かれながら、まだ見ぬ王都の景色を思い描いた。

私の手には、世界を書き換えるための「力」がある。

少年の体に引っ張られているのか、「楽しみでワクワクしている」という感情を自覚し、少し照れくさくなった。

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