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『エラー:聖典の教義と矛盾します』 ~異端認定された『AI魔法』ですが、神様のバグを修正してもいいですか?~  作者: ぱすのーと
【第三章】 商業都市の再構築 編

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018:行き倒れの狼兄妹と、ギルドの悪徳Aランク ~非効率な威圧は通用しません~

※当作品は執筆にあたり「Gemini」、「NotebookLM」を補助として利用しています。

「馬車の整備は完璧ですぞ! 特注のサスペンションで、悪路でも雲の上のような乗り心地を保証します!」


王都の正門前。

プロミネ商会の会頭プロミネが、胸を張って見送りの言葉を述べた。

彼が用意した馬車は、外見こそ装飾の少ない地味な幌馬車だが、車軸周りには私が設計に関与した『衝撃吸収機構サスペンション』が組み込まれている。目立たず、かつ移動の疲労を最小限に抑える効率的な仕様だ。


「ルゥちゃん、離れたくないですわ~! もふもふ……」

「きゅうぅ……」


その横では、エリーゼがルゥを抱きしめて頬ずりを繰り返している。ルゥは少し困った顔でこちらを見ていたが、されるがままになっている。彼女なりの別れの挨拶なのだろう。


「アルス様……。貴方のような稀有な人材は、この国にはまだまだ必要です。聖獣を送り届ける用事を済ませたら、速やかに戻ってきてくださいね?」


「いえ。私はこの国の人間(所属)ではありませんので、その保証はしかねます。……しかし、永劫の別れというわけでもありません。また縁があればお会いしましょう」


私のドライな返答に、シルヴィアは苦笑しつつも、どこか信頼を込めた眼差しで頷いた。

湿っぽい別れは不要だ。互いに利害が一致した時、また組めばいい。それだけの関係であり、それが心地よい。


「では、行こうか」


私たちは馬車に乗り込み、賑やかな見送りを受けながら王都を後にした。

目指すは西方、商業公国ゼファー。新たな『バグ』の予感を乗せて、馬車は滑らかに走り出した。


◇◆◇


王都を出発して数日後。

街道沿いの森で、私たちは奇妙な物体・・を発見した。


「アルス、止めて! 人が倒れてる!」


リエルの声で馬車を止めると、道端に二つの影が重なるようにして行き倒れていた。

獣の耳と尻尾を持つ、男女の二人組だ。

生体反応はあるが、極度の飢餓状態による衰弱が見られる。


「……とりあえず回収しよう。ここで放置して腐敗させるよりは合理的だ」


私は対象エリアの座標を指定。

局所重力制御グラビティ・コントロール』――重力ベクトルを反転させ、二人をふわりと浮かせると、そのまま馬車の荷台の空きスペースへと運んだ。


◇◆◇


日が落ち、私たちは街道を外れた森の中で野営をすることにした。

今日の夕食は、保存食の干し肉と硬いパンだ。だが、そのまま食べるのはエネルギー効率が悪い。


「少し手を加えるか」


鍋に干し肉と水、そして香味野菜を投入する。

鍋の蓋を閉め、内部の気圧を風魔法で操作。沸点を上昇させると同時に、水分子を微細振動させて熱伝導率を最大化する。

簡易的な『圧力鍋』の再現だ。数時間かかる煮込み料理が、わずか数分で完成する。


蓋を開けた瞬間、暴力的なまでに濃厚な肉のスープの香りが、夜の森に充満した。


「……ッ!!」

「……肉の、匂い……!」


その瞬間、荷台で死体のように眠っていた二人が、バネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。

男の方が、血走った目で鍋を凝視する。


「肉だ……妹に、肉を食わせねぇと……!」

「兄さん……すごく、いい匂い……」


限界を超えた空腹により、意識が混濁しているようだ。

と、その時だった。

同じく匂いに釣られて鍋の近くで尻尾を振っていたルゥと、二人の目が合った。


「「ッ!?」」


二人の獣人の顔色が、空腹による青ざめから、驚愕の赤へと激変した。


「こ、この魔力、それに匂いは……まさか、伝説の『御使い様』!?」

「間違いない……一族の伝承にある、白銀の毛並み……!」


二人は震える手で、ルゥを拝むように見つめた。

彼らはルゥを探していたのだろうか。感極まった男が、涙を流しながらルゥに手を伸ばす。


「おお、神よ……! どうか我らをお救いくだ――」

「きゅっ!」


知らない男に迫られ、驚いたルゥは私の背中へと隠れてしまった。

それを見た瞬間、男の目つきが変わった。

信仰と空腹が入り混じった瞳が、私を敵として認識する。


「てめぇ……! 俺たちの神様に何してやがる! さらったのか!?」


「いや、違う。落ち着け」


「俺たちの神様を返せぇぇぇ!!」


問答無用。男は獣のような速さで私に飛びかかってきた。

だが――軌道が単調だ。


「……食事前に暴れるな。埃が舞う」


私は味見をしながら、振り返りもせずに左手だけで『風のウィンド・シールド』を展開した。

男のタックルは弾かれ、そのまま木の幹へと転がっていく。


「ぐはっ!?」


さらに追撃。

私は指先を軽く下に向ける。


「『重力加重グラビティ・プレス』」

「が、ぁ……ッ!?」


男の身体が、見えざる手によって地面に縫い付けられたように動かなくなる。骨を折らない程度の、適度な拘束だ。


『回答:対象種族「ウルフ・ビースト」における宗教観念の照合。聖獣を「一族の始祖」または「神」として崇める風習が確認されます』


脳内でエコーが補足情報を表示する。なるほど、神への不敬と勘違いしたわけか。


「……きゅぅ」


ルゥが私の肩に乗り、心配そうに男の方を見て、それから私に頬を擦り寄せてきた。「いじめないで」と言っているようだ。

それを見て、ようやく二人は状況を理解したようだった。私が彼らの敵ではなく、ルゥの保護者であることを。


「……すまねぇ。腹が減りすぎて、どうかしてた」


「まずは食べろ。話はそれからだ」


私は拘束を解き、二人にスープを振る舞った。

トロトロに煮込まれた干し肉を口に入れた瞬間、二人の目から滝のような涙が溢れ出した。


「うめぇ……! なんだこれ、肉が溶けるぞ!?」

「こんな美味しいスープ、初めて……!」


猛烈な勢いで平らげた後、男――狼族ウルフ・ビーストのウルヴァーは、地面に頭を擦り付けて土下座した。


「強ぇし、飯も神がかってやがる……! アンタ、一生ついて行きます! アニキ!」

「アニキはやめろ」

「私はセフィアと言います。兄がご迷惑を……」


妹のセフィアも深々と頭を下げるが、その視線は私の膝の上で丸くなっているルゥに釘付けだ。


「(神様が……あんな人間の男性に『お腹なでて』のポーズを……尊い……けど威厳が……でも可愛い……)」


信仰心と愛でる心の板挟みになっているようだ。


話を聞くと、二人は行方知れずになった一族の守り神を探して旅をしていたが、資金が尽きて行き倒れたらしい。

その「守り神」の特徴がルゥと一致したため、彼らはルゥを神と崇めているわけだ。


「目的地は私たちと同じ、商業公国ゼファーか」

「はい。そこでの目撃情報があったので……」


行き先が同じなら、置いていく理由もない。

こうして、騒がしい狼兄妹が旅の仲間に加わることになった。


◇◆◇


数日後。私たちは商業公国ゼファーに到着した。

巨大な城壁に囲まれたその都市は、王都とは違う熱気に包まれていた。


「……凄い人混みだな。王都とは空気が違う」


行き交う馬車の数、怒号のような商談の声。物流の密度が段違いだ。

私は早速、宿の手配に向かおうとしたが――


「あの、アルスさん」


セフィアが遠慮がちに袖を引いた。


「王都にいた時に頂いたという、その『特別な身分証』ですが……ここでは出さない方がいいと思います」


「なぜだ? 身分を証明するには手っ取り早いが」


「ここは商人の街ですから。貴族や英雄の威光は、逆に目をつけられる原因になります。『法外な特別料金』をふっかけられたり、変な派閥争いに巻き込まれたり……」


なるほど。金が全てのこの街では、権威はトラブルの種にしかならないということか。


「まずは冒険者ギルドで、一般の身分証ライセンスを作った方が安全かと」

「……合理的だ。採用しよう」


私はセフィアの助言に従い、まずは冒険者ギルドへと向かった。


ゼファーの冒険者ギルドは、豪華な装飾が施された建物だった。

だが、一歩足を踏み入れると、そこには殺伐とした空気が流れていた。


「あぁん!? 俺様の装備に傷がついただろうが! 慰謝料代わりに手足を置いてけ!」


ロビーの中央で、巨漢の冒険者が、新人のように見える少年冒険者を蹴り飛ばしていた。

周囲の人間は見て見ぬふりをしている。


「てめぇ! 弱い者いじめしてんじゃねぇ!」


義憤に駆られたウルヴァーが飛び出した。

だが、巨漢の男――Aランク冒険者ガドロスは、鼻で笑って巨大な戦斧を突きつけた。


「あぁ? どこぞの野良犬だ。亜人風情が人間に口を利くんじゃねぇよ。……死にてぇのか?」


圧倒的な殺気が放たれる。ウルヴァーが息を呑み、周囲の喧騒が一瞬にして凍りつき、静まり返った。

誰もが関わりたくないと思い、目を逸らしている。

このままでは、ギルド登録の前に流血沙汰だ。

私はため息を一つつき、二人の間に割って入った。


「……そこまでにしておけ。見苦しいぞ」

「あぁん? 誰だテメェ。俺様に指図する気か?」


ガドロスがギラついた視線を私に向ける。

私はその視線を正面から受け止め、淡々と言い放った。


「ランクなんて飾りだろ。弱い者いじめで強さを誇示するのは、時間の無駄だと言っているんだ」

「――ッ、このガキがぁ!!」


激昂したガドロスが、その剛腕で戦斧を振り下ろした。

直撃すれば人間など肉塊に変わる一撃。

だが、私は動かない。


「(スキャン完了。軌道予測、および筋力値の算出終了)」


斧が私の鼻先数ミリに迫った瞬間。

私は無詠唱で『不可視の風弾エア・バレット』を放ち、斧の腹を正確に弾いた。


ガギィィンッ!!


金属音が響き、ガドロスの斧が手から弾き飛ばされ、天井に突き刺さった。


「は……?」


ガドロスが目を見開き、自分の空の手と、私を交互に見る。

私は指先一つ動かしていない。彼からすれば、斧が勝手に弾き飛ばされたように見えたはずだ。


「……次は当てるぞ」


低く、冷たく告げる。

その瞬間、ガドロスの顔から血の気が引いた。本能が「格の違い」を理解したのだ。


「ち、チッ! 今日は運が良かったな!」


ガドロスは捨て台詞を吐くと、逃げるようにギルドから去っていった。

静まり返っていたギルド内に、安堵の空気が広がる。

私は天井を見上げながら、リエルにだけ聞こえる声で呟いた。


「……今の男の装備、妙だったな」


「え? 趣味が悪かったけど……」


「素材だ。軍用レベルの純度だった。それに……籠手の一部に、何か『装飾を無理やり剥がしたような跡』があった」


正規の流通ルートではない。そして、隠さなければならない「何か」がある。

この街には、目に見えない『バグ』が潜んでいるようだ。


「……すげーな、あんた」


その時、背後から声をかけられた。

振り返ると、仕立ての良い紺色のコートを着た優男が、興味深そうに私を見ていた。


「あのガドロスを言葉だけで退かせちまうなんて。……俺はメリアス。よかったら、一杯奢らせてくれないか? 面白いもん見せてもらった礼にさ」


穏やかな笑顔の裏に、知的な光を宿した瞳。

この出会いが、この都市の命運を変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。

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