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『エラー:聖典の教義と矛盾します』 ~異端認定された『AI魔法』ですが、神様のバグを修正してもいいですか?~  作者: ぱすのーと
【第三章】 商業都市の再構築 編

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017:氷の女王、炎の王孫 ——聖獣との旅立ち

※当作品は執筆にあたり「Gemini」、「NotebookLM」を補助として利用しています。

王城の謁見の間。 そこは、張り詰めたような静寂に支配されていた。


石造りの床は鏡のように磨き上げられ、深紅の絨毯じゅうたんが玉座へと続いている。 その玉座に腰掛けているのは、この国を統べる女王、エリメディア・エテルナ。 御年おんとし78歳。長い銀髪を結い上げ、老いを感じさせない鋭い眼光でこちらを見下ろしている。その冷徹な威圧感は、「氷の女王」という異名にふさわしい。


そのかたわらには、近衛騎士団の正装に身を包んだ少女が控えていた。 第二王女、シルヴィア。 燃えるような赤髪をポニーテールにし、背中には自身の身長ほどもある大剣を背負っている。凛とした立ち姿は武人そのものだが、まだ14歳という若さが隠しきれないあどけなさを残していた。


(……ふむ。78歳の女王と、14歳の王女か)


私は頭を垂れながら、密かに分析する。 年齢差から見て、二人は親子というよりは、祖母と孫の関係だろう。並んだ姿からは、血の繋がりを感じさせる気高さが共通して漂っていた。


「……おもてを上げよ」


よく通る、厳格な声が響く。 私はゆっくりと顔を上げた。隣ではリエルが緊張でガチガチに固まっている。


エリメディア女王は、値踏みするような視線で私を見据えた。


「そなたか。あの『戦好き』の孫娘が、剣の腕以外で興味を示した男というのは」


「買いかぶりです、陛下。私はしがない魔術師に過ぎません」


私はうやうやしく頭を下げた。 あくまで、少し腕の立つ魔術師。そのスタンスを崩すつもりはない。


「しがない、か。……カステッロ商会の不正を暴き、王都の経済を救った手腕。そして、何よりあの閉鎖的な商会長を改心させたという話。……とても『しがない』とは思えぬが?」


「たまたま運が良かっただけですよ。それに、私の魔法は少し変わっていますが、原理は既存の術式と変わりません」


私が当たり障りのない返答をした、その時だった。


「ご謙遜を、アルス殿!」


突然、食い気味な声が響いた。 シルヴィア王女だ。彼女は目をキラキラと輝かせ、一歩前へ踏み出していた。


「貴殿の空間干渉術式は、王宮魔導士長すら凌駕りょうがするものです! あの無駄のない術式構成、美しい魔力の循環……! あれこそまさに芸術! 既存の枠組みを超越した、魔導の極致きょくちと言っても過言ではありません!」


早口だった。 普段の凛とした武人の姿はどこへやら、好きな玩具を語る子供のように熱弁を振るっている。どうやら彼女は、私がカステッロ商会の件で見せた転移魔法ゲートなどの効率性に惚れ込んでいるらしい。


「……シルヴィアよ」


エリメディア女王が、呆れたようにため息をつく。 その声音には、君主としての威厳の中に、どこか身内に対する呆れと温かさが混じっていた。


「お前がそこまで早口になるのは、新しい名剣を見つけた時くらいだぞ? ……まったく、誰に似たのやら」


「はっ! ……し、失礼いたしました、お祖母……いえ、陛下!」


我に返ったシルヴィアが、赤面して直立不動の姿勢に戻る。 今、とっさに「お祖母様」と言いかけたな。 その様子を見て、エリメディア女王の口元が、ほんの一瞬だけ緩んだのを私は見逃さなかった。


(……やはり、祖母と孫か。氷の女王も、孫娘には甘いらしい)


『警告。対象:エリメディア女王。心拍数の変動パターンより、孫娘への好意的な感情を確認。……いわゆる「ツンデレ」の傾向あり』


私の視界の端に、エコーからのテキストウィンドウがポップアップする。


(エコー、その余計な分析はログにだけ残しておけ。今は集中したい)


了解ラジャ。テキストモードを維持します』


一般の兵士や臣下から見れば、女王は依然として冷徹な表情を崩していない。 だが、この場の空気は少しだけ和らいだ気がした。


その時だった。 バタンッ! と扉が開き、伝令の兵士が飛び込んできた。


「緊急事態! 王都近郊の農村地帯にて、黒い魔獣が出現! 備蓄倉庫を破壊し、城壁へと接近中です!」


「なんだと……?」


女王の眉がぴくりと動く。 兵士は呼吸を整え、悲痛な表情で言葉を継いだ。


「特徴が一致しています。……数ヶ月前より我々が何度煮え湯を飲まされたか分からない、あの個体……『同一個体』で間違いありません!」


「おのれ……またあの獣か」


エリメディア女王の瞳に、統治者の鋭い光が戻った。 玉座の肘掛けを強く握りしめ、冷徹に命を下す。


「近衛騎士団、第一部隊を出撃させよ。今まで奴には好き放題させてきたが、これ以上王都を蹂躙じゅうりんさせるわけにはいかん。……今度こそ、確実に息の根を止めよ」


「お待ちください、陛下!」


その命令を遮ったのは、他ならぬシルヴィアだった。 彼女は燃えるような瞳で女王を見上げ、一歩踏み出す。


「その魔獣討伐、私にお任せください! 騎士団の手を煩わせるまでもありません。私の『紅蓮の大剣』で、今度こそ一刀のもとに沈めてみせます!」


「……ならぬ」


女王の声は冷たかった。


「お前は王女だ。万が一、玉体に傷がつくようなことがあってはならん。自らを危険に晒すことだけが勇気ではないぞ」


それは建前だった。 本心では、これまでの被害状況から見て、孫娘が傷つくことを恐れているのだろう。


「王族が先陣を切らずして、誰が国を護れるのですか! それに、あの程度の獣に遅れを取るような鍛錬はしておりません!」


一歩も引かないシルヴィア。 その覚悟に、女王はしばし沈黙した後、ふっと小さく息を吐いた。


「……よかろう。ただし、慢心は許さぬぞ。必ず無傷で戻れ」


「御意! 感謝いたします!」


シルヴィアが嬉々として背中の大剣を握りしめる。 まるで散歩の許可を得た犬のように尻尾が見えそうだ。


私は、この状況における「損益分岐点」を瞬時に計算した。 王都の脅威となっている元凶の排除。それに協力することは、この国での信用という「通貨」を得る絶好の機会だ。


「……私の力も、お役に立てるかと」


私は一歩前へ出た。


「ほう? 加勢してくれるか」


エリメディア女王が興味深そうに眉を上げる。 シルヴィアがバッと振り返り、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。


「ふん、物好きだな! ……だが面白い。貴様のあの奇抜な魔法、戦闘ではどうなのか興味はあったのだ。私のスピードについて来れるなら、同行を許可してやろう! 期待しているぞ、魔術師!」


傍若無人な暴れ馬のような物言いだが、その瞳は楽しげだ。


「ええ、期待に添えるよう善処しますよ」


かくして、王女と魔術師という、異色の合同討伐隊が結成された。


◇◆◇


王都近郊の平原。 その先に、異様な存在感を放つ「それ」はいた。


「グルルルルッ……!!」


四足歩行の巨大な獣だ。 だが、生物としての輪郭が曖昧だった。全身にどす黒いもやのような魔力がまとわりつき、元の姿が判別できないほど歪んでいる。


「はああぁぁッ!!」


シルヴィアが疾風のごとく斬り込む。 華奢な身体からは想像もつかない剛力で、身の丈ほどの大剣を一気に振り下ろす。その刀身には紅蓮の炎がまとわれていた。


ガギィィンッ!!


しかし、硬質な音と共に、大剣は弾かれた。 黒い靄が意思を持つ壁のように凝縮し、物理攻撃を遮断しているのだ。


「チッ……! またか! 相変わらず忌々しい防御だ!」


シルヴィアがバックステップで距離を取るのと同時に、魔獣の鋭い爪が振るわれる。 彼女が避けきれないと判断した瞬間、私は指先を走らせた。


(エコー、座標展開。障壁シールド


「――障壁展開」


キンッ!!


シルヴィアの前に展開した不可視の壁が、魔獣の爪を弾き返した。


「……ほう! 守りも堅いか、やるな貴様!」


シルヴィアがニカっと笑い、体勢を立て直して再び突っ込んでいく。 私は彼女の戦闘を支援しつつ、同時に解析プロセスを走らせる。


(エコー、並列処理開始。戦闘支援と並行して、あの黒い靄の構成要素を特定せよ)


了解ラジャ。……解析中。……警告。この魔力波形、聖典教会のデータベースにある『ネブラ』という人物の固有魔力波形と一致』


(ネブラ……? 聞いたことのない名だな)


『補足情報。該当人物は聖典教会の異端審問官です。対象の術式は、儀式魔法『聖香ホーリー・インセンス』をベースに意図的に書き換えられています。本来「鎮静」をもたらす効果が反転し、「凶暴化」と「身体強化」を強制するコードが埋め込まれています』


「……趣味が悪いな」


私は障壁を展開してシルヴィアへの攻撃を防ぎながら、冷徹な仮説を組み立てる。 聖典教会による「浄化」のための兵器開発。 世界を救うという大義名分のもと、意のままに動く強力な「駒」を作ろうとしているとしたら? この魔獣は、その実験の成れの果てか――あるいは、壮大な計画の一部に過ぎないのか。


「らぁぁぁッ!!」


シルヴィアの豪快な一撃が、靄の一部を切り裂く。 その裂け目から見えた魔獣の瞳は、怒りではなく、混乱と恐怖に濡れていた。 訳も分からず強化され、空腹中枢を刺激され、ただ暴れることしか許されていない。


「……アルス!」


後方で待機していたリエルが叫んだ。


「あの子、泣いてる……。『痛い、やめて』って……!」


精霊魔法使いの彼女には、魔獣の悲鳴が聞こえているのだ。


「ああ、そのようだな。……すぐに終わらせよう」


私は前に進み出た。 シルヴィアが私の意図を察し、道を空ける。


「仕掛けが分かったのか?」


「ええ。タネも仕掛けも、実に悪趣味なものでしたよ」


私は右手をかざし、空中に幾何学模様を描いた。 それは魔法陣ではない。歪められたことわりを初期化する、管理者権限の行使。


(エコー、術式構築。対象の術式『ネブラ(霧)』の制御権を奪取。……強制解除アンロック


「――術式解体。構成初期化フォーマット


私の指先から放たれた青白い光の波紋が、魔獣を包み込む。 何者か(ネブラ)が施した邪悪な術式コードが、私の演算によって瞬時に上書きされ、消去されていく。


黒い靄が、朝日に溶ける霧のように一瞬で霧散した。


「ガアッ……?」


魔獣の動きが止まる。 そして、禍々しい気配が消え去った時、そこに残されたのは巨大な怪物ではなかった。


「……くぅ?」


ちょこんと座っていたのは、美しい銀色の毛並みを持つ、狼の幼体だった。 まだ幼く、つぶらな瞳で首を傾げている。


「な……狼……? あんな怪物の正体が、こんな小さな……」


シルヴィアが大剣を下ろし、呆然と呟く。 私の視界に、エコーの検索結果が表示された。


『検索結果。対象:天幻狼セレティアール・ルプスの幼体。伝説上の『聖獣』と断定します』


聖獣。どうりで、通常の魔物とは気配が違うわけだ。 何者かに捕獲され、実験台にされた挙句、制御不能になって脱走した――というところか。 本来は誇り高き聖獣が、このような姿に変えられていたとは。


殺気も敵意も消え失せたその姿を見て、リエルが駆け寄った。


「わああっ! 可愛いーっ!!」


「こらっ、リエル! まだ危険かどうかわからないぞ!」


私の注意など聞く耳持たず、リエルは幼体を抱き上げた。 幼体も抵抗することなく、リエルの胸に顔を埋めて「るぅ」と鳴く。


「名前は『ルゥ』ね! ルゥって鳴いたから!」


その光景を見て、背後のシルヴィアがわなわなと震えだした。


「なっ……!? ず、ずるいぞ! 私にも触らせろ! これは騎士団長命令だ!」


「ええー? 順番だよー」


「くっ……! わかった、待つ! 大人しく待つから!」


そこには「氷の女王の孫」としての威厳も、騎士としての矜持もなかった。 ただの「可愛いもの好きの少女」が、順番待ちの列を作っているだけだった。


(……やれやれ。平和な解決でよかったよ)


私は肩をすくめた。 だが、胸中には冷たい怒りが残る。この聖獣に施されていた術式――ネブラとかいう男、何者だ?


◇◆◇


同時刻。王都、大聖堂の薄暗い回廊。


一人の男が、壁にかけられた古びた鏡を見つめていた。 聖典教会異端審問官、ネブラ。 彼は鏡に映る自分の顔を歪め、不快そうに舌打ちをした。


「……チッ。反応が消えたか」


手元の通信用魔道具が、沈黙を守っている。 彼が極秘裏に進めていた『強化実験体・第13号』の生体反応がロストしたのだ。


「最高傑作になるはずだったのだがな。……猊下げいかへの手土産にはならんか」


ネブラは無造作に魔道具を懐にしまうと、陰湿な笑みを浮かべた。


「まあいい。所詮は獣だ。……次は、もっと『壊れにくい』素材を使うとしよう」


彼はきびすを返し、闇の奥へと消えていった。


◇◆◇


王城、謁見の間。


討伐を終え、私たちは再び女王の御前ごぜんに立っていた。 報告を済ませると、エリメディア女王は満足げに頷いた。


「大儀であった。長きに渡り王都を脅かした魔獣を討ち、民の不安を取り除いたこと、評価に値する」


女王の視線が、リエルの腕の中で眠るルゥへと向けられる。 そして、名残惜しそうにルゥを見つめるシルヴィアを一瞥し、微かに苦笑した。


「アルスよ。その獣、本来あるべき場所へ帰すのであろう?」


「はい。この子は本来、西のゼファー公国近隣の聖域に生息する種族です」


「ならば、その役目、そなたらに任せよう。ゼファーまでの旅の安全を保障する『王家御用達の証』を与える」


「御意。謹んでお受けいたします」


私は深く頭を下げた。 これでお墨付きを得た。西への旅路は、これまでよりずっと快適になるだろう。


こうして、私たちは新たな仲間(?)と共に、西へと旅立つことになった。 背後でシルヴィアが「ルゥちゃん……また会おうな……」と小声で別れを告げているのを聞きながら、私は城を後にしたのだった。

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