新たな街と食事
朝になると俺とシオリは荷物をまとめて出た。宿屋の主人には少し前から話を通していたので、宿代も全てまとめて支払ってある。
朝の空気はとても新鮮だが、まだ春先ということもあって少し冷たい。隣には子供服に身を包んだ、シオリが立っている。
シオリは辺りを見渡しながらも、寒いからか、両手を合わせて息を吹きかけている。
「寒いか?」
「…だいじょうぶ」
「本当に大丈夫なのか?」
「だいじょうぶ!」
それならいいが、こんなところで風邪を引かれても困るため、荷物からマフラーを取り出した。念のため、買っておいてよかったな。
「俺のだから、大きいがそこは我慢してくれ」
シオリにマフラーを渡して、俺は足を進める。隣ではマフラーをしながら必死に付いて来るシオリの姿があった。
―――――――
朝に出発するという決断は正しかったようだ。この速度で行けば、暗くなる頃には街につきそうだ。
まぁ…街と言っても目的の場所ではない。ただ目的の場所に行くまでのルートにある町だ。でも、計算では1日ぐらい野宿をしてからその場所に着く予定だったのだ。それを考えればこの速度はかなり早いと言える。
一番の想定外としてはシオリが思っていたより、体力があるということだ。それのお陰で思っていたよりも早く着くことができる。
奴隷として色んなことをしてきたからなのか、それとも元々エルフという種族は人間よりも体力があるのか分からないが、今はそんなことどうでもいい。
「あと少し頑張れば今日中に着ける」
「うん」
「休むか?」
「ううん」
であればこのままの速度で行くのが一番いい。シオリは野宿には慣れていない。奴隷としての日々を考えれば野宿はそんな問題ではないと思うが、子供の体ということを考えればやはり普通の宿に泊まらせるのが得策だ。変に体調を崩されても、面倒だし、何より早く金を稼がないといけない。
レンタル彼氏の需要があることはわかった。だが、あくまで未来は不透明だ。大金持ちになれるかもしれないし、生活に困らないぐらいの金額を稼げるかもしれないし、全然稼げない可能性もまだある。
また一から『レンタル彼氏』というものがあることを広めなくてはならないことを考えると、早く街に着きたい。
それからしばらく街道を歩いていくと、日が暮れ始める頃に着いた。
「一先ず、着きそうだ」
「よかった」
「まぁ…宿の確保が急務だな。食事はその後だ」
シオリは首を縦に振って、付いて来る。本当にシオリはどんなことを言っても黙って付いてきそうな感じがする。
これが奴隷としての生き方なのか、それとも俺が怖いのかは分からないが、今のところは有難い。ここで子供特有の我儘を言われたら、俺はキレるかもしれないし。
少し割高だったが、他の宿屋を探すよりもいいという考えの元、近くの宿屋に決めた。最低限の荷物と金を持って、シオリと街へ繰り出す。
「何か食べたいものがあるか?」
「…ひろのすきなものでいい」
「俺は別に何でもいい。今日ぐらいはお前の好きなものでいいと思うが」
俺は元々、食事にそこまで関心がない。普通に食べられるものであれば何でもいいし、出来ることなら安い食べ物で済ませたい。
だが、今日この時間帯にたどり着けたのはシオリがそれなりに頑張ったからだ。その頑張りを考えれば夕食を選ばれるぐらいは別にいいだろう。
「金銭を気にしているなら今日だけは別にいい。そこまでの余裕はないが、今日ぐらいはお前の好きになものを食べるでいいんじゃないか」
シオリと接して思うのは…頭が良い。俺はシオリのことを奴隷として買ったわけではない。だが、シオリの保護者のようなものだ。そしていつ俺に捨てられるか分かったものではないという気持ちがシオリの中にあるからこそ、あまり意見を言わないのかもしれない。
「お前が食べたいものを食べに行くぞ」
今回は譲らず、シオリの好きなものを食べに行く。多少強引にでもこうしておかないとシオリの中に欲というものが生まれずらい。
いつまでシオリのことを手元に置いておくかは分からないが、少なくとも奴隷という環境から普通のエルフのラインにまでは引き上げてあげたいとは思っている。
こいつがどんな道を進んで行くかはこいつの自由だがな。
そして結局、俺とシオリは宿屋の近くにあったお店に入った。エルフは肉とかを食べないのかとも一瞬、思ったが、別にそんなこともないようで普通に食ってた。
本人にそのことを聞いたら「おにく、おいしい!」と言っていたので、少なくともこの世界においてはエルフも普通に人間の食事を食べるということなのだろう。
それか、シオリがおかしいのか。
その辺りは分からないが、今は食事を楽しもう。




