街を出る前の挨拶
街を出る決断をした、翌日にサナと会うことにした。
一応、お客さん第2号だし、あまり雑な扱いをして変な噂を広げられるのも勘弁だからな。
目の前に立っているサナはなぜ呼ばれたのか分かっていないだろうから、少しそわそわしているように映る。
「サナ、申し訳ありません」
「どうしたんですか?」
「いえ、急ぎで引っ越すことになってしまいまして、サナさんとのデートができる日程の確保がどうしてもできなくなってしまいました」
他人の奴隷を奪って、匿っているなんてバレたらどんな罪になるか分かったものじゃない。特にあいつの所有者が金持ちだったり、国の中枢を支えているような人間だったら極刑になる可能性だって全然あるしな。
俺としては奴隷のことで引っ越すだけなのだが、サナにはどうやら自分とデートをしたくないから言い訳をしているように聞こえてしまっているようだった。
「そ、そうですか……やっぱり我にデートなんて…っ…」
「いえ、そんなことありません。俺もサナさんとデートができるのを楽しみにしていたんです。ですが、どうしてもすぐにこの街を出なくてはいけなくて」
新たな街でもレンタル彼氏として活動していく予定だ。正直、俺は魔法も肉体労働も出来そうにないので、レンタル彼氏で生計を立てるしかない。
一つの信用失墜が、二度と利用してくれなくなる可能性もある。只でさえ、お客様に二号なのだ。ここでサナに悲しい想いだけさせて終わったら、サナは悪いイメージを同族や周りの人間に伝えるかもしれない。
となるとここで俺が取るべき行動は一つだ。
俺はサナの頭を優しく撫でながら、ケモ耳に呟く。
「俺は本当にサナとデートをしたかったんだ。この気持ちは本気だから、信じて欲しい」
少しでもこれでサナの心から悲しい気持ちや俺のことを憎む気持ちがなくなればいい。
そしてあとしっかりと念のため、俺の居場所を書いた紙を渡しておく。
「もし、サナがよければ俺はこの街にいるはずだから、良かったら訪ねてきてよ。そしたら今回は俺の所為でデートがダメになっちゃったから、無料でデートをさせてもらいますよ」
俺が奴隷を連れ去っている犯人だとバレた時のため、あんまり居場所の開示はしたくない。だが、ここで貴重なお客さんを手放すのは本当にもったない。
なので、タダでデートをしてあげるという餌を吊るしておくことにした。サナは掲示板を見て、レンタル彼氏をして欲しいと言って来た。そしてサナはそれなりに顔立ちも整っている獣なので、この世界でオスを求めている部類だ。
そういう獣に無料でデートをしてあげるという餌はそれなりに良いもののはずだ。これで釣れなかったら仕方ないので諦めることにする。
「…今度は本当に我とデートをしてくれるんですか?」
「もちろん。俺もサナとのデートを楽しみにしていたんだから」
「絶対に?」
「絶対ですよ。俺はサナとデートをします」
これで押し切れればお客さんを逃さないで済むのはありがたい。只でさえ、お客様は貴重な存在なのだから。
「…わかりました。我、絶対にヒロさんのところにいきます!」
「お待ちしていますね。その時はサナさんに夢のような時間を提供することを約束します」
「楽しみにしています」
これでお客様の引き留め完了。絶対にサナが次に滞在する街に来てくれるかは分からないものの、出来ることはした。これでダメであれば諦めが付く。
そして僕はサナと別れた。




