チームワークで乗り越えろ?(その1)
あれから1週間後、実習は登山という名の試練へと姿を変えた。往復で丸1日かかる道のりは、ただの体力勝負ではなく、信頼と決断力が試される舞台だった。
チームは、ミナト、ツバサ、サクラ。
この絶妙すぎる組み合わせに、ミナトは「これはもはや配置ミスではなく、学校側の陰謀だ!」と内心で叫ぶ。しかし、例によって脳天気な彼はその考えを5秒後に忘れた。
持ち物は水2リットル、地図、スマホのみ。サクラはチョコレートをこっそり忍ばせ、ミナトは「スマホがあれば楽勝だろ!」と楽観。しかし、登山開始直後、GPSが使用不能と判明。瞬間、空気は一変した。
地図を広げた瞬間、ドラマの幕は上がる。
ツバサは地図を凝視し、眉間に深い皺を刻みながら低く呟いた。
「……現在位置、標高20メートル。太陽の角度、影の長さ、風向きから、北東ルートが唯一の正解だ」
その声には深い確信と、揺るぎない自信が込められていた。しかし、ミナトは悠然と地図を逆さまにし、眩しいほどの笑顔で指差す。
「いや、俺の直感がこっちって叫んでる!」
「直感……?!」
ツバサの目が鋭く光り、風が一陣吹き抜け、まるで全世界がその瞬間を固唾を飲んで見守るかのようだった。
「直感など、ただの一時的な感覚の産物だ。論理とデータこそが真実を導く!」
二人の間に走る緊張感は、まるで戦場のそれ。壮大なBGMが聞こえてきそうな勢いで、視線が火花を散らす。
沈黙。
その静寂を破ったのは、サクラの明るすぎる声だった。
「えーっと、じゃあ間を取って斜めに進もう!」
瞬間、雷鳴が轟いたかのような効果音(※実際は幻聴)
ミナトは膝をつき、地面を叩きながら叫ぶ。
「斜め!?その発想は…革命的ッ!!」
ツバサは目を見開き、顔に浮かぶのは衝撃と困惑の入り混じった表情。
「……非効率極まりない選択だ。しかし……なぜだ、この感情は……!」
サクラは無邪気に笑い、「だって、道ってまっすぐじゃつまんないでしょ?」と一言。まるで哲学者のような深みすら感じさせるその言葉に、ミナトとツバサは何か大切なものを思い出した気がした。
その後もツバサは「気圧差」や「地形の傾斜角度」を駆使して緻密なルート分析を続け、ミナトは「この岩、ゴールっぽさMAX!」と直感で突き進む。そしてサクラは「この木からはポジティブオーラが出てる!」と天然発言を繰り出す。
ついには、ツバサがミナトの直感に振り回されながらも、サクラの天然発言で冷静さを取り戻すという、奇跡のバランスが生まれていた。
合理性、直感、天然。この三つの要素が織りなすその登山実習は、まるで壮大なドラマ。緊迫と笑いが交錯する。
昼食時が迫る頃、青空の下で照りつける太陽が一段と眩しく感じられた。ミナトたちは登山の中間地点である祠に辿り着いた頃には、進捗も半分を超え、汗が額を流れるほど。水筒の水も半分ほど消費しており、ミナトは「水分補給、大事だよなぁ」と思いながらも、すでに飲みすぎたかもと少し後悔していた。
その一方で、ツバサは冷静そのもの。水分の摂取量を理論的に計算し、必要な分だけを正確に補給していた。汗の量、体温、日射角度まで考慮し、まるで精密な機械のように行動する。
ミナト(心の声):「よくそんなに計算できるよなぁ…僕なら、喉が渇いたらゴクゴクいっちゃうのに」
祠に到着すると、サクラが目を輝かせてお札を見つけた。
サクラ:「おお!恋愛成就のお札だって!欲しい!」
ミナト:「それ、必要か?恋愛成就って…サクラ、何か狙ってるの?」
サクラ:「違うよ!お守りは気持ちが大事なの!恋愛成就とか書いてあると、なんかパワーアップした気がするじゃん!」
ミナト:「パワーアップって、RPGのアイテムじゃないんだから…」
二人のやり取りはまるで即興の漫才。サクラの天然ボケとミナトの鋭いツッコミが絶妙に絡み合うが、ツバサはその様子を冷ややかな目で見つめていた。
ツバサ:「まったく、無駄なエネルギー消費だな。目的地到達が優先事項で、余計な会話に費やす体力は非効率的だ」
サクラ:「えー、心の余裕は大事だよ!笑うことでストレスも減るし、実は効率的だったりして!」
ミナト:「お、珍しく反論してる?ツバサも実は楽しんでたりして!」
ツバサ(小さくため息をつきながら):「論理的根拠がない感情論には興味はない」
しかし、ほんの少しだけ口元が緩んでいることに気づく者はいなかった。ツバサの冷静さと、二人の天然な騒がしさが、不思議なバランスでその場を彩っていた。